リーガルエッセイ
公開 2020.06.08 更新 2021.07.18

弁護人が最高裁に特別抗告・勾留理由開示請求 ― 京都アニメーション放火殺人事件

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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勾留決定への準抗告棄却 その後…

先日、こちらのエッセイで、京都アニメーション放火殺人事件の弁護人が、裁判所の勾留決定に対し準抗告をしたものの、その準抗告が棄却されたという報道を紹介しました。
その際、「これでひとまず被疑者の身柄拘束が10日間続くことになる」とお話ししましたが、その後、動きがありましたのでそのお話をしたいと思います。

弁護人が、勾留決定に対する準抗告を棄却した判断について不服があるとして、最高裁判所に特別抗告を申し立てたのです。
この申立てについては、6月5日、棄却されたと報じられています。
そして、それと合わせ、弁護人は、勾留決定を出した裁判所に勾留理由の開示を求める請求をしました。
今日は、まず、特別抗告の手続についてお話しします。

特別抗告は準抗告棄却への不服申立て

勾留決定に対して準抗告したものの、棄却になった。
その場合、この棄却の判断に対し、さらに、上級審である高等裁判所に判断を仰ぐことはできません。
そのような場合に用意されている刑事訴訟法上の手段が特別抗告で、最高裁判所に対して不服申し立てができることになっています。
ただ、特別抗告ができる場合は限られています。

簡単に言うと、憲法違反がある場合と判例違反がある場合に限られているのです(正確には、そのほかにも、法令違反などがあって、もとの判断を破棄しないと著しく正義に反すると裁判所が判断した場合も元の判断を破棄することができるとされていますが、ここでは省きます)。
申立てには時間制限もあり、5日間とされています。

報道で見る限り、今回、弁護人は、接見交通権の妨害を理由に特別抗告の申立てをしたとのこと。
接見交通権というのは、身柄拘束されている人が、立会人なくして弁護人と面会して話をしたり、書類の受け渡しをすることができる権利です。
身柄拘束を受けた人が自分の権利を守るために弁護人を依頼してそのサポートを受けることができることは憲法上の権利で、そのひとつが刑事訴訟法で接見交通権として定められています。
接見交通権は、被疑者、被告人にとって、もっとも重要な権利のひとつといえるでしょう。
特に、身柄を拘束されてすぐの時期は、どのような方針でこの先戦っていくのか、その方針を踏まえ、個々の取り調べでどのような供述をしていくか、など弁護人と被疑者が綿密な打ち合わせをしていく必要があります。
その意味で、接見交通権は重要な意味をもつのです。

今回の特別抗告が、報じられているとおり、接見交通権の妨害を理由に申し立てられたのだとして、具体的にどのような事実に基づき接見交通権が妨害されたと主張されているのかはわかりません。
ただ、報道によると、弁護人は、接見用の部屋の構造や声の聞こえ具合について証拠保全をしておく手続きを進めているとのこと。
そうだとすれば、想像にはなりますが、接見の機会自体は与えられているものの、実際には、被疑者の身体の状況に応じた環境が与えられておらず、被疑者とのコミュニケーションがとれる状態にないとして、実質的に接見交通権が侵害されていると主張されているのかもしれません。

結果として、最高裁は、6月5日付で特別抗告を棄却したとのこと。
勾留は取り消されませんでした。
そして、同じ日に、地方裁判所では、勾留期間を6月15日まで延長するという決定が出たとのこと。これについては、また改めてとりあげてみたいと思います。

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