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内部通報制度の実効性に関する調査、分析について
先日、消費者庁より、「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析」と題する報告書が公表されました。
企業不祥事が発生し、それに関して第三者調査委員会等による調査がなされると、調査報告書が作成され、その報告書は、通常、企業のホームページで公表されます。
そこには、調査委員会による調査の結果、具体的にどのような事実が認められたのか、その不祥事が起きた原因はなんだったのか、再発を防止するためにどのような対策が講じられるべきなのかということなどが記載されています。
公表された調査報告書を読むことで、他社で起きた不祥事から、自社にとって活かせるポイントを見つけることもできますし、複数の報告書を見比べていくと、異なる業種の会社で起きた異なる不祥事なのに、その発生のおおもとには共通する問題がひそんでいることに気付くこともでき、調査報告書の分析は、コンプライアンスに関わる立場のかたにとって、意味のあることだと思っています。
このたび消費者庁で公表した報告書は、平成31年1月以降に公表された企業不祥事に関する調査報告書265本を収集、分析したというものだそうです。
そして、内部通報制度の実効的な運用を阻害する主要な課題項目を5つ設定し、それぞれについて、充実した記載のある調査報告書の中から、そこで指摘された事項を整理等することで経営者にとって有用な提言をまとめたものであるとのこと。
企業不祥事を予防するために大事な情報を見つけることができるはず。
そこで、この報告書で挙げられた内部通報制度の実効的な運用を阻害する課題項目を1つずつ取り上げてみたいと思います。
今回は、1つ目。
規範意識の鈍麻について。
調査報告書を読んでいると、ほぼすべての調査報告書において、不祥事の発生原因として挙げられているのが、この「規範意識の鈍麻」です。
余談ですが、普段生活している中ではなかなか聞くことのない言葉かもしれませんが、「規範意識の鈍麻」というフレーズ、元検察官、そして企業不祥事に関わる弁護士である私は、油断すると、日常会話においても、会話している相手を詰めようというタイミングで「ちょっと、あまりにも規範意識が鈍麻してるんじゃないの?」などとぽろっと出てきてしまうような日常遣いのフレーズで、もしかしたら、寝言でも発したことがあるのではないかと思えるほど日常的になじみ深いフレーズです。
私にとって、「規範意識の鈍麻」というフレーズが口をついて出てくるようなものであるがために、その意味をじっくり考えたことすらなかったように思い、思い立って、調べてみました。
実は、この「規範意識」という言葉自体は、学校教育法の条文の中にも潜んでおり、この規範意識に基づき主体的に社会に参画することが義務教育の目的のひとつであると掲げられているようです。
東京都教育委員会の発行した小中学校用指導資料の中にも「子どもたちの規範意識をはぐくむために」と題するものが存在し、そこでは、規範意識について「互いの関わり合いを大切にしていこうとする思いや行動の根幹となるのが規範意識。しかられるのが怖いから、だれかが見ているから、ではなく、主体的に、きまりを守ろうとする確かな規範意識の醸成を図ることが大切」という趣旨の説明がされています。
そんな、義務教育が獲得目標としているともいえる規範意識が鈍麻していることが内部通報制度の実効的な運用を阻害する要因となっているとはどういうことなのか。
報告書では、この規範意識の鈍麻について2つの側面から説明があります。
- 第一に、問題意識自体が希薄になっているということ。
- 第二に、同様の行為が繰り返されることによる規範意識の鈍麻。
つまり、内部通報制度の実効的な運用の妨げになる要因としての「規範意識の鈍麻」の中には、①知識不足等から、ある行為が法令に違反しているかもしれないという問題意識を形成することすらできていない状態②もともとはそれが法令に違反しているなどという認識をもてていたのであるが、「前からやっているし」とか「これまでにも問題になったことがなかったから大丈夫」とかいう独自の捉え方が定着してしまっている状態とが考えられるということ。
では、この規範意識の鈍麻を改善して内部通報制度の運用を改善するためにはどうすべきか。
2つの提言が挙げられています。
第一に、問題意識を形成するために十分な知識を習得する機会を作ること。
たとえば、具体的な想定事例を紹介したり、同業他社で発覚した不正行為を周知したり、通報した人を守るためにどのような制度があるかということを周知したり、そのような内容を含む研修の機会をもつことが例として挙げられます。
第二に、新規採用者、異動者からの通報を促す施策。
つまり、その環境に慣れていない立場の人は、「これっておかしくない?」という違和感をもちやすい立場であるはず。
その違和感を率直に発信できる機会を積極的に作るということ。
たとえば、新規採用者や異動者が着任し、業務内容を一回り経験したくらいのタイミングで、経営陣と新規採用者、異動者との間でコミュニケーションをとる機会を作り、そこで、着任後、「このやり方では問題があるのではないか」「なぜこのようなやり方を採用しているのか」などという素直な疑問点を出してもらうということが考えられると思います。
そのような疑問点を出しやすくするための工夫として、ファシリテーターを社外役員が務めるなどということも一案かもしれません。
不祥事が起きてしまってから「規範意識が鈍麻していたことが原因だね」と確認し合ったところで何も意味がありません。
規範意識ってそもそもどういうことか?
それが鈍麻しているというのは、具体的にどんな状態を指すのか?
自社ではそのようなリスクがどのような事象として存在し得るか?
仮に規範意識の鈍麻が認められるとして、規範意識を醸成するために自社でとれる具体策はなにか?
このようなことを平時に考える必要があります。
そして、平時に、どのようなタイミングでその検討をするかというと、このように消費者庁が提言を公表したタイミングとか、他社において不祥事が起きたことが報じられたタイミングとか、それらのタイミングを利用するのがよいのだと思います。
弁護士として、その検討のお手伝いをすることができます。
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