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先日、厚労省が、「新型コロナウイルス感染症の拡大による今春就職予定の学生らへの採用内定取り消しが3月17日時点で12社20人に達した」と明らかにしました。
また、このような事態を受けて、複数の企業が、このような採用内定取り消しを受けた学生らを対象に、採用活動を開始したとの報道も見られます。
そもそも、このような採用内定取り消しは、法的に問題ないのでしょうか?
「内定」とは「始期付解約権留保付労働契約」
内定とは、条件つきの労働契約です。
学生が募集に応募し、それに対し、企業側が採用内定通知を出すと、学生による内定承諾書等の提出とあいまって労働契約が成立します。
ただ、その労働契約は、就労始期つきのものであるという点、企業側が一定の範囲で契約を解約する権利が留保されている点が通常の労働契約とは異なるのです。
内定を取り消せるのは、どんなとき?
過去の判例では、内定を取り消せるのは、①内定当時知ることができないか、知ることが期待できないような事実であって②これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる場合に限られるとしています。
内定も労働契約ですから、それを取り消せる場合というものは限定されているのです。
具体的には、予定どおり学校を卒業することができなかった場合、申告していた経歴の重要部分に詐称があることが発覚した場合などは内定取り消しができると考えられます。
では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、内定を出した当初は予想もできなかったくらいに業績が悪化してしまっているという企業が、これを理由に内定を取り消すことはできるのでしょうか?
このことについては、整理解雇の有効性判断に準じて慎重に判断すべきでしょう。
整理解雇というのは、企業側が、不況や経営不振などの理由により、解雇せざるを得ない場合に人員削減のために行う解雇のことです。
そして、これは雇う側の事情による解雇ですので、4つのポイントに照らして、解雇の有効性が厳しく判断されることになります。
ポイント① 人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること。
ポイント② 解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集などほかの手段によって解雇を回避するための努力をしたこと。
ポイント③ 人選の合理性
対象者を決める基準が客観的、合理的で、運用も公正であること。
ポイント④ 解雇手続きの妥当性
解雇の必要性、時期等納得を得るために説明を行うこと。
過去の裁判例で、企業側において人員削減の必要性が高く、従業員に希望退職等を募る一方、採用内定者にも相応の補償を提示して入社辞退を勧告するとともに、ある内定者には入社を前提に職種の変更を打診するなど採用内定取り消しを回避するために相当の努力を尽くした場合であっても、内定取り消し前後の企業側の対応に誠実性に欠けるところがあったこと、採用内定に至る経緯や内定取り消しによって内定者が著しい不利益を被っていることを考慮して、内定取り消しが社会通念に照らし相当と言えないという厳しい判断をした事例があります。
以上見てきたところによれば、今回報じられている採用内定取り消しについても、その態様によっては法的に許されないケースもあると思われます。
採用内定取り消しについては、企業側も学生のかたも相談を
3月13日には、内閣官房内閣審議官らより、「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた2020年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動及び2019年度卒業・修了予定等の内定者への特段の配慮に関する要請について」と題する要請が出ました。
ここでは、今般の影響を受けて不安を抱いている学生に対し、その不安を解消するように、また、その取扱いに特段の配慮をするようにと呼び掛けています。
また、厚生労働省は、このような事態を受け、雇用を維持した企業で一定の要件を満たした場合に支給する雇用調整助成金の要件を、新型コロナウイルス対策の特例として緩和させ、その活用を企業に呼び掛けています。
企業側は、採用内定取り消しを検討しなければならない事態となった場合は、その取消に法的な問題がないといえるか、具体的にどのような対応をすべきか、ハローワーク、弁護士等に相談に行かれることをお勧めします。
そして、採用内定取り消し通知を受けた学生の方においても、その取消に法的な問題がないといえるのか、企業側に対し、何かできることはないか、大学の相談窓口や弁護士等に相談に行かれるとよいでしょう。
希望をもって働こうとしている学生の皆さま、そして、そのような新入社員のかたを迎え入れることを心待ちにされていた企業側の皆さまが、法的紛争に至らずにこの事態を乗り越えることができますように。
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