取締役会を設置している株式会社において、取締役会は業務執行の決定など重要な役割を担います。
そして、代表取締役や業務を執行する取締役は、3か月に1回以上、職務の執行状況を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。
これ以外にも、取締役会での報告事項や決議事項が生じた都度、取締役会を開催する必要があります。
個々の取締役会を開催するには、原則として1週間前までに招集通知を発送することが必要です(同法368条1項)。
では、取締役会を開催する際のスケジュールは、どのように検討すればよいのでしょうか?
また、招集通知や取締役会の開催を省略することはできるのでしょうか?
今回は、個々の取締役会を開催するスケジュールの考え方について弁護士が詳しく解説します。
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取締役会の基本
はじめに、株式会社における取締役会の基本について、根拠条文をもとに解説します。
取締役会の設置義務のある会社
すべての株式会社において、取締役会の設置義務があるわけではありません。
2023年(令和5年)6月現在の法制度においては、取締役が1名のみの株式会社を立ち上げることも可能であり、中小零細企業の多くで取締役会が設置されていないのが現状です。
一方、次の株式会社では、取締役会を設置しなければなりません(同法327条1項)。
- 公開会社
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
また、取締役会はすべての取締役から組織することとされており、取締役会設置会社において、取締役は3人以上でなければならないとされています(同法362条1項、331条5項)。
取締役会の主な職務
会社法に規定されている事項や株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議する権限を有するのは、原則として株主総会です(同法295条1項)。
一方、取締役会設置会社においては、取締役会が業務執行の多くを決定する権限を有しており、株主総会が決議できる事項は、会社法に規定する事項と定款で定めた事項に限定されています(同条2項)。
なぜなら、業務執行に関する事項を決定する際などに逐一株主総会を開催していては機動力に欠け、効率的な組織運営が困難となるためです。
そこで取締役会設置会社においては、次の職務は取締役会が担うこととされています(同法362条2項)。
- 取締役会設置会社の業務執行の決定
- 取締役の職務の執行の監督
- 代表取締役の選定及び解職
とはいえ、日常の業務執行の決定をするにあたって、その都度取締役会を開催していては非常に煩雑である上、意思決定が遅延してしまいかねないでしょう。
そこで、業務執行の多くは代表取締役や業務執行取締役など、個々の取締役に委任されています。
ただし、次の事項については取締役に委任することが認められておらず、取締役会で決議しなければなりません(同法362条4項)。
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
- 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- 募集社債に関する事項
- いわゆる内部統制システムの整備
- 定款の定めに基づく取締役等の責任の免除
- その他の重要な業務執行の決定
取締役会開催スケジュールの考え方
取締役会は、年に複数回開催されます。
では、取締役会の開催スケジュールはどのように検討すればよいのでしょうか?
取締役会スケジュールの基本の考え方は次のとおりです。
代表取締役等は3か月に1回以上取締役会に報告義務がある
先ほど解説したように、株式会社の業務を実際に執行するのは、代表取締役や業務執行取締役です。
そして、これらの者は3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(同法363条2項)。
また、この報告の省略は認められていません(同法372条2項)。
そのため、取締役会設置会社ではこの報告を受けるため、少なくとも3か月に1回以上取締役会を開催する必要があります。
その他の報告や決議事項が生じた都度開催する
報告義務を果たすため取締役会は3か月に1回以上開催されるものの、重要な業務執行の決定をする必要が生じた際など、このタイミングでの決議では遅い場合も少なくありません。
その場合には、必要が生じた都度取締役会を開催します。
開催回数に明確な決まりはないものの、上場企業などではおおむね月に1回程度の頻度で取締役会が開催されることが多いでしょう。
参考までに、デロイトトーマツグループが2016年に東京証券取引所市場第一部及び市場第二部の上場企業2,502社(うち有効回答数874社)を対象に実施したアンケートによると、1年間に開催した取締役会の回数は「13回~15回」が首位(36%)となっており、次いで「16回~18回」(25%)、「10回~12回」(19%)となっています。※1
上場会社等は四半期報告のタイミングを考慮する
上場会社等は、各四半期経過後45日以内に内閣総理大臣へ四半期報告書を提出しなければなりません(金融商品取引法24条の4の7、金融商品取引法施行令4条の2の10第3項)。
この報告書の内容は、あらかじめ取締役会に報告する必要があります。
そのため、上場企業はこの四半期報告のタイミングも考慮して取締役会のスケジュールを検討する必要があるでしょう。
取締役会の個別開催スケジュール
個々の取締役会は、どのようなスケジュールで開催すればよいのでしょうか。
開催スケジュールの考え方は次のとおりです。
招集通知を発送する
取締役会は、各取締役が招集することが原則です。
ただし、定款または取締役会において取締役会を招集する取締役を定めた場合には、その取締役が招集します(会社法366条1項)。
そのため、実際には代表取締役などが招集権者として定められていることが多いでしょう。
また、その場合であっても、他の取締役は招集権者として定められている取締役に対して、取締役会を招集するよう請求することなどが可能です(同条2項)。
