リーガルエッセイ
公開 2021.11.25

窃盗罪ではなく、業務上横領罪?郵便配達員が郵便物を着服して逮捕された事件について

窃盗罪ではなく、業務上横領罪?郵便配達員が郵便物を着服して逮捕された事件について
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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郵便配達員 郵便物を着服して逮捕

郵便局職員が、クレジットカードの入った郵便物を、お届け先に届けずに着服したとして業務上横領罪の被疑事実で逮捕されたと報じられました。
ニュースでは、職員は、中に入っていたクレジットカードを不正に使った疑いもあると報じられています。

職員は逮捕事実を認めていると報じられているものの、まだ逮捕の一報が入っただけで、詳細はわかりませんので具体的なコメントは控えますが、このニュースを聞いたとき、「あれ?郵便物を盗んだのであれば、窃盗罪なんじゃないの?」と思うかたもいらっしゃるのではないでしょうか?

実は、郵便局職員が、郵便物をそのまま自分のものとしてしまった場合は業務上横領罪、郵便物の中から中身だけを盗んでしまった場合は中身についての窃盗罪が成立するんです。

業務上横領罪が成立するケースと窃盗罪が成立するケースがどう区別されるのかというと、物の「占有」が、とってしまった時点で、自分にあったら業務上横領罪、他人にあったら窃盗罪。

そもそも、「占有」という言葉もなんだかよくわかりませんよね。
「占有」というのは、ある物を支配している状態そのものをいいます。

郵便局員が配達中の封筒で考えてみると、中身も含めた封筒全体の占有は、郵便局員にあると考えられます。
届け先に届けるという任務を遂行するために、信頼されて占有をゆだねられているという状態です。
だから、中身も含めた封筒全体を自分の物にしてしまうと、自分のもとに占有があることを利用して、自分の物にしてしまう業務上横領罪が成立するんです。

では、封筒の中に現金が入っていることを知り、こっそり現金だけ抜き取ってしまったら?ここでは、中身の現金はだれの支配下にあるといえるのか、つまり誰の占有下にあるのかということが問題となります。
この点、昔の裁判例で、配達する封筒全体は郵便配達員の占有にあるけれど、封筒の中身は、届けることを依頼した送り主である他人の占有下にあると判断したものがあります。
これに従って考えると、封筒の中身だけをこっそり抜き取った場合は、他人の占有を侵害したことになるので、窃盗罪が成立するという結論になるのです。
ちょっとマニアックな話になってしまったかもしれません。

今回のニュースを聞いたとき、私は、こういったケースを想定して、郵便局では具体的にどのような不祥事予防の対策がとられていたのかなと気になりました。

クレジットカードや現金を配達することもある郵便局の仕事は、これを取り扱うかたが、依頼された任務に沿って誠実に業務を遂行することへの信頼が大前提となって成り立っていると思います。

そして、こうして今回のようなニュースが大きく報じられるということは、実際にそのような信頼が裏切られる事態がレアだからこそなのだと思います。

でも、組織における不祥事予防は、そのような信頼の上にありながらも、万一を想定してその対策が講じられる必要があります。
人が不正をする仕組みを「不正のトライアングル」といいますが、これは、人は、
①動機
②機会
③正当化
という3つのリスク要素がそろったときに不正に及ぶという考え方。

これを踏まえ、組織では、常に、
①不正の動機(多額の借金、浪費など)となるようなものを抱えているメンバーはいないか
②不正の機会を想定して、その機会をゼロにするための仕組みづくりをしているか
③不正の正当化(たとえば、「課せられたノルマを果たすためなんだからしかたないだろう」など)
となるような要素が組織内にないかということを考え、組織内で起きる不祥事を予防する対策を講じる必要があるのです。

今回報じられた件についても、今後の捜査に注目していくとともに、不祥事予防に向けた取り組みについても注目していきたいと思います。

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