リーガルエッセイ
公開 2024.03.06

中学校の「願書出し忘れ」問題について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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中学校による願書出し忘れ

先日、公立高校受験のための願書として3年生3人から預かっていたものを、期限までに高校に提出せず、そのために、受験生が希望する公立高校を受験できないことになった旨報じられました。

報じられている以上の事実関係を知らないので、軽率なコメントはできませんが、ただ、やはり思うのは、この受験生たちが公立高校を受験できる状態にしてあげるべきだったのではないかということです。

願書の提出期限というものは、たしかに厳格に守るべきルールだと思います。
例外を認め出すと不都合なことも生じ得ると思います。
たとえば、一般論として、受験生側が個別に願書を提出する場合も含めて考えたとき、「提出期限ころ、体調不良だったため提出できなかった」とか「郵送で期限までに間に合うと言われていたが、郵便事情で提出が遅れた」とか、いろいろな遅滞理由が申告される可能性があり、都度、そこに判断を加えていく必要があるとなると、それぞれの判断に対して、「こっちでは例外として受験を認めているのに、こっちでは例外として認められないのは不公平じゃないか」などという批判も想定されるところ。
そう考えると、「期限に遅れたら一律受け付けせず」という運用は、一見もっとも公正であるようにも思えます。

でも、報道を見ている限りでは、このケースでは、受験生が、自分で願書を提出するという方法が選択できなかったように思えます。
どうして中学校でまとめて願書を提出する運用にしていたかという理由を考えてみると、そこは想像でしかありませんが、願書を受け付ける高校側の事務処理の都合というものもあったのではないかと推測します。
つまり、個々の受験生が直接願書を提出してくるとなると、その受理のための負担も人数分だけ増えることになる。
でも、まずは、中学校側で、個々の受験生から願書を預かり、その際、願書の形式面での不備をチェックする作業をしてもらうことで、高校側は、受理手続きの負担が軽くなるという可能性があるのではないかと思うのです。
この点は、いかなる理由に基づき、中学校を介した願書受け付けルートのみとなっていたのかということにもよると思います。
でも、もし、そこに、受理する高校側のメリットというものもあったのだとすると、中学校を通じて願書を受け付けていたことにより生じたトラブルに関して、高校側において受験生に寄り添った対応をすべきだったんじゃないかなと思えてなりません。
受験生の保護者のかたにおいては、中学校に対する訴訟提起も検討していると報じられていました。

主たる請求は、中学校の落ち度によって受験生が希望とする高校を受験できなかったことにつき被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の請求になるのかなと思います。
それ以外にも、たとえば、当該高校以外の予定していなかった他の高校を急遽受験することになったために、その受験対策として塾の講習を受ける必要が生じたという場合など、受験中学校が願書を提出し忘れたことによって被った実損害があれば、それらについても請求が考えられるかもしれません。

いずれにしても、このような金銭に換算する形では解決が難しい問題なのではないかと思えます。
高校では、だれもが、それぞれ、いろいろな試練に直面することがあると思います。
そんなとき、「もし、あの高校に行けていたら」という思いが当事者のかたやその保護者の方たちの中に浮かんでしまうことは、その試練を乗り越えるために余分なパワーを必要としてしまうかもしれません。
現時点で、希望していた公立高校の受験がいまだ可能な状態なのかわかりませんが、納得のいく解決が図られ、高校生になるお子さんがたが晴れ晴れと卒業式と新生活に臨めますように。

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