逸失利益とは、被害者が事故に遭わなければ得られていたと想定される経済的な利益のことです。ただし、亡くなったことで支出が抑えられたと考えるので、基礎収入から生活費を差し引いて算出されます。交通事故による死亡により、本来得られるべき利益(収入等)が得られなかった場合の損害算出方法をご紹介いたします。
- 算定方式基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に呼応するライプニッツ係数
- 計算例
- 有職者または就労可能者
現実年収額または学歴計あるいは学歴別の男女別平均賃金×(1-生活費控除率)×67歳までのライプニッツ係数=逸失利益現価 - 18歳未満の未就労者
学歴計の男女別あるいは全労働者平均賃金×(1-生活費控除率)×(67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)=逸失利益現価
※18歳未満の者は、就労の始期が18歳となるので、18歳に達するまでの係数を差し引く必要があります。基礎収入について詳しくは以下からご参考ださい。
- 有職者または就労可能者
基礎収入
- 有職者
- 給与所得者原則として事故前の収入を基礎として算出します。
現実の収入が賃金センサスの平均額以下であるケースでは、平均賃金が得られる蓋然性があれば、平均賃金が基礎収入として認められます。若年労働者(事故時概ね30歳未満)のケースは、学生との均衡の点もあり、原則として全年齢平均の賃金センサスを用います。
※賃金センサス……毎年厚生労働省が行う賃金構造基本統計調査 - 事業所得者自営業者、自由業者、農林水産業などについては、申告所得を参考にしますが、同申告額と実収入額が異なるケースは、立証がある場合、実収入額を基礎とします。
所得が資本利得や家族の労働などの総体の上で形成されているケースでは、所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定します。
現実収入が平均賃金以下のケースでは、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによります。現実収入の証明が困難な時は、各種統計資料によるケースもあります。 - 会社役員会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は基礎収入として認容されます。これに対し利益配当の実質をもつ部分は基礎収入として認められ難いといえます。
- 給与所得者原則として事故前の収入を基礎として算出します。
- 家事従事者賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入とみなします。有職の主婦のケースは、実収入が上記平均賃金以上のときは実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定します。家事労働分の加算は認めないのが一般的です。
- 無職者
- 学生・生徒・幼児等賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とします。
女子年少者の逸失利益については、女性労働者の平均賃金ではなく、男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが一般的です。
なお、大学生になっていない者についても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められるケースがあります。 - 高齢者就労の蓋然性があれば、賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別計、年齢別平均の賃金額を基礎とします。
- 学生・生徒・幼児等賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とします。
- 失業者労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある者は基礎収入が認められます。
一般には、再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで、その場合、特段の事情のない限り、失業前の収入を参考とします。ただし、失業以前の収入が平均賃金以下のケースは、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによります。
就労可能年数
原則として67歳までとします。
67歳を超える者については、簡易生命表の平均余命の2分の1とします。
未就労者の就労の始期については、原則として18歳としますが、大学卒業を前提とするケースでは大学卒業予定時とします。
ただし、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった判断がなされるケースもあります。
年金の逸失利益を計算する場合は平均余命とします。
生活費控除率
- 一家の支柱
- 扶養者1人のケース・・・・・・40%
- 扶養者2人のケース・・・・・・30%
- 女性(主婦、独身、幼児等を含む)・・・・・・30%賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入とみなします。有職の主婦のケースは、実収入が上記平均賃金以上のときは実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定します。家事労働分の加算は認めないのが一般的です。
- 男性(独身、幼児等を含む)・・・・・・50%
- 兄弟姉妹のみが相続人のときは別途考慮します。
- 年金部分年金部分についての生活費控除率は、通常より高くする例が多くみられます。
税金の控除
原則として控除しません。
中間利息控除
中間利益は、年5%の割合で控除します。
計算方法として、ホフマン式とライプニッツ式があり、最高裁判所はいずれも不合理ではないとしていますが、ライプニッツ式が一般的となっています。
幼児の養育費
死亡した幼児につき将来の養育費の支払いを免れた部分については、死亡逸失利益から控除しません。
葬儀関係費
葬儀費用は、原則として150万円に限り、損害として認められます。
ただし、これを下回る場合に関しては、実費分となります。
なお、香典について損益相殺は行われず、香典返しは損害と認められません。