株主総会には、定時株主総会と臨時株主総会、種類株主総会が存在します。
株主総会を開催するには事前に基準日公告や招集通知などを経る必要があり、スケジュールを逆算して検討しなければなりません。
招集手続き等に不備があれば、決議不存在確認の訴えの原因となるなどトラブルに発展する可能性があります。
そこで今回は、臨時株主総会と種類株主総会の運営スケジュールや株主総会後に行う主な手続きなどについて弁護士が詳しく解説します。
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株主総会の種類
はじめに、株主総会の種類を確認しておきましょう。
株主総会には次の3つが存在します。
定時株主総会
定時株主総会とは、毎事業年度終了後一定の時期に召集すべき株主総会です(会社法296条1項)。
多くの株式会社は事業年度を1年に設定しており、その場合には毎年一度、同じ時期に定時株主総会を開催することとなります。
定時株主総会では、計算書類や事業報告の承認を行います(同法438条2項ほか)。
その他、必要に応じて役員の選任や剰余金の配当、定款の変更に関する事項などが決議されます。
臨時株主総会
株主総会は、必要がある場合にはいつでも招集することができるとされています(同法296条2項)。
臨時株主総会について会社法で定義はされていないものの、定時株主総会以外の時期に招集される株主総会を、一般に臨時株主総会と呼んでいます。
臨時株主総会では、次の定時株主総会を待っていては時期を逸する内容などについて決議がされます。
たとえば、定款の変更や取締役欠員による補充役員の選任などが決議事項とされることが多いでしょう。
種類株主総会
株式会社は、剰余金の配当や株主総会において議決権を行使することができる事項などについて異なる定めをした、内容の異なる2以上の種類の株式を発行することが可能です(会社法108条1項)。
この種類株式を発行している株式会社において開催する一定の種類株式を保有する株主の総会を「種類株主総会」といいます。
種類株主総会では、会社法に定めた事項や定款で定めた一定の事項に限って決議をすることが可能です(同法321条)。
株主総会開催スケジュールの考え方
株主総会の開催スケジュールの基本的な考え方はそれぞれ次のとおりです。
定時株主総会のスケジュール
事業年度を1年としている株式会社では、毎年1回定時株主総会を開催します。
会社法では「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と規定されているのみであり、具体的な時期についての定めはありません(同法296条1項
)。
しかし、後ほど解説する基準日との兼ね合いから、事業年度終了後3か月以内に開催されることが一般的です。
そのため、3月決算の会社が多い我が国の上場企業においては、定時株主総会が6月に集中しています。
臨時株主総会のスケジュール
臨時株主総会は文字通り「臨時」に開催する株主総会であり、開催時期や開催回数に制限はありません。
必要が生じた際にはいつでも招集することができ、規定上は年に複数回の臨時株主総会を開催することも可能です。
ただし、臨時株主総会を開催するには、後ほど解説するように招集通知などが必要となるなど、所定の手続きを踏まなければなりません。
そのため、年に複数回の臨時株主総会を開催するケースは限定的といえるでしょう。
種類株主総会のスケジュール
種類株主総会は、種類株式発行会社が所定の行為をする場合においてある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときなどに、その種類の株式の種類株主を構成員として開催されます(同法322条1項)。
種類株主総会は定時に開催されるものではないという点において、個々のスケジュールの考え方は原則として臨時株主総会と同様です。
実際に、開催スケジュールについては、株主総会の開催に関する規定が多く準用されています(同法325条)。
ただし、招集対象となる株主などが総株主ではなくその種類株式の株主に限定される点で、通常の株主総会とは異なります。
臨時株主総会や種類株主総会の開催スケジュール例
臨時株主総会や種類株主総会の開催スケジュールの例は、次のとおりです。
ここでは、主に臨時株主総会を念頭に置いて解説します。
ただし、種類株主総会であっても対象となる株主が異なるのみで、基本的な流れは同様です。
日程 | 法定期間・期限 | 手続 |
---|---|---|
6月末 | 定時株主総会終了 監査役会議長・特定監査役(※)・常勤監査役(※)の選定決議 監査役の報酬協議(※) |
|
7月頃 | 監査方針・計画決議(※) 会計監査人の監査計画報告 |
|
9月頃 | 期中監査活動報告 | |
10月頃 | 期中監査活動報告 | |
12月頃 | 会計監査人中間監査結果報告 期中監査・中間結果報告 |
|
2月頃 | 期中監査活動報告 | |
4月頃 | 期中監査・期末結果報告 監査役の選任同意(※) 会計監査人の監査報酬同意(※) |
|
5月頃 | 会計監査人の会計監査報告 期末監査結果報告 監査役会監査報告作成決議(※) 会計監査人の任免決議(※) 株主総会提出議案及び書類確認報告(※) |
基準日公告
株主総会で決議ができる株主は、原則として株主総会当日に株主名簿に記載されている株主です。
しかし、この原則を適用すると、株主総会の前後で株主が入れ替わった場合に混乱が生じてしまいかねません。
そこで、権利を行使できる者を、一定の日に株主名簿に記載または記録されている株主に定めることが可能です(同124条)。
この一定の日を「基準日」といい、基準日時点の株主を「基準日株主」といいます。
基準日を定めた場合には、会社はその基準日の2週間前までに次の事項を公告しなければなりません。
- その基準日
- 基準日株主が行使することができる権利の内容
