リーガルエッセイ
公開 2021.06.07 更新 2021.07.26

子どものことを考えて、離婚をためらう 「リコカツ」第8話

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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リコカツ第8話 ~「子どものために離婚をためらう」~

第8話を今見終わったところです。
それにしても、今回は、二人の見事なまでのすれ違いっぷりに、「いや、違うって!」「そうじゃないんだって」と画面に向かって何度訴えかけたことか…。
最後、緒原さんが、自分自身に感情を爆発させたシーンは胸にぐっとくるものがあって、思わず泣きながら「だから言ったじゃん」とつぶやいてしまいました。
恋愛ってこんな風にすれ違いを重ねる難解なものなんでしょうか?
本当は相手のことが好きなのに、相手の気持ちを勝手に慮って、自分の気持ちを抑えて気持ちを打ち明けるのをやめたり、「相手が本当に幸せになる相手はだれか」なんて考えて、自分以外の人と相手をくっつけようと尽力したり、それが本当の愛というものなのでしょうか?
どストレートに自分の気持ちを伝えるとか、相手の言葉をそのまま受け止めるという以外の方法を知らない私には、ただただ謎のやりとりが繰り広げられていたように見える第8話。
早速リコカツ視聴仲間に連絡し「こういうのが本当の愛というものなの?」と聞いたところ、「それは人に答えを求めるものでなく、自分で経験して自分なりの解を見つけていくものである」という至極もっともな回答が返ってきました。
「自分なりの解なるものを見つける旅は、これからでも間に合うもの?」という愚かな問いに対しては、もちろん、返信すらありません。

そんな第8話ですが、今回気になったのは、前回に続き、さきさんのお姉さんの言葉。
離婚を考えて夫とともに住んでいた家から出てきたお姉さんが、9歳の一人娘の寝顔を見ながら、「やっぱりお父さんに会いたいんだろうな。この子の気持ちを考えると、離婚について、本当にいいのか考えてしまう」という趣旨のことを言った場面です。
この言葉も、離婚するかどうかで悩む女性から非常によく聞く言葉。
そして、ドラマとか本とかで、こういう発言をする女性に対して投げかけられる言葉というのも大体決まっていて、「そんなこと考えなくていい!あなたにはあなたの幸せがあるはず。あなたが幸せじゃなくちゃ、子どもも幸せになれないよ」っていうところじゃないでしょうか?
それ自体は、私も否定するつもりもなく、たしかにそうだと思います。
でも、「子どものことを考えたら」ってすごくあいまいだと思いませんか?
そんなあいまいなものを抱えたままで、「あなたの幸せがまず大事!」と背中をプッシュされて離婚に向けて動き出したとしても、たぶん、離婚に向けた話し合いが難航したり、寂しがる子どもの涙を見たり、子どもの寝顔を見たりした瞬間に「やっぱり決断は間違っていたかな」と自分の選択を後悔してしまうんじゃないかなと思うのです。
一方で、ここをあいまいにしたまま現状維持を選択するとしたら、今度は、またどこかのタイミングで「やっぱりあのとき離婚に踏み出した方がよかったのでは」「子どものせいで現状維持を選択せざるを得なかった」というような思いになってしまうこともあるかもしれない。
これ、子どもにとっては大迷惑な話ですよね。
私は、「子どものことを考えたら」というところを、もっともっと深く掘り下げて、最終的に、「私がこうしたいからこっちの選択をした」といえるところまで考えを深める必要があると思っています。
そのためには、まず、第一歩として、自分が不安に思っていることの正体をはっきりさせる必要があると思います。
同じく「子どものこと」が不安材料だったとしても、その中身として、具体的に何がひっかかるかは人によって少しずつ違うと思うんです。
そこを1個1個丁寧に拾い出して、自分がひっかかっているところについて、明らかにしてみることが大事だと思います。
たとえば、ある人にとって「子どものこと」というのは、子どもが、学校で、両親が離婚したことをお友達に言われて、悲しい思いをすることを指すのかもしれません。
お客様の中には、そのような気持ちを打ち明けてくださるかたもいます。
そんなとき、私は、ただただお客様にいろいろ質問してみます。
そして、その答えを考える中で、一緒にお客様の気持ちと正面から向き合うようにしています。

