リーガルエッセイ
公開 2021.01.19 更新 2021.07.18

新人弁護士Tくんの熱いメッセージを受けて

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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YouTube 無断で撮影

昨年は、毎日1記事書くことを目標にしていましたが、今年になって、「毎日1記事にこだわらずに、質を追求することにしよう!」という言い訳をしながら、エッセイを書くペースが落ちていました。
今日も、自ら、そんな情けない言い訳をしつつ目の前の業務に追われていたとき、昨年12月に入所した新人弁護士のTくんから社内メッセージをもらいました。
何か困ったことでも起きたのかな?と慌ててメッセージを読むと・・・

「高橋さんに提案です!ちまたで、道行く人が、YouTuberと思われる人から、『撮影していいですか?モザイク入れますから』としつこく付きまとわれて、断っても無理に撮影してくる被害があるっていう話を聞きました。そんなことをされたら、きっと、無理に撮影された人は、今後、自分の顔が知らないところでアップされてしまうんじゃないかって不安だと思うんです。そんな被害に遭ったら何ができるか、エッセイで発信してはどうでしょうか?自分も何ができるか考えてみますので!」との熱いメッセージがありました。

正直、今日終わらせなくてはいけない業務がいくつも頭をよぎりました。
でも、私が、何を頼んだわけでもないのに、自分で、「何か自分にできないか?弁護士として何かすべきことはないか?」とアンテナを張って、そこにひっかかったことを私にこんなにも熱く提案してきてくれた新人弁護士の思いを聞き流すことなど私にはできるはずがありません。
今日は、腰の重い先輩弁護士を、情熱で動かした新人弁護士Tくんとのやりとりをご紹介したいと思います。

  • 「で、何ができると思う?」
  • Tくん「まず、人には、肖像権があります。肖像権というのは、他人にみだりにその容姿等を撮影、公表されない権利のことです。また、人には、プライバシー権もあります。プライバシー権というのは、他人にみだりに私生活上の関する情報を公表されない権利のことです。道行く人がいやだと言っているのに、無断でその姿を撮影する行為は、こういった肖像権やプライバシー権を侵害することになりますから、それらの権利を侵害されたことを理由として不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると思います。」
  • 「精神的苦痛について慰謝料を請求するということね。慰謝料って、弁護士費用を払ってもあまりあるくらいの高額な慰謝料を獲得できそう?」
  • Tくん「事案によるとは思います。でも、道行く人が、いやだと言っているのにその姿を撮影されたということでの慰謝料ということを考えたとき、数十万という、とても高額とはいえないような金額になることも考えられ、その場合は、弁護士に依頼するとしても、いきなり裁判を起こすというよりは、弁護士を通じて話し合いによる解決を目指すことなどが考えられると思います。」
  • 「あとは、特に名の知れた相手じゃなかったときは、交渉や訴訟の前提としての相手方の特定っていうところもひとつ大きなハードルになりそうね。無断で撮影してきた行為について、刑事責任を問う手段はありそう?」
  • Tくん「道行く人の姿を撮影すること自体で直ちに刑事責任を問われることはないと思います。でも、その態様によってはありえます。たとえば、暴行とか脅迫を手段として無理やり撮影するという場合には、暴行や脅迫を用いて義務のないことを行わせたといえるため、強要罪が成立する場合があると考えます。」
  • 「あとは、撮影した映像を勝手にアップされてしまったら、その内容によるけど、名誉棄損罪なども考えられるかな。もっとも、それ自体、社会的評価を低下させるような内容じゃなかったら、名誉棄損罪の成立は難しいかもね。たとえば、自分の姿が勝手にアップされていることを発見したら、その動画を削除してくれってどこかに依頼できるのかな?」
  • Tくん「その点は、すでに、YouTubeの利用規約を調べてみました。動画に肖像権侵害やプライバシー侵害がある場合は削除できる、と明記しているものを見つけることはできなかったのですが、第三者に損害を及ぼす可能性があると合理的に判断する場合には、YouTubeが独自の裁量でコンテンツを削除できるとの記載があります。ですから、たとえば、アップされた動画にモザイクがかかっていて、全くその姿が見えない場合は、そもそも権利侵害がなく、削除が認められることはないのかなと思いますが、モザイクって濃淡いろいろあると思うんです。その濃さとか、あとは動画に入っているテロップとかで、この人が誰だっていうことが判別できるような状態になっていたら削除の対象になりうるのではないかと思います。」

こんなやりとりを通じて、私は、またフレッシュなエネルギーをもらうことができました。
私も8人の新人弁護士に紛れ込んで9人目の新人弁護士になった気持ちで、また今日からフレッシュに勉強していきたいと思います。

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