コラム
2020.09.14

交通事故の被害による逸失利益について詳しく解説

交通事故の被害によって後遺症が残ると、今まで通り働くことは難しくなります。 そして、将来得られるはずだった収入が大きく減ることもありえます。 そんな場合に加害者に請求できるのが「逸失利益」です。 今回は、この聞きなれない言葉の意味や算出方法、そして金額を少しでも増やすためのポイントも含めて詳しく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、桐蔭法科大学院法務研究科修了。交通事故分野を数多く取り扱うほか、相続、不動産、離婚問題など幅広い分野にも積極的に取り組んでいる。ご依頼者様の心に寄り添い、お一人おひとりのご要望に応えるべく、日々最良のサービスを追求している。
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逸失利益とは

「逸失利益」とは、交通事故に遭わなければ本来得られるはずだった、「事故によって失われた利益」を指します。
被害者が加害者に請求できる損害賠償の1つです。

もっとも一般的なのが、給与による収入です。
また、個人事業主(自営業)や家事従事者(主婦・主夫)であっても逸失利益は認められます。

交通事故における2つの逸失利益

交通事故に遭ったために働くことができなくなり、得られなくなったお金が逸失利益です。
この逸失利益には2種類あります。

まずは死亡事故の場合です。
まだ働くことができたにもかかわらず、交通事故によって亡くなった場合は、事故がなければ将来得られるはずだった収入が「死亡逸失利益」として認められます。

また、事故によるケガ等が原因で、将来に渡って回復しない後遺症が残ることがあります。
それによって事故以前と同じように仕事ができなくなり、収入が減ってしまうこともあり得ます。
この後遺症が「後遺障害」と認定されれば、「後遺障害逸失利益」が認められます。

死亡逸失利益

不幸にも事故が原因で被害者の方が死亡してしまった場合、将来的に手にするはずだった収入を「死亡逸失利益」として請求できます。

計算方法は以下のとおりです。

基礎収入額 × (1-生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

死亡逸失利益では、生活費が控除されるのが大きな特徴です。
被害者の方が亡くなると収入が途絶える一方、将来に渡って亡くなった方の生活費はかからなくなりますので、将来得られたであろう収入から生活費の分を差し引いて計算します。

また、逸失利益は、「将来にわたって受け取る予定だった収入ぶんの金額が、前倒しで一度に全額支払われる」というものです。
その特性上、本来ならば数十年後に受け取るはずだったお金も含めてまとめて支払われます。
そうなると、まとめて受け取った逸失利益を銀行に預けるなどして運用すれば、そのぶん利息がついて、事故に遭わなかった場合よりも得をすることになってしまいます。

逸失利益の計算には、この利息分を差し引かなければなりません。
この計算を「中間利息の控除」といいます。
そのために使用されるのが、民法により定められた法定利率に基づく「ライプニッツ係数」です。

死亡逸失利益におけるライプニッツ係数は、就労可能年数に応じて定められています。
就労可能年数とは、「事故で亡くならなければあと何年働けたか」という年数で、原則として67歳までとなっています。
被害者が67歳より高齢である場合は平均余命の2分の1を、若年者である場合は18歳から67歳までの49年間を就労可能年数とするのが原則です。

後遺障害逸失利益

後遺障害により労働能力の一部、もしくは全部が失われたことにより、将来的に得られるはずだった収入の減収分が「後遺障害逸失利益」です。

計算方法は以下のとおりです。

基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

「労働能力喪失率」とは、「労働能力の何パーセントが失われたか」という割合をいいます。
後遺障害の等級に応じて割合が定められていますが、ケガの程度や事故の状況により、個別に判断されるケースも多いです。

後遺障害逸失利益におけるライプニッツ係数は、労働能力喪失期間に応じて定められています。
労働能力喪失期間とは、後遺障害によって一部または全部の労働能力が失われた期間をいい、原則として症状固定から67歳までの期間を指します。

後遺障害逸失利益は、その算定の根拠となる後遺障害等級や、そこから導き出される労働能力喪失率などについて争いになりやすいと言えます。
そこで今回は、後遺障害逸失利益をどのように算定するのか、より詳しく見ていきましょう。

後遺障害逸失利益の計算方法

後遺障害_逸失利益_計算方法

基礎収入額

原則として、交通事故前年の現実収入額が基礎収入となります。
給与所得者や事業所得者がこれに該当します。

専業主婦や学生などの未就労者の場合は、「賃金センサス」という指標を用いて基礎収入を算定します。
賃金センサスとは、厚生労働省が毎年実施する「賃金構造基本統計調査」の通称で、性別や年齢、学歴ごとの平均賃金の統計データです。

主婦(主夫)はその労働に対し現実的に金銭的対価は発生していませんが、その家事にかかった労働を賃金センサスにあてはめて評価できます。
家事従事者の場合は、男性であっても女性の平均賃金を基礎収入額とすることが多いです。

学生であれば、男女別の全年齢平均の賃金額を使用します。
将来的な男女間の賃金格差の是正を見越してか、最近では男女関係なく算出した平均賃金が用いられるケースも出てきています。

