リーガルエッセイ
公開 2020.10.21 更新 2021.07.18

コロナ条例

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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コロナを複数の他人に移したら過料?

先日、ある都議が、次の都議会定例会で、違反したら行政罰を科される条例案を提出する予定であると報じられました。
報道によると、その条例案の中の条項には、新型コロナウイルスに感染した人が、就業制限、外出制限に従わないことで、よって、一定人数以上の他人に感染させたときは、5万円以下の過料を科すというものがあるとのことです。
つまり、感染がわかって、外出してはいけないとされているのに、それを破って出歩いて、それによって複数の人に感染させたら5万円以下の過料が科されるというもの。

実際に過料を科すことは可能?

この条例案は、保健所が、陽性者は医療施設やホテルまたは自宅で療養するよう協力を求めているが、これに従わないケースが出てきていることを踏まえて、従わないことに対してペナルティを課すことで感染拡大を防ぐ目的があるのだと思います。
たしかに、これまでにも、陽性確認され自宅待機となったのに、その後、飲食店に行ったことが確認されたという人があったり、入院施設から外出してしまったという人があったりという報道を見たことがあります。
ですから、過料を科す条例ができれば、ペナルティを避けるために違反行動をやめようという動機づけにはなると考えられたのでしょう。
でも、この条例を適用して過料を科すことは現実的に無理なのではないかなと思うのです。
というのも、就業制限や外出禁止を命じられた人が、それに違反して就業したか、外出したかということは明確にできる場合はありそうですが、その違反の行動によって、一定人数以上の他人に感染させたということを証明することはまず無理なのではないかと思うからです。
今、これだけ多くの人が新型コロナウイルスに感染している現状で、果たして、間違いなく、陽性確認されながら外出した、このAさんから感染させられたものであると感染ルートを確定するということができるのかというと無理だろうと思います。
「一定人数以上の他人」が、一定期間、1人暮らしの家に、ずっと1人で閉じこもっていて、スーパーやコンビニに買い物にも行っていない、荷物の配達などもなかった、その間、Aさん以外の人とは一切会うこともなかったというなら別です。
でも、そんなことはなかなか想定できませんし、さらに仮にそのような事実があったとして、そのことを証明することはまず無理なのではないかと思います。
陽性確認されたAさんの外出により、一定人数以上の他人が新型コロナウイルスに感染させられたという因果関係を証明することができなければ、この条例を適用して過料を科すことはできないはずです。
実際はペナルティを課すことができない、となれば、ペナルティを課すことで違反行動をやめようという動機づけを形成することは難しくなるのではないかと思います。
そう考えると、仮にこのような条例が制定されたとして、その実効性にどこまで期待できるのか、という点は疑問に思います。

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