リーガルエッセイ
公開 2024.02.20

子どもの「しつけ」について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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しつけについて思うこと

先日、仕事終わりにスーパーで買い物をしていたら、お店中に響き渡るような大きな怒鳴り声に、思わずその声のした方を見ました。
すると、3歳くらいの男の子に対し、お母さんと思われる女性が「いいからあっちに行ってて」と叫び、その子の手を握って、押すようにし、自分から離れた場所に立たせたのです。
子どもは、すぐに女性のもとに泣きながら駆け寄るのですが、それに対し、女性は、「なんでわかんないの?」と叫びながら、その子の腕を引っ張って自分から離し、その子を置いて自分はすたすたとその場を離れようとする。
それをその子が追いかける…
そんな様子を目撃しました。
その後、女性はその子を連れて歩き出しました。
私は、その後ろから少しだけその様子を見守っていましたが、何とも言えない思いを抱えながらその場を後にしました。

私が目撃したのは、ほんの一瞬の断片的な一場面のみですから、その状況に関して軽率なジャッジをすべきではないと思っています。
ただ、私は、あの場で何かできたのではないか、いや、じっと見ていたこともあの女性を追い込んだりしてしまう行動だったのではないか、でも、人目のあるところであんな行動に出ていたのだから、もしかしたらおうちではもっと行動がエスカレートしていたりはしないか…せめて、あの声が届いていたであろうスーパーのかたに不安な気持ちを伝え、今後、またスーパーで気になる様子があったら、そのときには児童相談所などに連絡してほしいと伝えるべきだったか…などと考え込んでしまいました。

最近、親による児童虐待が疑われる事件の報道を立て続けに目にしました。
いずれも捜査中ですから、具体的な事実関係はわかりません。
でも、ある報道で、一方の親の交際相手が、自身の行動について、「教育上のしつけのため」と説明している旨報じられているのを見ました。
どのような状況で、どのような行動に出たのか、ということは、記事のみからはわかりませんでした。

ただ、この「しつけ」というものについては、よく考えてみる必要があります。
なぜなら、児童虐待を「しつけのためだった」と正当化されることがよくあるからです。
これに関しては、法律改正の動きもあります。
令和4年12月、「親権を行う者は、(中略)監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」という民法の規定が削除されるなどの法改正が行われました。
そして、この法改正では、「親権を行う者は、(中略)監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」という条文を新設しています。
懲戒権というものが、しつけの名のもとに虐待を正当化する根拠とされているのではないかという問題意識が背景にあったと言われています。

もちろん、体罰について明確にNGが出たことは評価されるべきことだと思います。
一方で、この法改正で児童虐待が防止されるかというと、他にもまだまだかんがえるべきことが多すぎると感じます。

体罰はだめ、ということは明確になっています。
でも、「だめ」なことなんて、誰だってわかっています。
だめだと明示するだけでは、ただただ親を追い込むだけになってしまうケースもあるのではないか。
だめだとわかっているけどどうにもできないでいるという親にアクセスするにはどうしたらいいか、何をしたらいいか。

人格の尊重とは具体的にどういうこと?
発達の程度に配慮というけど、その前提として、親は発達の専門家なんかではありません。
子どもの落ち着きのなさを指摘されて不安になり、メンタルクリニックや療育機関に行きたくても、何か月も待ちの状態。
他の子と比べてどうかなんてわからない。
発達がゆっくりな子に対しては、その子が集団で困らないように、びしばし鍛えなくてはいけないの?それとも、その子のペースでゆっくりと育てるの?でも、ゆっくりしていたら、集団で困ってしまうのでは?
子どもに対して厳しい言葉を伝えるということと有害な影響を及ぼす言葉の区別ってどこにあるの?

いろいろ思うことがありませんか?
私はわからないことでいっぱいです。
こういうことを学んだり話し合えたりする場が身近に十分にないように思います。

そういったことを学んだり、話し合ったりできる場が仮にあったとして、果たして、今目の前の育児に悩み、いっぱいいっぱいになっている親が、そのような場に参加することを前もって予約したり、子どもを連れてリアルに足を運んだりすることができないことも多く、その機能を果たしていないことも。
法律を整えること、窓口を作ること。
それらと併せて、実際に、本当に必要なひとりにそれをどうやって届けることができるのかということを真剣に考える必要があると思います。

私は、弁護士としてやりたいことがいくつかありますが、その中のもっとも大きなことのひとつが、悲しい思いをする子どもをひとりでも減らすことです。
弁護士としてできることは限られているかもしれませんが、弁護士として相談をお受けする場、保護者のかた向けの講演、子どもたちへのいじめ予防授業などという場で出会った一人一人と向き合い続けていきたいと思います。

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