コラム

交通事故による被害で複数の後遺障害が出た際に併合できる種類を詳しく解説

交通事故の被害に遭い、2つ以上の後遺障害が残った場合は、等級の認定において通常とは異なるルールが適用されます。 しかし、「交通事故で複数の後遺障害が残った時はどのような扱いになるのだろう?」と疑問に思っても、具体的にどのような決まりになっているのかは分かりにくいですよね。 そこで今回は、複数の後遺障害が残った場合の「併合」という取り扱いについて分かりやすく解説します。 併合は後遺障害と認定された場合の等級に大きく影響しますので、ぜひご一読ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、桐蔭法科大学院法務研究科修了。交通事故分野を数多く取り扱うほか、相続、不動産、離婚問題など幅広い分野にも積極的に取り組んでいる。ご依頼者様の心に寄り添い、お一人おひとりのご要望に応えるべく、日々最良のサービスを追求している。
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後遺障害等級の「併合」とは

後遺障害が残った場合は、通常、その症状に応じて1級~14級のいずれか1つの等級に認定されます。
しかし、後遺障害が1つではなく複数あると、「2つの後遺障害のうち1つが8級、もう1つが11級」のように、それぞれの症状がバラバラの等級に該当してしまうことがあります。

こうなると、重い方の後遺障害等級である8級に認定するとしても、もう1つ11級の障害も残っているのだから、8級では軽すぎるように思えますね。
「8級よりも重度の後遺障害である」と認定するのが適切なように感じられます。

このように複数の後遺障害が残ったケースでは、「後遺障害の併合」という考え方が用いられます。

併合の基本原則

併合とは、2つ以上の後遺障害をまとめて1つの等級に当てはめることです。
その後遺障害の等級によっては、複数ある後遺障害のうち、重い方の障害の等級を繰り上げて認定されることがあります。

では、具体的に何級のときにどれだけ等級が繰り上げられるのでしょうか。
原則的なルールを見ていきましょう。

① 5級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある

この場合、重い方の等級が3等級上がります。
例えば4級と5級の併合であれば、4級が3等級繰り上がり、併合1級になります。

② 8級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある

この場合、重い方の等級が2等級上がります。
例えば5級と8級の併合であれば、5級が2等級繰り上がり、併合3級になります。

③ 13級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある

この場合、重い方の等級が1等級上がります。
例えば10級と12級の併合であれば、10級が1等級繰り上がり、併合9級になります。

④ 14級に該当する後遺障害が2つ以上ある

複数の後遺障害が残っても、それがいちばん低い等級である14級だけというケースもあります。
この場合、呼び名は併合14級に代わるものの、等級は繰り上がることなく14級のままです。

なお、これらに該当しない、例えば11級と14級という組み合わせの場合、繰り上がりなしで単純に重い方の11級と認定されます。

後遺障害の併合の例外

先に説明したルールはあくまでも原則ですので、全ての事例で当てはまるとは限りません。
ここからは、併合の原則とは異なるケースをご紹介します。

併合されることによって1級以上になる場合

最も重い等級は「1級」です。
よって、例えば2級と5級の併合であっても、2級が繰り上げられて1級以上になることはありません。

繰り上げが妥当でない場合

併合の原則どおりに等級を繰り上げることで、等級の序列を乱してしまうことがあります。
そのような場合は、序列を乱さない範囲内で認定されることになります。

例えば以下のような事例が当てはまります。
(例)

  • ・ 右足をひざ関節の上で喪失(第4級5号)
  • ・ 左足を足首の上で喪失(第5級5号)

この場合、原則をそのままあてはめると、4級を3つ繰り上げて併合1級になるはずです。

しかし、実際の後遺障害1級においては、足の障害として以下の2つが定められています。

  • ・ 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
  • ・ 両下肢の用を全廃したもの

これと比較すると、例に挙げた「片足は膝関節が残っている」という状態を1級と認定するのは明らかに不適切で、序列を乱すと考えられます。
したがって、原則どおり3等級繰り上げるのは妥当ではないため、1級の直近下位である2級と判断されます。

後遺障害の併合ルールが適用されないもの

後遺障害認定_ルール

そもそも併合することが妥当ではないパターンも存在します。

介護が必要な後遺障害の場合

介護が必要な後遺障害がある場合は、複数であっても併合されることはありません。

等級表に記載されている要介護の後遺障害の内容は以下のとおりです。

等級 介護を要する後遺障害
第1級 1. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級 1. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

