リーガルエッセイ
公開 2022.02.03

悪質な業者が未成年より成年になりたての若者をねらう理由

悪質な業者が未成年より成年になりたての若者をねらう理由
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

成年になったばかりの若者はねらわれる?

わたしは、過去の、一見すると失敗と評価してしまいそうになる体験をも、その後の行動によって「あれがあったからこそ」と意味を書き換えることが得意です。
なので、わたしの過去に「失敗」などというものは存在しません。
ただ、たまに、これまでの人生のあれこれを棚卸ししようと思い返してみると、あれは、客観的に、紛れもない「失敗」として直視し、真摯に悔い改めなければならないな、と思える出来事が、それなりの数、存在していることを自覚せざるを得ません。
5年ほど前、やはり手痛い失敗を経験しました。
その際、知人から、「あなたの仕事は、小さなミスも許されず、常に神経を張って選択、決断をすることが要求されるがゆえに、あなたのセンサーは、プライベート分野で正常な選択、決断をするだけの余力が残っておらず、機能していないと思われる」と言われました。
以降、プライベート分野で、人から選択や決断を迫られたときは、いったん時間を置いて冷静になるとともに、その間に、他人の意見を最低一人から聞くことを心がけています。

わたしが自分の経験から得たこの2つのこと、つまり、選択や決断を迫られたときに
①その場ですぐに選択等してしまうのでなく、いったんその状況を離れて考える時間を持つこと
②選択等する前に、人の意見を聞くこと
これってとても地味ではあるものの、実行するだけで、よりよい選択、決断ができるのではないかと思っています。

なんの話?というところからのスタートとなりましたが、まず何よりもお伝えしたかったことだったので冒頭に。

その上で、こんなデータがあります。

全国の消費生活センターに寄せられる消費生活相談について、年齢別の平均相談件数を調べてみると、未成年である18歳、19歳の平均相談件数に比べ、(今の定義による)成年になりたてである20歳から24歳の平均相談件数が1.5倍と大幅に増えているというもの。

消費生活相談というのは、簡単に言うと、物を買ったり、サービスの提供を受けたりすることに伴って生じたトラブルについての相談。
たとえば、エステの無料体験に行ったら、体験後、別室でしつこく勧誘され、断り切れずに数十万っていう高額な契約をしてしまった・・・とか、この教材を買えば、1か月で、毎月100万以上のお金を簡単に稼げるようになると言われて、つい、買ってしまったけど、教材が届いてみたら、誘われたときの説明と全然違っていて、全然稼げるようにならない・・・とか。

未成年のかたからのそのような相談より、成年になりたてのかたからの相談のほうが大幅に増えているという、その原因は?

普通に考えると、未成年のかたのほうが、成年のかたよりも、知識や経験が十分でない場合が多いのではないか?だから、未成年のかたからの相談のほうが多いのではないか?と思いませんか?

成年になりたてのかたからの相談のほうが大幅に増えているというその原因は、未成年のかたは、法律で強力に守られているけれど、成年になるとそれがなくなってしまうからであると考えられています。

どういうことかというと、民法では、未成年者が契約するには、「法定代理人」の同意が必要ですよ、ということになっています。

未成年者の「法定代理人」というのは、法律で決められた代理人のことですが、未成年者の場合、通常、未成年者の親権をもつ父母。
そして、未成年者が、親権をもつ父母の同意を得ないままでしてしまった契約は、あとで、取り消すことができるとされています(取り消すことができない場合もあるので要注意)。

未成年者の場合は、先ほどの例で言うと、その場で誘いを断れなくて高額なエステの契約をしてしまったとしても、あとで、「親の同意をもらわずにしてしまった契約だから取り消します」と主張することができるのです。

契約を取り消すというのは、あとから、契約をなかったことにすることができるということ。
つまり、支払ってしまったお金を返してもらうことができます。

でも、成年になると、この、「未成年者が親から同意をもらわずに契約しちゃったから事後的になかったことにするね」、という方法が使えません。

一方で、未成年から成年になったばかりの人は、成年になったからといって、物を買ったりサービスの提供を受けたりすることに関する知識や経験が劇的に高まるわけではないでしょう。
まだまだ判断するためのもとになる知識や経験が十分でないことが多い。
それなのに、親から同意を得ていないから、あとでなかったことにします、という方法が使えないとなるとどうなるか?

あまり考えたくはありませんが、そういった状況に乗じて、あれやこれやとうまい話をして、物を売りつけようとしたり、サービスの提供を勧めたりして高額な契約を結ばせようとする悪質な業者の標的になってしまうんです。

だからこそ、未成年でいたときよりも、成年になったばかりのかたからの消費生活相談が大幅に増えるという実態があるんです。

そして、今までは、未成年者が親の同意を得ないでしてしまったことを理由に使うことができた取り消しの手段。
4月の成年年齢引き下げに伴い、この取り消しの手段をとれる年齢も変わります。
これまで守られていた18、19歳のかたたちが、この取り消しの手段をとることができなくなるのです。
嫌な言い方をすると、18、19歳のかたたちは、悪質な業者からターゲットにされる可能性があります。

「いやいや、自分はそんな悪質な業者が近づいてきたら、すぐわかるし」
「自分は断るの得意だから、全然大丈夫」

そんな声も聞こえてきそうです。
でも、なぜかいまだにそういったターゲットにされやすい立場から言わせてください。
悪質な業者は「わたしは悪質な業者です」なんて顔して近づいてきません。
そして、ターゲットのコンプレックスや欲望にクリーンヒットした話を持ち掛けてくることも多いんです。
そんな中、「自分は大丈夫」という考えはとても危険。

具体的にどんなケースがあるの?
成年になっていたら、契約してしまったが最後。事後的になんとかする方法はないの?

今後、そんな話も少しずつしていきたいと思います。

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