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決闘って言葉、聞いたことありますか?
先日、飲食店の管理をしている男性が、その店舗で、従業員の少女らに「タイマンしたらええやんけ」と促して決闘させたとして、懲役2年6か月(と罰金50万円)の実刑判決が言い渡されたと報じられました。
その報道を見たとき、ちょっと戸惑ってしまいました。
どうしてかというと、自分の記憶力の減退がおそろしく思ってしまったからです。
こんなにも記憶力が落ちてしまって大丈夫だろうかと不安になりました。
というのも、私は、刑法にそんな犯罪があったことの記憶がすっぽり抜けてしまっていたからです。
絶望的な気持ちになりながら、「そんな名前の犯罪あったかな?」と思って、改めて刑法の条文を確認してみました。
完全に余談ですが、知り合った人に弁護士だと名乗ると「六法全書全部覚えてるんですか?」って聞かれることがしばしばあります。
「もちろんです」と言ってしまいたい欲に駆られますが、やっぱりそれは完全なうそなので、「覚えていない」と事実を答えます。
私が司法試験を受験していたころの話ですが、論文試験のときには、条文を確認することができるので、そもそも、全部を覚える必要ってないんです。
だから、あの分厚い六法全書をまるごと暗記しているというわけではありません。
でも、刑法なんて、条文は全部で264条までしかないですから、鬼勉しているうちに、自然と覚えてしまいます。
それ以外の条文も、当時は、司法試験科目に関しては、何条が何に関する条文かという程度はすべて覚えていたはず。
だから、私は、自分が、決闘罪の条文を全く記憶していなかったことにショックを受けたのです。
でも、六法を確認してほっと一安心。
この犯罪、刑法に定められた犯罪ではありませんでした。
「明治二十二年法律第三十四号(決闘罪ニ関スル件)」という法律に定められたものでした。
検察官時代も、この犯罪に関して捜査、公判を担当することは一度もありませんでしたので、全くといっていいほど法律の中身を知りません。
ちょっと調べてみたところ、参議院法制局のホームページでこの犯罪に関する話が取り上げられていましたので、その記載に基づき、決闘罪についてお話ししてみます。
そもそも、「決闘」の定義は法律上定められていません。
裁判例によると、当事者間の合意により相互に身体、生命を害するような暴行に及んで闘う行為を指すようです。
この法律が制定されるきっかけとなったのは明治21年ころ。
当時犬養毅氏に対し決闘が申し込まれ、犬養氏が拒絶するという事件が報道されたことで、決闘申込み事件が続出。
そのような中で、決闘の是非が議論され、「決闘は文明の華」であるとして無罪を訴えるような見解も出てきたことから、決闘の風習が今後広がっていくおそれがあるのではないかということで、「決闘罪ニ関スル件」という特別法が制定されたとのこと。
その後も、日本で決闘の風習が定着することはなかったために、昭和の時代に法律の廃止が検討されたものの、暴力団員による果し合いなどにこの法律が適用されることもあったために、廃止されることなく残り続けているようです。
実際、裁判例を調べてみましたが、平成の時代においても、たとえば、暴走族内の抗争事件や一人の女性をめぐる争いから発展した事件などで決闘罪の成立が認められた事例がありました。
おそらく、このたび報じられた件でも同様だと思いますが、決闘罪のみの成立が認められるというよりは、傷害罪、殺人未遂罪等他の犯罪も併せて成立するということが多いようです。
具体的に禁止されている行為を見ると、現に決闘することだけではありません。
決闘を挑み、これに応じること。
決闘の立ち会いをしたり、決闘が行われることを知って場所を提供すること。
そのような行為も禁止されていますし、ちょっと興味深いなと思ったのは、決闘を申し込まれたときに、「自分はそんなのやらないよ」と拒否したことについて、そのことでその相手の名誉を毀損したら、それは名誉毀損罪になるよと定められていること。
そもそも、決闘を拒否したことって、私の個人的な感覚では、むしろ正しく、適切なことだから、それによって社会的評価が上がることはあっても、下がることってないのでは…と思うのですが、そんな条文もあるのです。
思えば、決闘という言葉を使うかどうかはともかく、漫画やアニメなどでは、決闘シーンが描かれていることがたまにあるように思います。
私は、そんな場面に遭遇するアニメや映画を見がちだな、これまでだったらちょっとした盛り上がりの場面として素通りしてしまっていたかもしれないところ、決闘罪の成否について頭がよぎってしまいそうです。
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