なお、これらの事項を定款に定めている場合には基準日公告を省略することができ、多くの株式会社では定款にこの定めを置いているため、定時株主総会では基準日公告が不要となることが一般的です(同法124条2項但書)。
一方、臨時株主総会はその性質上、基準日をあらかじめ定款に定めることは困難であるため、原則どおり基準日公告が必要となります。
基準日の到来
定時株主総会の場合には、基準日は事業年度末日とされることが一般的です。
一方、臨時株主総会は文字通り「臨時」に開催されるものであるため、臨時株主総会の日から逆算して基準日を定めることとなります。
基準日株主が行使することのできる権利は基準日から3か月以内に行使するものに限るとされているため、基準日から株主総会までの期間は、3か月以内としなければなりません(同法124条2項)。
議題提案権行使等の期限
株主は取締役に対して、一定の事項を株主総会の議題とするよう請求することができます(同法303条)。
また、株主は、株主総会において株主総会の目的である事項について議案を提出したり、その議案の要領を株主に通知するよう請求したりすることも可能です(同法304条、305条)。
これらを行うことのできる期間は、原則として株主総会の日の8週間前までです。
ただし、これを下回る期間を定款で定めた場合には、その規定に従います。
なお、取締役会設置会社においては、これらの請求ができる株主は次のいずれかを6か月前から引き続き有する株主に限られます(同法303条2項、305条1項)。
- 総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権
- 300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権
ただし、非公開会社の場合には「6か月前から」の保有要件はありません(同法303条3項、303条2項)。
招集通知等の発送
株主総会を招集するには、取締役は株主総会の2週間前までに招集通知を発しなければなりません(同法299条1項)。
ただし、非公開会社は2週間前までではなく1週間前までに発送すればよいこととされています。
また、取締役会設置会社でない株式会社は、さらに短い期間を定款で定めることも可能です。
議決権不統一行使の通知期限
株主は、その有する議決権を統一しないで行使することが可能です(同法313条1項)。
ただし、取締役会設置会社において議決権の不統一行使をする株主は、その株式会社に不統一行使をする旨とその理由を通知しなければなりません(同条2項)。
この不統一行使の通知期限は、株主総会の3日前までです。
なお、この株主が他人のために株式を有する者でないときは、株式会社は不統一行使を拒むことが可能です(同法3条)。
議決権行使書の提出等期限
書面による議決権行使の提出期限は、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時です(同法311条1項、会社法施行規則69条)。
ただし、業種によっては営業時間の終了時が明確でない場合もあるため、たとえば「株主総会前日の18時」など具体的な締切時間を定め、議決権行使書面に記載することが一般的です。
株主総会の開催
あらかじめ定めた期日に、株主総会を開催します。
株主総会は、あらかじめ十分なリハーサルや想定問答集の作成など準備をして臨みましょう。
臨時株主総会や種類株主総会後に行う主な手続き
臨時株主総会や種類株主総会の終了後には、次の手続きなどを行います。
臨時報告書の提出
上場会社は、株主総会の終了後遅滞なく、臨時報告書を作成し内閣総理大臣に提出しなければなりません(金融商品取引法24条の5第4項)。
この臨時報告書には、株主総会決議事項の内容や結果などを記載します。
議事録等の据置き
株式会社は、書面または電磁的記録をもって株主総会の議事録を作成しなければなりません(会社法318条1項)。
この議事録には、次の事項などを記録します(会社法施行規則72条)。
- 株主総会が開催された日時、場所
- 株主総会の議事の経過の要領、その結果
- 所定の規定により述べられた意見や発言内容の概要
- 株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称
- 株主総会の議長が存するときは、議長の氏名
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
作成した議事録は、次の期間据え置きしなければなりません(会社法318条2項、3項)。
- 本店:株主総会の日から10年間
- 支店:株主総会の日から5年間
併せて、議決権行使書面や議決権行使にあたって提出された委任状も、株主総会の日から3か月間本店に据え置くことが求められます(同法310条6項、311条3項)。
登記
株主総会において役員の選任や解任がされた場合など登記事項に変更を生じた場合には、2週間以内に変更登記をしなければなりません(同法915条1項)。
期限が短いため、あらかじめ可能な準備を進めておくことをおすすめします。
まとめ
臨時株主総会や種類株主総会の運営スケジュールについて解説しました。
これらは定時株主総会とは異なり、原則として前年のスケジュールをそのまま踏襲することはできません。
そのため、臨時株主総会等を開催する際には改めて根拠法令等にあたり、適切なスケジュールを設定するよう注意しましょう。
また、今回解説したものはあくまでも一般的なケースであり、組織形態や状況によってはこれら以外の手続きが必要となったり一部の手続きが省略可能であったりする場合があります。
自社のみで株主総会のスケジュールを組み立てることに不安がある場合には、機関法務にくわしい弁護士にサポートを受けることを検討するとよいでしょう。
記事監修者
伊藤 新
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。
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