取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間前までに、各取締役(監査役設置会社の場合には、各取締役と各監査役)に対して招集通知を発しなければなりません(同法368条1項)。
ただし、定款で1週間を下回る期間を定めることも可能です。
また、取締役(監査役設置会社の場合には、取締役と監査役)全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく取締役会を開催することができます(同条2項)。
そのため、緊急の場合などには、招集通知を省略して直ちに取締役会を開催することも有力な選択肢となるでしょう。
なお、招集通知に記載すべき事項は会社法に特に規定はされていませんが、実務上の都合から、開催日時や場所、議題などを明記することが一般的です。
取締役会を開催する
招集通知に記載した日時において、取締役会を開催します。
取締役会の決議は、原則として議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行います(同法369条1項)。
ただし、いずれも過半数を上回る割合を定款で定めることが可能です。
取締役会終了後に作成すべき議事録の取り扱い
取締役会の終了後には、速やかに議事録を作成しなければなりません。
取締役会議事録の記載事項や取り扱いは次のとおりです。
取締役会議事録に記載すべき事項
取締役会議事録には、次の事項などを記載しなければなりません(同法369条3項、会社法施行規則101条)。
- 取締役会が開催された日時・場所(取締役等が遠隔から出席した場合には、その方法を含む)
- 特別取締役による取締役会であるときは、その旨
- 取締役会が招集権者である取締役以外からの請求によって開催されたものであるときは、その旨
- 取締役会の議事の経過の要領とその結果
- 決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役があるときは、その取締役の氏名
- 取締役会に参加した監査役等が述べた意見や発言の概要
- 取締役会に出席した執行役、会計参与、会計監査人、株主の氏名または名称
- 取締役会の議長が存するときは、議長の氏名
また、作成をした議事録には、出席した取締役と監査役が署名または記名押印(議事録が電磁的記録で作成されている場合にはこれに代わる電子署名等)をしなければなりません(会社法369条3項)。
なお、取締役会での決議事項について後に問題が生じた場合には、取締役会での発言内容によって責任の有無が左右される可能性があります。
そのため、決議された事項に対して異議を述べた場合や重要な補足意見を述べた場合などには、その発言が適切に議事録に記録されているかどうか十分に確認をしたうえで署名や押印をすることが必要です。
取締役会議事録の据置き
作成をした取締役会議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置かなければなりません(同法371条1項)。
また、株主はその権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間中いつでも、議事録等の閲覧や謄写の請求をすることが可能です。
取締役会の省略は可能?
取締役会は、その開催自体を省略することはできるのでしょうか?
取締役会の省略についてケースごとに解説します。
3か月に1度の報告は省略できない
先ほど解説した3か月に1度以上の頻度で行う取締役会への報告は、たとえ取締役等の全員が同意をした場合であっても、省略することができません(同法372条2項)。
なぜなら、次で解説する取締役会の省略ができるケースから、この報告は除外されているためです。
そのため、取締役会設置会社では、少なくとも3か月に1回以上は取締役会を開催する必要があります。
取締役会を省略する要件
一定の要件を満たした場合には、取締役会を省略することが可能です。
取締役会を省略するための要件は、取締役会が決議をすべき場合と取締役会へ報告すべき場合とで、それぞれ次のとおりです。
決議をすべき取締役会を省略できる場合
取締役会設置会社は定款で定めることにより、取締役会の開催を省略し、書面で決議することが可能となります(同法370条)。
具体的には、定款の定めをした場合において、その事項について議決に加わることができる取締役の全員が提案へ同意する書面(または電磁的記録)によって同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなされます。
ただし、監査役設置会社の場合に省略が認められるのは、監査役がその提案について異議を述べない場合に限られる点に注意しなければなりません。
報告のための取締役会が省略できる場合
取締役、会計参与、監査役または会計監査人が取締役(監査役設置会社では、取締役と監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、その事項を報告するための取締役会の開催を省略できます(同法372条)。
なお、繰り返しとなりますが、代表取締役や業務執行取締役による取締役会への業務執行状況の報告についてはこの規定が適用されず、取締役会を省略することができません。
まとめ
取締役会の個別開催スケジュールについて解説しました。
取締役会は状況によって招集通知の省略ができるほか、報告や決議のための取締役会も一定の要件のもとで省略することが可能です。
一方で省略が認められないケースも存在するため、招集通知や取締役会の開催を省略したい場合には、手続きが不適法とならないよう十分に注意しなければなりません。
取締役会の開催スケジュールの設定や省略の手続き、議事録の作成などに不安がある場合には、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。
記事監修者
森中 剛
(第二東京弁護士会)一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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