1級と2級の違いは、介護が常に必要か、随時必要かという点ですが、介護を要する頻度が2種類同時に存在することはありえません。
したがって、種類の異なる後遺障害が複数残ったとは判断されず、どちらか1つの等級に認定されます。

同じ系列の後遺障害の場合

後遺障害等級の認定基準では、体の部位を10種類に分類し、さらに各部位を機能ごとに分類することで、35種類の「系列」に分類しています。
また、障害は部位そのものに生じる障害である「器質的障害」と、機能に障害が生じる「機能的障害」に分かれます。

この系列が別であれば併合の対象となりますが、同じ系列内に複数の障害があると、同じ部位の後遺障害を二重に評価することになってしまうおそれがあります。
そのため、同系列の障害が複数あっても併合はされません。

障害の系列は以下の障害系列表のとおりです。

部位 器質的障害 機能的障害 系列
眼球(両眼) 視力障害 1
調節機能障害 2
運動障害 3
視野障害 4
まぶた 欠損障害 運動障害 5
欠損障害 運動障害 6
内耳等(両耳) 聴力障害 7
耳かく(耳介) 欠損障害 8
欠損障害 9
欠損および機能障害 10
咀嚼および言語機能障害 11
歯牙障害 12
神経系統の機能又は精神 神経系統の機能又は精神の障害 13
頭部、顔面、頚部 醜状障害 14
胸腹部臓器(外生殖器を含む) 胸腹部臓器の障害 15
体幹 脊柱 変形障害 運動障害 16
その他の体幹骨 変形障害 17
上肢 上肢 欠損障害 機能障害 18
変形障害 19
醜状障害 20
欠損障害 機能障害 21
変形障害 22
醜状障害 23
手指 欠損障害 機能障害 24
欠損障害 機能障害 25
下肢 下肢 欠損障害 機能障害 26
変形障害 27
短縮障害 28
醜状障害 29
欠損障害 機能障害 30
変形障害 31
短縮障害 32
醜状障害 33
足指 欠損障害 機能障害 34
欠損障害 機能障害 35

組み合わせ等級の場合

後遺障害の系列が異なる場合は併合される、と先にご説明しましたが、これには例外もあります。
それは、最初から異なる系列を組み合わせて等級が定められている「組み合わせ等級」の場合です。

障害系列表では「下肢」は右と左で別の系列に分かれており、すなわち右足と左足では系列が異なります。
しかし、例えば後遺障害第1級5号で「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」と定められているように、左右対の障害を組み合わせた後遺障害等級がある場合は、この組み合わせ等級が併合よりも優先します。
そのため、組み合わせ等級に該当する場合は併合による等級の繰り上げは適用されません。

後遺障害の併合で注意すべきポイント

後遺障害の等級認定で上位の等級が認められれば、後遺障害慰謝料や逸失利益などといった損害賠償の金額が大きく変わってきます。
では、適切な併合等級に認定される可能性を上げるためには、どのような点に注意すべきなのでしょうか。

適切な内容の後遺障害診断書を取得する

後遺障害認定申請のために必要な書類の中でも、具体的な症状や必要事項が漏れなく記載された後遺障害診断書は非常に重要です。
併合によって後遺障害等級が大きく変わる可能性があるのであれば、その重要性はさらに高いと言えるでしょう。

必要な内容が盛り込まれた診断書を作成してもらうためには、医師との信頼関係に基づいたコミュニケーションが大切です。
そして、後遺障害診断書に自分の体に残った症状が漏れなく記載されているかどうか、入念にチェックしましょう。

被害者請求で申請する

後遺障害認定の申請には、「事前認定」と「被害者請求」の2種類があります。

事前認定とは、加害者側の任意保険会社に後遺障害認定の申請を任せることです。
対する被害者請求とは、被害者本人が後遺障害認定の申請をすることをいいます。

事前認定では、加害者側の保険会社がメインで動くため、被害者にとって透明性があるとは言えません。
また、もし併合を認められなかった場合、異議を申し立てるには多大な労力が必要となります。

一方、被害者請求であれば申請内容を自分で把握でき、不足がないように手続きを進められます。
適切な等級認定を受けるためには、被害者請求を選択したほうが良いといえます。

後遺障害に詳しい弁護士に依頼する

後遺障害の併合は非常に複雑で、さまざまな要素によって最終的な併合等級が決まります。
そのため、仮に併合等級が認定されたとしても、その等級が妥当なのか、自分自身で判断するのは難しい場合が多いです。

交通事故により2か所以上にケガを負い、複数の後遺障害が残る可能性がある方や、認定された併合等級が適切なものなのか不安な方は、交通事故に精通した弁護士に一度相談してみることをおすすめします。

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