リーガルエッセイ
公開 2020.10.12 更新 2021.07.18

執行猶予中に麻薬使用 そもそも執行猶予とは

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、執行猶予期間中に合成麻薬を服用したとして起訴された男性に執行猶予付きの判決が言い渡されたと報じられました。
執行猶予という言葉、ニュースやドラマなどで広く知られていると思います。
裁判官は、執行猶予判決を言い渡すときに、被告人に対し、その意味をとても丁寧に説明されているのが通常です。
たとえば、「懲役1年、執行猶予3年」という判決を言い渡したとき、「懲役1年という判決を言い渡しましたが、あなたが、3年間、罪を犯すことなく過ごしたら、懲役1年という刑の言い渡しがなかったことになり、刑務所で懲役に服さなくてもいいということになります。でも、もしこの3年間にあなたが犯罪を犯して、これが有罪になると、新たに言い渡された刑だけでなく、今回言い渡した懲役1年の刑も合わせて服役しなければならなくなって、あなたはとても長い期間刑務所に入ることになります。また、執行猶予期間が経過したとしても、同じような犯罪に手を染めたら、実刑判決になることも多くあります。この重みをよく理解してくださいね」などと説明されているのをよく聞きます。
なかには、被告人がきちんと理解しているかどうかを確認するために、改めて、被告人の言葉で執行猶予判決の意味を説明させる裁判官の裁判にも立ち会ったことがあります。
執行猶予判決というのは、どこか、「やれやれ刑務所に入らなくて済んだ。これで無罪放免」というように少し楽観的に受け止められている印象がありますが、それはとんでもない誤解で、更生のための厳しい道のりのスタートとして気を引き締めて受け止めなければならない重い判決だといえます。
だからこそ、裁判官も、その認識を正確に持ってもらうために丁寧な説明をされるかたが多いのだと思っています。

2度目の執行猶予

冒頭で紹介した報道によると、執行猶予期間中に麻薬を使用した被告人に執行猶予判決が言い渡されたとのこと。
執行猶予期間中に犯罪を犯して有罪になったら、前に言い渡された刑と今回言い渡された刑と合わせて刑務所で服役しなければならないのではないか?と思うかたもいるのではないでしょうか?
たしかに、それが原則です。
でも、法律では、要件を満たすときに例外的に再度の執行猶予が認められる場合があるとされています。
要件は3つあります。
新たに言い渡される刑が1年以下の懲役、禁錮刑であること、情状に特に酌量すべきものがあること、前回保護観察に付されていなかったことです。
この要件を満たすことはかなりハードルが高いと思います。
私自身、検察官としても弁護人としても、再度の執行猶予を言い渡す判決が言い渡された経験はほとんどありません。
執行猶予判決を言い渡すとき、裁判官は、「この期間中に何か犯罪をしたら長い期間刑務所に行くことになりますよ。次は実刑ですよ」と説明するのが通常ですし、弁護人も、被告人に対し、「執行猶予期間中は特に注意して過ごしてくださいね」と念には念を入れて伝えるのが通常だと思います。
そこまで注意されていたのに規範を乗り越えて犯罪を犯してしまったとなれば、やはり、社会内でやり直しを図ることは難しいと判断されるのが通常なのです。
そう考えると、今回報じられた事例は、詐欺未遂で有罪判決を受けて執行猶予中だった被告人が合成麻薬を服用した事実で有罪判決を受けたもの。
執行猶予期間中であることを認識しつつ、違法薬物に手を出したという行為は、執行猶予判決を軽く受け止めていたのではないか、更生の意欲が欠けていたのではないかと強い非難に値するといえそうです。
報道によれば、にもかかわらず、再度の執行猶予判決となった背景には、被告人自身が違法薬物に絡む人間関係を断つと約束するとともに、被告人の親が被告人を連れて冤罪の住まいを離れ更生に向けた環境を整えたことが関係しているとのこと。
そのような事情があってもなお原則として実刑判決になる事案も多いため、被告人の年齢が比較的若年であることも考慮され、刑務所での服役よりも最後に社会内で更生するチャンスが与えられるべきだと考えられたのかもしれません。
弁護人としても、執行猶予期間中の犯行について再度の執行猶予判決を獲得することは非常に困難であることは事実としても、個別の事情を検討し、被告人の今後の人生にとっては最後にもう一度社会内でのやり直しの機会があってしかるべきといえること、そしてその環境が整っていることを粘り強く主張することが必要であると感じました。

裁判官の言葉

なお、報道によれば、この判決を言い渡した裁判官は、判決言い渡しの後で、「正直言って甘い判決だと思う。裁判官が10人いたら9人は実刑判決の事案。検察官が控訴すれば、高裁は実刑と判断するかもしれない」と被告人に伝えたそうです。
裁判官は、被告人に、「それでも私はあなたの反省の気持ち、あなたのやり直したいという意欲、それを支える家族の決意を今回は信じたい」と伝えたかったのかなと思います。
判決を言い渡した後、こうして、被告人への思いをご自身の言葉で伝える裁判官がいらっしゃいます。
そのような裁判官の言葉は、きっと今後の被告人の人生に大きな支えになったり、救いになったり、ふと危険な誘惑に乗りそうになったときにそこから引き返す力になったりしてくれるだろうなと感じることがあります。
今回もそうであってほしいなと思います。

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