株式会社においては、さまざまな機関運営が検討できます。
もっともシンプルで機動的な機関設計は、株主総会と取締役のみの設計でしょう。
零細企業においては、このような組織形態がもっとも一般的です。
しかし、このような機関運営ではガバナンスが効きづらく、ステークホルダーにとって不利益が生じるかもしれません。
そこで、大会社や公開会社などステークホルダーが多い株式会社では、よりガバナンスが効きやすい機関設計が求められています。
では、株式会社の機関運営はどのように検討すればよいのでしょうか?
また、株式会社の機関はそれぞれどのような役割を担うのでしょうか?
今回は、株式会社の機関運営について弁護士がくわしく解説します。
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株式会社の代表的な機関
はじめに、株式会社における主な機関を紹介します。
それぞれの機関の概要と主な役割はそれぞれ次のとおりです。
株主総会
株主総会とは、その株式会社の株主によって構成される会社の意思決定機関です。
株式会社である以上、必ず株主総会が存在します。
たとえ株主が1人しかいない場合であっても、株主総会のない株式会社は存在しません。
株主総会は、しばしば「株式会社における最高意思決定機関」と称されます。
その呼称のとおり、株主総会は会社法に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることが可能です(会社法295条1項)。
ただし、取締役会設置会社である場合には、株主総会が決議できるのは次の事項など会社法に定められた一定の事項と定款で定めた事項に限ることとされ、株主総会の権限が制限されています(同条2項)。
- 役員(取締役・監査役・会計参与)や会計監査人の選任、解任に関する事項(同法329条1項、339条1項など)
- 定款変更や合併・会社分割、解散など、会社の基礎的変更に関する事項(同法466条、795条1項、471条など)
- 株式併合や剰余金の配当など株主の重要な利益に関する事項(同法180条、454条など)
- 取締役の報酬の決定など取締役に委ねると株主の利益が害されるおそれが生じる事項(同法361条1項など)
これは、株主総会の決定権限を重要事項に限定しつつ、株式会社の業務執行について取締役会に委ねることで、会社経営の機動性などを確保するためです。
業務執行の都度株主総会を開催していては、意思決定の時期を逸してしまいかねません。
株主総会は、その開催時期によって次の2つに分類されます。
- 定時株主総会:毎事業年度の終了後一定の時期に召集すべきとされている株主総会(同法296条1項)
- 臨時株主総会:必要がある場合にいつでも招集できる株主総会(同条2項)
取締役
株主総会のほか、株式会社にもう一つ必須となる機関は取締役です。
株式会社には、1人または2人以上の取締役を置かなければなりません(同法326条)。
株主が会社の所有者であることに対し、取締役は会社の業務の決定や執行をする機関です。
会社法の規定により、次の者は取締役になることができません(同法331条1項)。
- 法人
- 会社法の規定に違反するなど所定の罪を犯し、刑に処せられその執行を終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
なお、公開会社では取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができませんが、非公開会社ではこのような定めをすることが可能です(同条2項)。
実際に、零細企業などでは「株主=取締役」というケースが大半でしょう。
取締役会
取締役会とは、すべての取締役から組織される機関です(同法362条)。
取締役会を設置するには、取締役は3人以上でなければなりません(同法331条5項)。
取締役会は、次の職務を担います(同法362条2項)。
- 取締役会設置会社の業務執行の決定
- 取締役の職務の執行の監督
- 代表取締役の選定及び解職
取締役会が設置されている会社であっても、日常の職務執行については、代表取締役やその他の業務執行取締役へ委任されることが一般的です。
何かを決める際に、逐一取締役会を開催することは現実的ではないためです。
そして、代表取締役や業務執行取締役は、3か月に1回以上自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(同法363条2項)。
ただし、次の職務は個々の取締役へ委任することができず、取締役会で決議することが必要です(同法362条4項)。
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
- 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- 募集社債に関する事項
- いわゆる内部統制システムの整備
- 定款の定めによる取締役等の責任の一部免除
- その他の重要な業務執行の決定
監査役
監査役は、取締役(会計参与設置会社では、取締役と会計参与)の職務の執行を監査する機関です(同法381条1項)。
監査役の監査対象は、原則として会計監査と業務監査の双方に及び、監査役は取締役などに対して事業の報告を求めたり取締役会に参加して意見を述べたりする権限を有します。
ただし、非公開会社のうち、次のいずれにも該当しない株式会社は、定款に定めを置くことで監査役の監査範囲を会計に関するものに限定することが可能です(同法389条1項)。
- 監査役会設置会社
- 会計監査人設置会社
なお、監査役は、自分の会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることができません(監査役の兼任禁止、同335条2項)。
監査役会
監査役会とは、その株式会社のすべての監査役で組織される機関です(同法390条1項)。
監査役会を設置する場合には監査役は3人以上必要であり、そのうち半数以上は社外監査役でなければなりません(同法335条3項)。
監査役会は、次の職務を行います(同法390条)。
- 監査報告の作成
- 常勤の監査役の選定と解職
- 監査の方針、監査役会設置会社の業務や財産状況の調査の方法、その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定
監査役会が設置されている場合であっても、監査役はそれぞれが独立して権限を持つ「独任制」とされています。
そのため、上記「3」の決定は、各監査役の権限行使を妨げることはできません(同条2項)。
会計監査人
会計監査人は、株式会社の計算書類やその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を監査する機関です(同法396条1項)。
監査役とは異なり、会計監査人による監査対象は計算書類など会計に関する部分のみであり、業務監査までには及びません。
