交通事故による骨折には様々なパターンがありますが、腰を強く打った場合に起こりうるのが「骨盤骨折」です。 では、骨盤が骨折することで後遺症が残った場合、後遺障害等級としては何級に認定されるのでしょうか。 後遺障害と認定された場合に支払われる慰謝料の金額や、後遺障害の等級認定申請の注意点などについても詳しく解説します。
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骨盤骨折の症状
交通事故における骨盤骨折は、歩行者と車の事故や、自転車・バイクと車の事故で多くみられます。
骨盤は身体の中心部にあり、上半身と下半身をつなぐ重要な部分です。
交通事故でおしりや腰あたりを強く打ち付けることで、この骨盤が骨折してしまうことがあります。
骨盤とは?
骨盤は一つの大きな骨のようなイメージがありますが、実際には寛骨・仙骨・尾骨という3つの骨が一体となって構成されています。
このうちの寛骨は、腸骨と坐骨、恥骨が一体化したものです。
骨盤から下半身へは、股関節を介して太ももの骨である大腿骨に、そして上半身へは、腰仙関節から背骨につながっています。
骨盤は足の付け根として歩行の要となるだけでなく、上半身を支える土台としても大切な役割を果たしています。
そんな骨盤を骨折すると、後遺症が残る事もありますし、重症であれば命にかかわります。
では、骨盤骨折によってどのような症状が生じるのでしょうか?
骨折した部分の痛み
骨盤骨折は、文字通り骨盤の一部に骨折が発症するものであり、骨折部分に激しい痛みが生じます。
臓器の損傷による影響
骨盤には、臓器を保護する役割もあります。
骨盤の内側には排泄や生殖にかかわる臓器があり、泌尿器系の臓器が損傷すれば排尿困難や血尿といった症状が出てきます。
女性であれば、妊娠や分娩への影響も起こりえます。
足のしびれや痛み
骨盤骨折によって神経が損傷し、神経症状が生じる場合があります。
足のしびれや痛み、麻痺といった症状が挙げられます。
骨盤骨折の種類
骨盤骨折は、大きく「寛骨臼(かんこつきゅう)骨折」と「骨盤輪(こつばんりん)骨折」の2種類に分類されます。
寛骨臼骨折
骨盤と大腿骨をつなぐ関節が股関節ですが、股関節の骨盤側の部分を「寛骨臼」、大腿骨側を「大腿骨頭」といいます。
股関節は、大腿骨頭が寛骨臼にはまり込む形になっています。
この寛骨臼の部分で骨折するのが寛骨臼骨折です。
寛骨臼骨折によって股関節に障害が生じると、歩行困難などにより、日常生活に大きく影響を及ぼす可能性があります。
骨盤輪骨折
骨盤輪とは、仙骨と左右の寛骨から形成される、リング状の構造をしたいわば骨盤そのものの事をいいます。
骨盤輪骨折とは、骨盤骨折のうち、寛骨臼骨折を除いたものをいいます。
強い力がかかったことで生じる高エネルギー外傷であり、大量に出血するおそれもあります。
骨盤骨折で認定される可能性のある後遺障害等級
骨盤骨折で後遺症が残った場合、後遺障害等級では何級に該当するのでしょうか。
個別の症状によって等級は変わってきますが、それぞれ該当する症状と等級をみていきましょう。
変形障害
変形障害とは、折れた骨がつながる際に元通りの形状にならず、変形して癒合してしまった障害のことです。
ただし、後遺障害と認定されるには「著しい変形を残すもの」という条件があります。
著しい変形とは、「裸体になったときに外部から見てその変形が明らかに分かる程度」とされています。
この骨盤の変形は、後遺障害の第12級5号に該当します。
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
運動障害(股関節の可動域制限)
骨盤は、股関節を介して、太ももの骨である大腿骨とつながっています。
骨盤骨折によって股関節に影響が生じ、骨折が治癒しても股関節を動かせる範囲が狭くなる後遺症が残る事があります。
股関節の可動域制限は、動きが制限された度合いによって等級が変わってきます。
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
第10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
第12級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
「一下肢」とは片足のことです。
「三大関節」とは、股関節、ひざ関節、足関節(いわゆる足首)の3つを指します。
「用を廃した」とは、股関節の可動域がほとんどなくなった場合か、股関節部分に人工関節または人工骨頭を入れた状態で可動域が2分の1以下に制限されている場合をいい、第8級7号に該当します。
「機能に著しい障害を残す」とは、股関節の可動域が2分の1以下に制限された場合か、股関節部分に人工関節または人工骨頭を入れた状態で可動域制限が8級7号に該当しない場合をいい、第10級11号に該当します。
