リーガルエッセイ
公開 2024.03.14

「ゴトゴト石」を動かなくしたら罰金刑?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「ゴトゴト石」を動かなくしたら罰金?

先日、高知市内の山中にある石をめぐる事件が報じられていました。
その石は6トンもあるようですが、崖っぷちでゴトゴト揺れるのに、決して落ちないことから、「落ちない」ことへの縁起のよさから、受験生の聖地などと呼ばれ、地域の観光名所ともなっていたと報じられています。

事件というのは、この話を知った関東の大学生6人が、絶対に落ちないという石を落としてやろうなどと企てて、高知市内の山中まで行き、購入したハンマーなどと使って石を揺らすなどしていたものの、石を落とすことはできず、これまでゴトゴト揺れていたものが動かない状態になるという結果に終わったというものであるとのこと。

この件で、大学生らには、器物損壊の罪により、略式決定で罰金刑となったとのことです。

器物損壊という罪名を聞いたとき「石を割るなどして壊したわけではないのに、どうして器物損壊罪が成立するのか」と思われたかたもいるかもしれません。

たしかに、器物損壊罪といったときにすぐに想像されるのは物理的な損壊がある場合。
でも、ここでいう「損壊」とは、物理的損壊に加えて、物の効用を侵害する一切の行為を含むと解釈されています。
つまり、「普通そんなことされたらその物の価値が低下しちゃうよね」という場合は、効用を侵害したとして器物損壊罪が成立し得るのです。
よく出される例としては、食器に放尿する行為などがあります。

そう考えてくると、今回、ゴトゴト揺れる石が、ゴトゴトしない状態にするということは、その石が、ゴトゴト揺れつつも落ちないことに価値を見出して観光名所になっていたことを考えると、その価値をなくしてしまうような行為であったといえそうです。

この結論において異論はありませんが、意外と捜査の過程ではいろいろ検討すべき点があっただろうなと想像します。

大前提として、大学生らが、事前の情報をもとに、その石のもつ価値というものを認識していたことが必要になります。
「なんだかよくわからないけど、あの石を動かそう」というだけでは、器物損壊の故意に欠けることになるはず。
ただ、この点は、その石が、地域の観光名所として有名であることを、その理由と共にわかっていたからこそ、わざわざおもしろがって遠路はるばる赴いたという状況があったのであれば、認識として欠けるところはないのでしょう。

あとは、「ゴトゴト揺れる状態だった石をゴトゴト動かない状態にする」って、意外と立証は難しいのだろうなと思います。
彼らの犯行前に、ゴトゴト揺れる状態だったことを明らかにする必要があります。
そもそも、他の要因で、すでに石が動かない状態だったなどという可能性を排斥しておく必要があるはずです。
彼ら全員が、その旨供述しているのだろうとは思いますが、それ以外にも、彼らの供述を補強する証拠を確保しておきたいところ。
場所的に、防犯カメラのようなものが設置されていることが考えにくいとすると、たとえば、犯行日の直前において、管理者のかたなどが、「たしかに、犯行日の直前の〇月〇日〇時ころの時点では、石がまだゴトゴト揺れる状態でした」と供述しているとか。

あとは、彼らが「自分たちは石を下に落としてしまおうとは思ったけど、揺れていた状態の石を動かない状態にさせようということを企てていたわけではなかった」などと故意を否認するかのような供述をすることも考えられます。
それについては、「石を下に落とす」ことも「揺れていた状態の石を動かない状態にさせる」ことも、いずれも、「ゴトゴト石の価値をなくしてしまうという意味においては同じだから、故意に欠けることはない」という評価をすることになるのかなと思います。
もちろん、彼らが、道具を使って、石を動かそうとする中で、「このまま石の向きが代わって石が動かなくなる事態も考えられるけど、それでもかまわない」などと思っていたのなら、それ自体で故意があると評価され得ます。

いずれにしても、ここに報じられていることが事実であれば、大学生らには、罰金の前科がついたことになります。
前科がついたことがどの程度の重みをもってのしかかるかはご本人たちの受け止め方次第なのかなと思います。
自分たちがしたことにより、だれがどんな影響を受け、どんな思いになるのか、ということを具体的に想像することこそが、刑事責任を負う大前提として必要になるのではないかと思います。

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