リーガルエッセイ
公開 2020.04.30 更新 2021.07.18

法務省 刑事施設での面会制限

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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法務省は、4月20日、特定警戒都道府県にある刑務所、拘置所で、新型コロナウイルス感染防止のため、面会を制限することを発表しました。

具体的には、弁護人または弁護人となろうとする人以外の人との面会は、原則として実施しないとのこと。
この制限は、4月28日時点で、5月6日までは続く予定となっています。

今回は、この面会制限について、特に拘置所で収容されることの多い未決拘禁者にしぼってとりあげます。

拘置所に入っている人ってどのような人?

まず、前提として、拘置所には、どのような立場の人が収容されているか、ご存じですか?

拘置所には、いろいろな立場の人が収容されており、たとえば、検察官が独自に逮捕した人もいれば、死刑判決を受けてこれが確定した人もいます。
でも、被収容者の占める割合が多いといえるのは、未決拘禁者と呼ばれる立場の人です。

未決拘禁者というのは、裁判でまだ刑の言い渡しを受けていないとか、言い渡された刑が確定していない人で、かつ、身柄拘束をされている人のことです。
身柄を拘束されたまま、無罪を争って裁判を受けている人もこれにあたります。

未決拘禁者の面会ルール

そもそも、拘置所に収容されている未決拘禁者と会うことは可能なのでしょうか?会えるとして、どんなルールがあるのでしょうか?

未決拘禁者と会うことについては、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」という法律に定められています。

これによると、未決拘禁者に対してほかの人から面会の申し出があったときは、外国語での面会の場合の一部のケースや懲罰を受けているケース、そもそも裁判所から接見禁止決定が出ているケース等を除き、面会を許すものとされています。
未決拘禁者は、そもそも無罪が推定される立場ですので、受刑者の面会ルールに比べ、かなり広く認められているといえるでしょう。

面会が制限されること、問題はない?

法律が、未決拘禁者の面会ルールを広く認めているにもかかわらず、このたび、法務省が制限したことに問題はないのでしょうか?

報道によれば、法務省は、国有財産法により認められる、国有財産である刑事施設を適切に管理する義務に基づき感染予防の観点からの面会を制限できると考えているようです。

私も弁護人として拘置所に収容されている人との面会に行ったことはありますが、たしかに、拘置所は、性質上、閉鎖された空間に複数の人が集まって過ごす場所となっており、いわゆる三密を満たす場所となっています。
そこでひとたび感染者が発生すれば、あっという間に感染が拡大し、収容されている人の健康に甚大な影響を及ぼすといえるでしょう。
そうなると、感染のきっかけとなる面会を制限するというのも一定程度はやむを得ないといえると思います。

一方で、今回の制限は、弁護人または弁護人となろうとする人を除く人との面会を「原則として」認めない、というものですから、「原則」があてはまらない例外的なケースをどの程度認めるかという実際の運用にもよりますが、これを一律禁止として運用するのであれば、やはりそのような制限は問題が大きいといえるでしょう。

コロナ情勢で経営がひっ迫した会社の経営を担う人が未決収容者として収容されていて、経営者不在の中、会社を守っている人が、経営者の判断を至急仰ぎたく面会を希望する場合もあるでしょう。
この情勢で不安が大きく、家族が、精神的安定を得るため、収容されている家族と一目会いたいと思う場合もあるでしょう。
そのようなときに、この面会制限が壁となって立ちはだかります。

弁護人による接見は認められるのだから、あえてそれ以外の人の面会を認める必要はないと思いますか?
でも、弁護人では果たしきれない役割もあるでしょうし、拘置所は警察署の留置所より数が少なく、すべての弁護士にとって交通アクセスがよいという場所にあるわけではありません。
他の業務との関係で、どうしても調整がつかずに思うような頻度で接見に行けないこともあります。
もちろん、弁護士として、このような面会制限のルールが発表された以上、これまで以上に未決拘禁者の立場の人のもとに通い、接見したり、身柄解放に向けて保釈請求を積極的に検討したりといったことに努めていく必要があると考えています。

しかし、これとあわせ、拘置所における面会制限については、感染予防策を徹底した上で、弁護人等以外の人の面会を一律禁止とするのでなく、個別の事情を踏まえ、積極的に、例外として面会を認めるという運用をとるべきだと思います。

今後、緊急事態宣言の解除がなされるか、その動向により、この面会制限についても適用期間が延期になるのか、また、弁護人等以外の面会が、例外的に認められるケースが出てくるのかについて注目が集まるところです。

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