リーガルエッセイ
公開 2020.07.16 更新 2021.07.18

「重過失失火罪」とは?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、マンションの1階から出火して、上階に居住していたお二人のかたが、その火災により亡くなったという事件が報じられました。
そして、報道によれば、この件で、1階の住人が重過失失火と重過失致死の被疑事実で逮捕され、その住人が「たばこを吸うためマッチの火をつけたが、手が熱くなり投げ捨てた」と供述しているとのこと。
未明に起きた火災です。
逃げる間もなくお亡くなりになったかたのことを思うと胸が痛みます。
捜査が進み、真相が明らかになることを祈るばかりです。

今回は、放火罪に比べると、あまり聞きなれないかもしれない「重過失失火罪」という犯罪を取り上げます。

失火罪との違い

まず、刑法では、失火罪というものがあります。
失火罪とは、不注意で建物などを燃やしてしまう犯罪です。
法定刑は50万円以下の罰金刑です。
故意に、人が住居として使用している建物を燃やした場合は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役となります。
客観的に発生する結果としては、人が住居として使用している建物が燃えるというものとして全く同じであるのに、故意に火を放ったことによるのか、不注意によるのかにより法定刑は全く違ってきます。
そうなると、捜査機関としては、被疑者が火を放ったのは故意だったのか過失だったのかという点について慎重な捜査が必要といえそうですし、弁護人は、捜査機関の認定に誤りがないか、被疑者本人の話を丁寧に聞いてチェックが必要といえそうですね。

そして、不注意によるとしても、その不注意の程度がどの程度だったかにより、法定刑は変わってきます。
不注意の程度が重い場合は、重過失失火罪が成立し、法定刑は3年以下の禁錮または150万円以下の罰金になります。
単なる失火罪と比べると、かなり重くなっていますよね。
「重過失」というのは、過失の程度が重いということ。
つまり、ほんのちょっと気をつけたら結果を防げたのに、そのほんのちょっとした注意を怠ったという場合を言います。
実際の裁判では、たとえば、石油ストーブに灯油を入れるにあたり誤ってガソリンが入った混合油を入れてしまったためにストーブを激しく燃焼させて建物2階部分を全焼させたという事案で、液体の色や量、におい、他者からの注意喚起があったことなどに照らすと、わずかな注意を払えば、自分が注入しようとするものが灯油以外のものであることに気付き、危険を避けられたと評価して、重過失失火罪の成立を認めたものがあります。
たばこの不始末やガスコンロの火の消し忘れも重過失と判断されることが多いでしょう。

損害賠償請求も

今お話ししてきたのは、刑事責任の話です。
不注意で火災を起こしてしまい、これにより、他人の家や物を燃やしてしまった場合、損害賠償請求をされることもあるでしょう。
その場合、法的には損害賠償する義務がないといえる場合があるのです。
失火責任法は、単なる不注意で他人の家や物を燃やしてしまった場合は、不法行為による損害賠償責任がない、としています。
この法律の背景には、法律ができた当時、日本では木造家屋が密集していて、火が延焼しやすかったという事情があります。
不注意で自宅が燃えてしまったときに、延焼させてしまった他人の損害について賠償する義務を負わせることが酷であろうという考え方があったのです。

逆に言うと、重大な過失があった場合は、損害賠償の責任を負います。
ここでも、ちょっと気をつければ危険を防げたといえるか、という点が大事になるといえるでしょう。
キッチンでガスを使わないご家庭も増えているとは思いますが、それでも、火は、実は私たちの身近にあり、ちょっとした不注意が思いもかけない大事件に発展することがあることに改めて気づかされます。

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