リーガルエッセイ
公開 2021.03.02 更新 2021.07.18

「初回無料」商法に刑事罰を導入する法改正案とは?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

「気づいたら定期購入」

毎度、「あれ?これってデジャヴかな?」と思います。
お恥ずかしい話、よくやってしまいます。
「初回だけ無料!一度だけお試しください!」「通常〇〇〇〇円のところ、初回だけ、なんとワンコイン!」みたいなあれです。
私の場合は、努力せずして美を獲得できるといううたい文句のものに弱いという傾向があります。
申し込んだ後、「これはこの間のあれでは?」と気づくときもあるのです。
でも、もはや、どこに解約の連絡を入れたらよいのか、広告をたどってもたどってもわからず、最後は、解約の方法を考える時間のコスト>定期購入となってしまった場合の経済的コストとを比べ、時間に勝るものはないと判断して泣き寝入りするんです。

みなさんもこのような広告に引き寄せられてつい申し込みをしてしまったところ、気づかないうちに定期購入となってしまっていて、結局、想定をはるかに超える金額を払うことになったというご経験ありませんか?

先日、消費者庁が、「初回無料」商法に刑事罰を導入する法改正案を国会に提案予定である旨の報道を見ました。
これを見て、これまでは刑事罰がなかったのか?と思われるかたもいるかもしれません。
ちょっと誤解を生みそうだなと思う記事もありました。
今の法律(特定商取引に関する法律という名前の法律です)にも、このような定期購入トラブルに関し刑事罰自体はあるんです。
ただ、今の法律では、業者が、「(顧客の)意に反して契約の申し込みをさせようとする行為」をしたとき、そのことを直接刑事処罰の対象にできるわけではなく、そのような行為をしたことに対し、まず、行政から、是正のための措置などをとるよう指示があるのです。
その指示があったのに、指示に違反した業者について刑事罰が定められているのです。
違いがわかりますか?
今の法律では、やっちゃいけないことをやってしまった業者に、まず「やっちゃいけないっていったでしょ。改善しなさい」という指示がある。
その指示に従わなかったら、そりゃ悪質だから、刑事罰もありうるよ、というわけです。
法定刑は懲役6か月以下、または、100万以下の罰金。両方を合わせて科すことも可。
違反行為をしても、「おかみから指摘されたらやめれば刑罰まではいかないから大丈夫」と考える業者もあったかもしれませんが、今後は、違反行為をしたら、指示なくして、いきなり刑罰の対象になりうる、ということ。
それにしても、そもそも何が違反行為なのかってことがわかりにくいなあと思いませんか?
「意に反して契約の申し込みをさせようとする行為をしたとき」って、解釈の幅がかなり広くなりますよね。
この行為をしたことが即刑罰の対象になりうるのだとしたら、当然、こんなあいまいな行為の禁止規定で許されないはず。
刑罰が科されるためには、あらかじめ、こういうことをしたら刑罰を科されるんだよ、ということが明確になっていないといけないのです。
だから、改正法で違反行為を直接処罰しうる規定ができるのだとしたら、何が違反行為かということが法律で明確に書かれるはずです。

それにしても、別に刑罰を科すから、ということでなく、そもそも、法律の規定って、その法律が関わってくる業界の人たちが読んだときに、「なるほど、そういうことやっちゃいけないんだな」とわかるような内容になっていないといけないんじゃないかと思いませんか?
たしかに、全部が全部、法律で書ききれるわけじゃなくて、詳細は別のところに書いておきますね、ということもやむをえませんし、そっちのほうがわかりやすい場合もあるのですが、それにしてもよくわからないなと思います。
今の法律でいうと、このやっちゃいけない行為の具体的な意味は、「主務省令で定めるもの」となっています。
主務省令ってなに?となってそこで止まってしまいませんか?
今回の場合、主務省令とは特定商取引法施行規則を指します。
じゃあ、その規則では、この違反行為はどのような行為だと定めているかというと、①顧客がパソコンの操作を行う際、申し込みとなることを容易に認識できるように表示していない場合や②申し込みを受ける場合に、顧客が申し込みの内容を容易に確認及び訂正できるようにしていない場合をいうとされています。
要は、顧客がポチるときに、そのポチることの意味がちゃんと画面上わかりやすくなっていること、また、顧客が、いまいち申し込みの内容がぴんと来なくてちゃんと確認したいな、ミスがあったら訂正したいなと思ったとき、それが簡単に叶うようになっていることが必要で、それをしていないときに「顧客の意に反して契約の申し込みをさせようとする行為」にあたりますよ、ということ。

ここまで来ても、「でも具体的に私のケースはどうなの?」となりますよね。
それについては、「ガイドライン」というものがあって、この法の趣旨からいって「わかりにくい」と判断される例が具体的な画面の例を挙げながら説明されているのです。

定期購入に関して、「自分で確認する限りはこんな契約じゃなかったはずなのに、長期にわたる複数回の契約が締結されたことになっていて、突然想定を上回る金額の請求が来てしまった」「解約したいのに、どうやって解約したらいいかもわからない」そんなとき、国民生活センターに相談してみることをお勧めします。
自分のケースで相談してもいいのかな?と不安なかたもいるかもしれませんね。
そんなときは、国民生活センターのホームページを見てみてください。
どんな相談事例があるか、などということが詳しく掲載されています。
コロナ下で健康不安があったり、運動不足からオーバーウェイト気味になってしまったり、買い物するにもネット購入が増えたり、といった中、定期購入に関するトラブル相談は激増しているそうです。
一人で抱えず、気軽に相談してみてください。

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