たとえば、

  • 「両親の離婚について、お友達が知る可能性って現実的にどれくらいあるのかな?たとえばどんなときが考えられるかな?」
  • 「仮にお友達がそれを知ったとして、それによって子どもは悲しい気持ちになるのかな?」
  • 「悲しい気持ちになるとしたら、それはお友達に何か言われたことに対してなのかな?それとも、お友達どうこうではなくて、実は、父親との関係が薄れてしまうことについてなのかな?」
  • 「だとしたら、薄れさせないための方法があるのかな?もし、離婚しても子どもが父親との関係をしっかり築ける環境にあったら、だれに何を言われても悲しい気持ちにならない可能性もある?」
  • 「そんな子どもの気持ちをサポートするために、母として、どんなことができそう?」
  • 「お友達から言われて子どもが悲しい思いをするのではないかと心配していたけど、それって本当?実は、私自身が、世間から『離婚なんてして子どもがかわいそう』と言われることがいやだという気持ちが隠れているのではないかな?だとしたら、本当にかわいそうなのかな?」

など。

こんなやりとりの中で、「よくよく考えてみると、一番の問題は、子どもがどうこうということではなかった。それを掲げることで自分の本心をごまかしていた。実は、私自身が、人から『あの人離婚したんだって。勝手だね』って思われるような気がして、それが恥ずかしいっていうのが本心だった」と気づいて、「自分が人からの目を気にして踏み出せないうちは、まだ離婚を選択するタイミングじゃないと思った。そもそも離婚したいのはどうしてだったかというところからもう一度よく考えてみたいと思う」と思い直したかたもいます。
また、ある人にとっては、「子どものことを考えたら」というのは、離婚したら、子どものために使えるお金が今よりも減ってしまうから、子どもの好きな習い事をやめさせなくてはいけなくなるんじゃないか、進路を考えるときに、私立学校を選択するだけの経済力がないし、大学に行けるだけの経済力がないし、塾に行かせるだけの経済力がないから、進路を狭めてしまい、子どもの夢の実現を妨げてしまうのではないかという心配であったというかたもいます。
その場合は、離婚したら、本当に、私立学校や大学に進学する選択肢がなくなるのか?というところを考えてみることが必要かもしれませんね。
離婚した場合、単純に考えれば世帯収入は減ることが多いから、たしかに、離婚しない場合と比べると経済的にはいろいろ工夫が必要になるというのは事実だと思う。
でも、それをカバーする方法がないわけではありません。
相手が、離婚しても、子どもには、離婚しない場合と同じように進路が選択できるようにしてあげたいと思っているかもしれないし、そこまで具体的に考えていなかったとしても、今後のこちらの工夫次第で、相手にそう思ってもらうように進めることができるかもしれない。
また、それと併せて、自分が離婚後どういう仕事のしかたをしたいと思っているか、収入を上げる方法はないのか?そんな自分の人生設計と向き合う必要が出てくるかもしれない。

こうしていろいろ考えて、結局、離婚したらどうなるのか、ということが見えてきた上で、じゃあ自分はどうしたいか、ということを考えてみるといいと思います。
ここのところは、ただ想像しているだけだと難しいところ。
離婚するかどうか選択しようにも、離婚したらどうなるのか、というところが見えないから選択する段階まで進めないというかたは、弁護士に相談してみることをお勧めします。
離婚に進むかどうかという大事な局面。
正確な知識を得た上で、後悔のない選択をしていくためにもお気軽にご相談ください。

ここまで書いてきましたが、頭の中はやっぱりまだもやもや。
冒頭の話に戻りますが、私は、第8話で描かれていたように、なんだかんだと相手の気持ちを慮って、自分の気持ちにうそをついて本心と違うことを言ったり、身を引いたりするようなことはだれにとってもいいことはないんじゃないかなと思ってしまう。
そういうのは、相手の器を信じていない行動なんじゃないかなと思うから。
本心を言ったら相手は私の言葉に引きずられ、自分の幸せを求められなくなるのではないか、本心を言ったら私の言葉に翻弄されてしまうのではないかって思っているということですよね?
それって、相手を思いやっているようで、実は、相手の器を小さく見積もった失礼な行動なんじゃないかと思うのですが、どうなんでしょうか?
私は、常に、相手に対して、私がどんな本心をぶつけても、相手は、それはそれとして受け止めてくれる人で、私の本心の訴えによってネガティブな気持ちになってしまったり、翻弄されて自身の幸せを追い求めることができなくなったりすることなく、私の投げかけた本心を踏まえた自分の考えをちゃんと伝えてくれる器の大きな人だという絶大な信頼があるので、やはり私は、これからもど直球でいきたいなと改めて思いました。
そんな突然の熱弁に対しても、私のリコカツ視聴仲間は一切の反応もなく、あくまでも静寂を守ります。
右に左に激しく揺れる私の感情にいちいち反応することなく、「いつものことだ」と静観してくれるというのもまた、人としての器の大きさなのかもしれません。
第9話視聴後、また更新します!

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