なお、会計監査人となれるのは、公認会計士または監査法人のみとされています(337条1項)。
公開会社や大会社では、監査法人を会計監査人とするケースが多いでしょう。
会計参与
会計参与とは、取締役と共同して計算書類や附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を作成する機関です(同法374条1項前段)。
会計参与は、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人のいずれかでなければならなりません(同法333条1項)。
指名委員会等設置会社の三委員会
指名委員会等設置会社とは、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会を置く株式会社です(同法2条1項12号)。
それぞれの主な役割と権限は次のとおりです(同法404条)。
- 指名委員会:株主総会に提出する取締役や会計参与の選任・解任に関する議案の内容の決定
- 監査委員会:執行役等による職務執行の監査及び監査報告の作成、株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに再任しないことに関する議案の内容の決定
- 報酬委員会:執行役等の個人別の報酬等の決定
これらの3つの委員会をあわせて「指名委員会等」と呼びます。
執行役
執行役とは、指名委員会等設置会社において選任される、業務執行の決定をする取締役です(同法402条1項、418条)。
執行役は、取締役会の決議によって1人または2人以上が選任されます(同法402条1項、2項)。
執行役が2名以上いる場合には、その中から代表執行役を選定しなければなりません(同法420条1項)。
指名委員会等設置会社と執行役との関係は委任に関する規定に従うこととされているため、執行役は善管注意義務を負いつつ株式会社の業務を執行します(同法402条3項)。
監査等委員会
監査等委員会とは、取締役による業務執行の適法性や妥当性を監査する株式会社の機関です。
この監査等委員会を設置した株式会社を「監査等委員会設置会社」といいます(同法2条1項11の2号)。
監査等委員会設置会社における監査等委員会の職務は次のとおりです(同法399条の2第3項)。
- 取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役と会計参与)の職務執行の監査と監査報告の作成
- 株主総会に提出する会計監査人の人事に関する議案の内容の決定
- 監査等委員以外の取締役の選任や報酬などに関する意見の決定
機関設計のパターン:非公開会社の場合
株式会社の機関設計は、自由に行えるわけではありません。
たとえば、監査役会設置会社では取締役会を設定しなければならないなど、機関設計にはいくつかのパターンが存在します。
非公開会社である場合における主な機関設計のパターンは、大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社)と非大会社とでそれぞれ次のとおりです。
なお、株主総会はすべての株主総会に設置されるものであるため、ここではあえて記載していません。
非大会社
非公開会社で、かつ非大会社の場合における機関設計のパターンは次のとおりです。
- 取締役のみ
- 取締役+監査役
- 取締役+監査役+会計監査人
- 取締役会+会計参与
- 取締役会+監査役
- 取締役会+監査役会
- 取締役会+監査役+会計監査人
- 取締役会+監査役会+会計監査人
- 取締役会+三委員会+会計監査人
- 取締役会+監査等委員会+会計監査人
この場合には、機関設計の自由度がもっとも高くなっています。
大会社
非公開会社で、大会社の場合における主な機関設計のパターンは、次のとおりです。
- 取締役+監査役+会計監査人
- 取締役会+監査役+会計監査人
- 取締役会+監査役会+会計監査人
- 取締役会+三委員会+会計監査人
- 取締役会+監査等委員会+会計監査人
大会社の場合には、会計監査人の設置が義務付けられている点が大きな特徴です。
機関設計のパターン:公開会社の場合
公開会社においては株主の権利を守る必要がより高いことから、非公開会社よりも機関設計の自由度が制限されています。
公開会社である場合における主な機関設計のパターンは、大会社と非大会社とでそれぞれ次のとおりです。
公開会社においては取締役会の設置が義務付けられている点が大きな特徴です。
なお、会社法における公開会社とは、その発行する株式の全部または一部に譲渡制限が付されていない株式会社を指し、公開会社がすべて上場会社ということではありません(同2条1項5号)。
上場会社であればすべてが公開会社である一方で、上場していない公開会社も存在します。
非大会社
公開会社で、かつ非大会社の場合における機関設計のパターンは次のとおりです。
- 取締役会+監査役
- 取締役会+監査役会
- 取締役会+監査役+会計監査人
- 取締役会+監査役会+会計監査人
- 取締役会+三委員会+会計監査人
- 取締役会+監査等委員会+会計監査人
大会社
公開会社で、かつ大会社の場合における機関設計のパターンは次のとおりです。
- 取締役会+監査役会+会計監査人
- 取締役会+三委員会+会計監査人
- 取締役会+監査等委員会+会計監査人
機関設計の考え方
株式会社の機関設計における基本の考え方は次のとおりです。
中小企業では機動力を重視した設計が基本
中小企業においては、会社の意思決定を迅速に行う必要があります。
そのため、意思決定に時間がかかりにくい機動力を重視した機関設計が基本となるでしょう。
もっとも機動力のある機関設計は、取締役のみの株式会社です。
公開会社や大企業ではガバナンスを重視した設計が基本
公開会社や大会社では、会社に関わるステークホルダーが多くなる傾向にあります。
そのため、よりガバナンスを重視し、不正が起きにくい体制の構築が必要となるでしょう。
経営陣を監査する監査役会や会計監査人を設置することで、より安定感のある経営が可能となります。
まとめ
株式会社の機関設計には一定のルールがあり、自由に設計できるわけではありません。
特に公開会社や大会社ではステークホルダーが増える分、不正が起きにくい仕組みを構築することが求められます。
それぞれの機関設計には一長一短があり、ガバナンスと機動力を両立することは困難です。
また、企業のステージや目指すべき方向性などによって最適な機関設計は異なります。
機関設計でお悩みの際には機関法務に詳しい弁護士へ相談し、サポートを受けることをおすすめします。
記事監修者
山口 広輔
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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