労働能力喪失率

労働能力喪失率は、事故によって労働能力の何パーセントが失われたかという割合です。
後遺障害等級に応じて、以下の表のとおり定められています。

後遺障害等級 労働能力喪失率 後遺障害等級 労働能力喪失率
第1級 100/100 第8級 45/100
第2級 100/100 第9級 35/100
第3級 100/100 第10級 27/100
第4級 92/100 第11級 20/100
第5級 79/100 第12級 14/100
第6級 67/100 第13級 9/100
第7級 56/100 第14級 5/100

最も低い第14級に認定されると、喪失率は5パーセントで、これは労働能力の95パーセントが残存していることを意味します。
最も重度の後遺障害である1級(植物状態、両目失明など)では、労働能力が100パーセント失われたものとみなされます。

労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

先にもご説明したとおり、逸失利益は将来にわたって得るはずだった利益を一括で受け取るため、中間利息を控除しなければいけません。
そこで、労働能力喪失期間に応じてライプニッツ係数が定められています。

なお、症状固定から67歳までの期間が労働能力喪失期間となることも先にご説明したとおりですが、むち打ちなどの神経症状の場合は、保険会社は3年を提示することが多く、裁判例でも5年程度と認定される場合が多いです。

後遺障害逸失利益の金額

以上のすべての数値を掛けて最終的な金額を導き出します。

基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

(例)年収400万円の給与所得者(35歳)が、交通事故により片手の親指を失った(後遺障害等級 第9級12号)。
35歳で症状固定となった場合の労働能力喪失期間は67歳までの32年となり、対応するライプニッツ係数は20.389となっています。

400万 × 35% × 20.389=2,854万4,600円

※上記係数は2020年4月1日以降に発生した事故の場合です。

後遺障害逸失利益が認められないケースとは

逸失利益は、あくまでも未来において獲得予定の利益の減少分を補償するものです。
そのため、交通事故の加害者側の保険会社は、「実際に収入の減少がなければ後遺障害逸失利益を認めない」と主張してくる場合があります。

昭和56年12月22日最高裁判決

後遺障害逸失利益と減収の関係について、有名な判例があります。
昭和56年12月22日の最高裁判決では、このように示されました。

かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。

つまり、「事故によって労働能力が失われたとしても、事故後に収入が減っていないのであれば、特段の事情がなければ逸失利益は認められない」という判決です。

しかし、判決文にもあるように、収入が減っていないとしても以下のような「特別な事情」がある場合には逸失利益が認められる傾向にあります。

  • ・ 昇給、昇進等において不利益な取り扱いをうけるおそれがある
  • ・ 収入が維持できているのは、本人の努力によるものである
  • ・ 収入が維持できているのは、勤務先の配慮や温情によるものである
  • ・ 業務に支障をきたしている
  • ・ 生活上の支障がある

適正な逸失利益を得るためには

ここまでご説明したとおり、逸失利益の金額はさまざまな要素によって大きく変動します。
では、交通事故の逸失利益として適正な金額の支払いを受けるために、どのような点に注意したらよいのでしょうか。

適正な後遺障害等級の認定を受ける

将来に渡って回復しない後遺障害について、適正な等級の認定を受けることが最も重要です。
等級によって労働能力喪失率が大きく異なるため、本来の等級より低く認定されてしまうと、受け取ることのできる逸失利益の金額が大幅に少なくなってしまいます。

等級認定の上で重要なのが、医師が作成する「後遺障害診断書」です。
障害が残ったという事実を証明するためには、医師による正しい診断が不可欠です。
すべての症状が具体的に記載されているかどうかを入念に確認してください。

基礎収入の金額を正確に算定する

給与所得者以外の場合は、特に注意したい点です。
自営業者は、前年の確定申告所得額、すなわち収入から必要経費を差し引いた金額を基礎収入とします。
確定申告に誤りがあると、基礎収入が本来の額よりも低く算定されてしまう可能性もあるため気を付けましょう。

適切な労働能力喪失期間の認定を受ける

むち打ちなどの症状だと、労働能力喪失期間が短く制限されることがあります。
しかし、仕事や日常生活への影響が大きい場合など、より長い労働能力喪失期間が認められるケースも存在します。
ただし、もし加害者側の保険会社に提示された労働能力喪失期間が短いと感じたとしても、その判断を覆す交渉には過去の事例や裁判例の知識が不可欠です。

交通事故に詳しい弁護士に依頼しよう

以上のように、適切な逸失利益を請求するためには、さまざまな専門知識が必要となります。
後遺障害診断書の記載内容が十分か、相手方保険会社から提示された労働能力喪失期間をそのまま受け入れていいのかなど、一人で判断するのは難しい局面も多いでしょう。

交通事故の逸失利益について疑問があれば、交通事故の分野に精通した弁護士に依頼するのがいいでしょう。
事故によるケガや後遺症に対する適正な損害賠償を受け取るうえで、法的観点に基づく有用なアドバイスがもらえたり、正しい数値を算出するのを手助けしてもらえたりと、多くのメリットがあります。
加害者から適切な補償を受けるためにも、交通事故に強い弁護士に一度相談してみることをおすすめします。

交通事故被害のご相談はAuthense法律事務所

交通事故被害による後遺障害等級認定、示談交渉・裁判、損害賠償請求(慰謝料請求)などのご相談をお受けしています。
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交通事故被害に関するご相談は基本的に何度でも無料(お電話相談も承ります)。着手金0円。
※2 遠方の方、おケガをされている方を優先させていただきます。

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