リーガルエッセイ
公開 2024.04.09

加害者側の弁護士が謝罪文に生成AIを用いた件について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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刑事事件の加害者が被害者に対する謝罪文をAIで作成することの是非

先日、性犯罪の加害者側の弁護士が、被害者への謝罪文の作成に、生成AIを利用した事例があった旨報じられました。
報道では、弁護士は、まず、依頼者本人に謝罪文を書くように言ったが、できあがったものが、一文だけで、それだけでは被害者に示せる内容ではなかったために、チャットGPTに複数の指示を出す過程でできあがった文章に、依頼者自身の反省の言葉も盛り込みつつ完成させ、最終的にその文章を依頼者に手書きさせたと報じられています。
すでに被害者側にも提出されたとのこと。

そもそも、どうしてこの話がこうして報じられるに至ったのかな、というのは素朴に疑問に思うところではありますが、私は、実際のところを確認したわけではなく報道限りでしか把握していませんので、あくまでもこの報じられている内容を踏まえ、思うところをお話ししてみたいと思います。

自分が、刑事弁護人を務めた際、依頼者が書いた謝罪文が、「これをこのまま被害者にお渡しすることはできないな」と感じたとしたらどうするだろうか、と考えてみました。

まず考えたいのは、なぜ、このまま被害者にお渡しすることがはばかられる謝罪文となってしまっているかということ。

いろいろ原因があるんじゃないかと思うのです。

そもそも、弁護士である私が、依頼者に対して、謝罪文とはなんたるかという説明をしっかりできていなかった可能性があると思います。

というのも、ただ「被害者のかたにお渡しする謝罪文を書いてください」と言っても、その謝罪文というものがどのような意味をもつのか、被害者のかたはどのような思いでいて、どのような経緯で謝罪文を読んでいただける流れになったのかなどということがわかっている状態とわからない状態とでは書かれる内容も変わってくるんじゃないかなと思うからです。

それ以外で考えると、このまま被害者にお渡しすることがはばかれる謝罪文となってしまっている原因としては、2つ考えられるのかなと思っています。

1つ目は、依頼者が、自身の中でまだちゃんと事件のことと向き合っておらず、被害者への謝罪の気持ちや反省の気持ちを十分に深めることができていないことが原因になっているケース。

このケースが疑われる場合は、謝罪文の形を整えることの前に、依頼者とじっくり話し合う必要があります。

謝罪文を被害者に渡し、そのことを捜査機関や裁判所に報告した場合、処分や判決の内容に影響を及ぼすことがあり、具体的には、「被害者への慰謝の措置がある」とか「反省の情がある」などとして処分や刑罰が軽くなる方向に働くことがあります。

たしかに、依頼者の処分や刑罰が軽くなれば、それは依頼者の意向には沿うようにみえるかもしれない。
でも、私が思う、弁護人として目指すべきは、今ご依頼を受けている案件で依頼者の処分や刑罰を少しでも軽くするなどというその場しのぎ的なことではなくて、依頼者が、二度と刑事事件の加害者にならないようにすること、そのための更生の環境を整えること。

その一歩として、自分がやってしまったことと真摯に向き合い、自分の何がいけなかったのか、どうすれば二度と同じことを繰り返さずに生きることができるのか考えるとともに、自分が傷を与えてしまった被害者の方の思いと向き合い、被害者の方が被害を乗り越えるために自分ができることを考え、そのすべてをし尽くすことが必要になるのだと思っています。

だから、書かれた謝罪文の内容を見たとき、前提として、依頼者の中で、事件と向き合い、反省や被害者への謝罪の気持ちを深める姿勢が足りていないと感じられる場合には、弁護人として、その点を率直に伝え、改めて、依頼者と向き合う必要があるのだと思います。

2つ目としては、依頼者の中で、自分がしてしまったことと向き合い、反省し、被害者への謝罪の思いを十分に形成できているにもかかわらず、それを文章にすることができずにいることが原因であることもあります。

その場合は、弁護人として、率直に、書かれた謝罪文が、依頼者の思いが全く伝わる内容になっていないことを伝えた上で、それを読んだ被害者がどう感じると思われるかということを認識してもらう必要があるのだろうなと思います。
その上で、改めて、今、依頼者が、事件をどう振り返り、被害者にどのような思いを抱いているか、まずは、口頭で依頼者の言葉を聴きとり、謝罪文には書かれていないけれど依頼者の中に存在する思いを外に出すサポートをすることになるのだと思います。
そのような過程を経て、依頼者が、自分の中にある思いを言葉として認識できたところで、改めて、依頼者に、被害者に何を伝えるか考えてもらい、その言葉を文章にしてもらう。
その繰り返しをしていくことで、依頼者の中で反省や謝罪の思いが深まることもあります。

できあがった文章は、必ずしも、きれいな文章でないことがあります。
でも、私は、それでいいと思っています。
もちろん、誤字脱字がないこと、主語と述語が対応していて、読み手に思いがわかりやすく伝わる内容になっていることは、相手に手紙を読んでいただくという立場で整えるべき大前提。
そこが整っていれば、大事なのは、文章としてきれいであることではなくて、それを読んだときに、いかに書き手が、手紙を書く過程で過去の自分と向き合い、心から自分のしたことを悔い、なぜ自分がそんな行動に出てしまったか、被害者の方の思いを想像しようとしたか、これを想像して、改めて自身の行動を振り返って絶望するような苦しさと向き合い、心から申し訳ないという思いを抱いたかということがしっかり感じられる内容になっていることなのだと思います。

そんなことを改めて考えながら、果たして自分は、依頼者の謝罪文を作成する過程でAIの力を必要とするだろうか、利用する価値を見出すだろうかと自分に問いかけてみましたが、間違いなく、私は、依頼者の謝罪文を作成する過程でAIを利用することはないと確信しました。

他の方に被害を与えてしまい、お相手にご自身の謝罪の気持ちを伝えたいものの、どのように伝えたらいいかわからない、そもそも、どのようにして自分のしたことと向き合っていいかわからない、そのようなご不安のある方は、お気軽にお問い合わせください。

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