リーガルエッセイ
公開 2021.05.18 更新 2021.07.18

妻への暴行罪で男性タレントに罰金10万円の有罪判決が言い渡された件について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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ほおを小突いて罰金10万円

先日、妻のほおを小突いたとして暴行罪で起訴された男性タレントに罰金10万円の有罪判決が言い渡されたと報じられました。
一般的に、「小突く」というのは、相手の体を指先などでちょっと突く行為のことを指すようです。
今回報じられた件で、「ほおを小突く」というのが、具体的にどのような態様だったのか、報道だけからは詳しくわかりません。
ただ、これが、ほおを1本の指先で、ちょっと押すような行為を指していたとしたら、そのような行為に犯罪が成立するのか?しかも罰金10万円となって前科ができてしまうのか?と驚かれるかたもいるかもしれません。
たしかに、私自身、相手の体を指でちょっと押したという行為のみで起訴したという経験はありません。
でも、暴行罪というのは、他人の身体に向けた有形力の行使をもって成立します。
これは、他人の身体に接触しなくても暴行罪が成立する場合があるということで、たとえば、相手のいる狭い部屋で刀を振り回しても暴行罪成立と判断された裁判例もあります。
人の体を指先でちょっと押すという行為も、もちろん、人の身体に向けた有形力の行使といえるので、暴行罪自体は問題なく成立するのです。
ただ、それを起訴するのかどうかというと話は別です。
犯罪が成立するとしても、法律で、検察官は、いろいろな事情を考慮して起訴しないということができることとされています。
ここでいういろいろな事情というのは、被疑者の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情況など。
これらを考慮して起訴不要と判断したら起訴しなくてよいとされているのです。
暴行罪の法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料とされていて、他の犯罪と比較しても軽微な犯罪。
ですから、これまでに前科がない人については、他人に暴行を加えても、それ自体が軽微な犯罪であるとして不起訴になることがあります。
被害者のかたと示談が成立し、被害者のかたが「もう処罰を望みません」と言っている場合はもちろん、暴行の態様というものが、それほど悪質とまでは言えず、被疑者も自分のしたことを反省し、二度と同じことをしないことを約束しているようなときは、被害者のかたと示談が成立していなくても不起訴になることがあります。
暴行罪は、立証の観点から不起訴になることがあります。
傷害罪と違って、被害者が被疑者の暴行でけがを負ったりしないため、被疑者が「自分は何もしていない」と言ったり、「間違ってちょっと体が接触してしまっただけ」と言ったりした場合、ほかに目撃者がいなかったり画像などで証拠が残っていないと、被害者の供述と被疑者の供述とどちらが信用できるのか?というところを認定することがとても難しいことがあるからです。

でも、自分が、突然、相手から体を手で押されるという状況を想像してみてください。
その相手が自分より力が強い相手だったら?
被害に遭ったときの体制や場所によっては足元がぐらついておそろしい思いをすることもあるのでは?
客観的には小突くという態様に収まる行為だったかもしれないけれど、不意に小突かれた側の立場からすると、驚き、ショックもあるだろうし、痛みだって周囲が想像する以上に感じるはず。
さらに、その前後の被疑者の言動によっては、小突くという行為であってもさらなる強い暴力を振るわれるのではないかと恐怖におそわれることもあるでしょう。
だから、暴行罪は軽いから、普通は不起訴、などということは言えず、立証ができ、悪質できちんと刑事責任を明らかにすべきだと評価される場合は、もちろん、起訴されて罰金になったり、懲役刑になったりすることも十分あり得るのです。
報道によれば、このたび報じられた件では、男性が、妻に、「ボコボコにするから」と妻に恐怖心を抱かせる言葉を投げつけた上で小突いたという事情も考慮されて罰金刑の言い渡しがなされたようです。
しかも、その暴行に至る経緯として、夫婦間の口論があったという事情を考慮してもなお罰金刑の言い渡しが相当としています。
夫婦間の口論自体は対等な言い争いで、どちらが一方的に悪いということがなかったとしても、その過程で一方が手を出したら、そこからは100%その手を出した行為が悪いということとなり、暴行罪として起訴されて前科がついてしまうこともあるのです。
先日、続く自粛生活、自宅で飲酒する機会が増えたこともあり、あるNPO法人に寄せられる配偶者からのDV相談が緊急事態宣言発令前の3倍に増えたと報じられました。
たまるストレス、自宅での飲酒、そんなときに夫婦でけんか、などという要素がそろってしまったときにちょっとした言い争いがエスカレートして刑事事件になるという危険も実は身近にひそんでいるように思います。

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