そして、「機能に傷害を残す」とは、股関節の可動域が4分の3以下に制限された場合をいい、第12級7号に該当します。
神経症状
骨盤骨折により腰部の神経が圧迫されることなどにより、様々な神経症状が出る場合があります。
ここでは神経症状による代表的な後遺障害等級を紹介します。
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
骨盤骨折で後遺障害が認定された場合の慰謝料
慰謝料には、精神的苦痛に対する損害賠償という役割があります。
通常、交通事故の被害者は、ケガの治療や通院費などの実際に生じた費用と、会社を休むなどをして生じた休業補償などの費用を賠償するよう加害者に求めることができます。
それだけでなく、精神的苦痛に対する賠償として慰謝料も請求できるのです。
これに加え、後遺障害と認定された場合は、将来にわたって生じる逸失利益の賠償や、後遺障害等級に応じた慰謝料(後遺障害慰謝料)が請求できます。
では、骨盤骨折で後遺障害等級が認定された場合、後遺障害慰謝料の金額はいくらになるのでしょうか。
この後遺障害慰謝料の金額は、算出の基準に自賠責基準(自賠責保険における基準)を用いるか、弁護士基準(弁護士が交渉する際の基準)を用いるかで大きく異なります。
それぞれどの程度の金額になるのか、等級ごとにみてみましょう。
自賠責基準
骨盤骨折で認定される可能性がある後遺障害等級と、自賠責基準による後遺障害慰謝料の金額は次のとおりです。
第8級 | 324万円 |
---|---|
第10級 | 187万円 |
第12級 | 93万円 |
第14級 | 32万円 |
弁護士基準
後遺障害慰謝料を弁護士基準で算出した場合の金額は次のとおりになります。
8級 | 830万円 |
---|---|
10級 | 550万円 |
12級 | 290万円 |
14級 | 110万円 |
弁護士に慰謝料請求の交渉を依頼することにより、このように受け取れる慰謝料の金額に大きな差が出る場合があります。
後遺障害等級認定を受けるための注意点
後遺障害と認定されるには、後遺障害等級認定の申請をする必要があります。
では、申請にあたって気をつけるべき点や重要なポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。
後遺症が骨盤骨折に起因することを医学的に証明する
交通事故によって生じたケガや障害の症状が、将来にわたって回復する見込みがなくなった状態を症状固定といい、症状固定後に残った後遺症は後遺障害と認定される可能性があります。
この認定の有無によって得られる損害賠償の金額は大きく変わってきますが、後遺障害の認定を受けるためには、その後遺症が交通事故に起因するものだと証明する必要があります。
骨盤骨折の場合、骨折そのものの治療が終わって症状固定となります。
そして、骨盤骨折自体が治っても残った後遺症と事故の因果関係が証明できなければ、後遺障害とは認定されないのです。
後遺障害診断書に記載してもらうべき内容
後遺障害等級の認定を受けるためには、医師の後遺障害診断書が必要です。
そのため、病院で適切な治療を受けておく事はもちろん、後遺症が残った事についてもきちんと診断を受け、その後遺症が骨盤骨折に起因するものである事を証明してもらう必要があります。
また、診断書には検査結果だけでなく、医師による他覚的な所見も詳しく記載してもらいましょう。
特に変形障害が生じている場合など、外部から確認出来る場合は、その旨の記載によって何級に該当するかが判断しやすくなります。
骨の変形や異常の場合は、レントゲンやMRIの検査結果も記載してもらうようにしましょう。
被害者請求で申請する
後遺障害の認定申請には、「事前認定」と「被害者請求」があります。
事前認定とは、加害者の任意保険会社に後遺障害認定の請求を一任することです。
被害者請求とは、被害者本人が加害者の自賠責保険会社に後遺障害の認定申請をすることをいいます。
事前認定では、加害者側の保険会社がメインで動くため、被害者にとって透明性があるとは言い難いです。
また、もし本来よりも低い等級に認定されてしまった場合、認定に異議を申し立てるには多大な労力が必要となります。
一方、被害者請求であれば申請内容を自分で把握できるというメリットがあります。
適切な等級認定を受けるためには、被害者請求を選択したほうが良いといえます。
とはいえ、被害者請求では被害者自身が必要書類を準備しなければならず、非常に手間がかかります。
骨盤骨折の治療を進めながら手続きを進めるのは大変ですし、後遺障害診断書の記載内容が適切かどうかなど、専門的な知識も必要になります。
交通事故による骨盤骨折で後遺障害の認定を目指すなら、なるべく早い段階で弁護士に相談してみることをおすすめします。
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