リーガルエッセイ
公開 2020.10.23 更新 2021.07.18

財産開示手続きとは

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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財産開示手続って?

先日、裁判所から財産開示手続を受けたのに出頭しなかったとして、民事執行法違反の被疑事実で書類送検されたと報じられました。
財産開示手続という言葉、聞いたことがないというかたもいるのではないでしょうか?
財産開示手続というのは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続です。
AさんがBさんに100万円を貸したのに、Bさんが、期限までに返してくれなかったとします。
Aさんは、何度請求してもBさんが返してくれないので、やむを得ず、100万円を返してくれという裁判を起こしたところ、「BさんはAさんに100万円を支払え」という判決が言い渡されたとします。
Aさんとしては、自分の請求が認められ、判決が出たのだから、いよいよBさんは返してくれるだろうと思ったのに、それでもBさんは払いません。
Aさんは、このままでは、せっかく勝訴判決を獲得したのに、それが無駄になってしまいます。
そこで、Aさんは、勝訴判決をもとに、裁判所に、Bさんの財産の中から強制的に100万円を回収する強制執行の申立てを考えます。
Bさんは、「私には、財産は何もない」と言っています。
Aさんとしては、Bさんは働いていると聞いているし、生活ぶりを見ていても、何もないということはないだろうと思っています。
でも、Aさんは、Bさんがいったいどこにどんな財産を保有しているのか知りません。
強制執行の手続で確実にお金の回収をするためには、差し押さえる財産を発見、特定することが必要です。
そんなときに使える手続きのひとつが財産開示手続なのです。
財産開示手続については、民事執行法という法律に定められています。
民事執行法では、Aさんが、裁判所に、財産開示手続を申し立て、裁判所がその実施を決定したら、Bさんは、裁判所の指定した財産開示期日に出頭し、自分の財産について陳述しなければならないとしています。
この期日では、裁判所が、Bさんに質問をすることができるのですが、裁判所のみならず、Aさんも、Bさんの財産の状況を明らかにするために、裁判所の許可を得てBさんに質問することができることになっています。
財産開示手続というのは、こんな手続きなのです。

出頭しなかったらどうなるか?

報道によると、警察が財産開示手続に出頭しなかった人について立件したのは、今回が初であったとのこと。
実は、財産開示手続自体は、これまでにも存在していたのですが、期日を無視して出頭しなかった場合のペナルティが、過料30万円だったのです。
過料というのは、刑罰とは違います。
ですので、仮に過料を課されたとしても前科にはなりません。
それが、令和2年4月の法改正で、裁判所の呼び出しを受けた財産開示期日に、正当な理由なく出頭しなかったら6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることとなったのです。
これに該当し、罰金刑が課せられれば、前科になります。
このように法改正がされたことで、財産開示手続が、改正前に比べて、債権者の債権回収のために役に立つ制度になるのではないかと期待されていたところです。
でも、ただペナルティが課されることになったというだけではやはり効果は見込めません。
違反について、警察は厳しく捜査し、事件化すると認識されて初めて効果を発揮するのだと思います。
ですから、今回、改正法に基づき、警察が、積極的な摘発姿勢を見せたことは、とても大きな意味があったと思います。

実は、私も、弁護士になって間もないころ、財産開示手続の申立てをしたものの、相手に無視され、結局、依頼人の債権をすべて回収することができずに終わってしまい、とても悔しい思いをした経験があります。
今後、必要な場面で積極的に財産開示手続を利用し、そこで万一、相手が裁判所からの呼び出しに応じないという事態に直面した場合には、積極的に刑事告発することを検討していきたいと思います。

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