リーガルエッセイ
公開 2020.09.17 更新 2021.07.18

薬物犯罪は被害者なき犯罪か?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、ある俳優のかたが自宅で大麻を所持していたとして逮捕されたと報じられました。
その報道を機に、その俳優さんが大麻常習者だったのではないか、とか、過去に交際した女性との間にこんなトラブルのうわさがあるなどと報じられたり、SNSに投稿されたりしています。
まだ捜査中ですので、事実は分かりませんし、憶測や誹謗中傷はやめ、捜査、公判の行方を見守っていきたいですよね。

そのような中、あるかたが、SNSで、逮捕された俳優さんに対する周囲の反応に関し、「誰も被害者のいない犯罪を犯した者に対して」みんなが石を投げつけるような姿が気持ち悪いなどとして嫌悪感を示されたという記事を読みました。
みなさんも、薬物犯罪は、「誰も被害者のいない犯罪」だと思いますか?

薬物犯罪の「被害者」

たとえば、窃盗罪は人の物を盗む犯罪だから、物を盗まれた被害者がいるし、傷害罪は人に暴行を加えて傷害を負わせる犯罪だから、傷害を負わされた被害者がいる。
でも、薬物犯罪は、誰かに何かをする、という類型の犯罪ではないから、「被害者」というものが存在しない。
薬物犯罪を「誰も被害者のいない犯罪」というとき、このような意味で表現されていると思うのです。
そして、そのこと自体はたしかに間違いではないと思います。
でも、「被害者」というものを、ある犯罪のせいで苦しめられた人、と少し広く考えると、薬物犯罪には、間違いなくたくさんの被害者が生まれる可能性があります。

たとえばAさんが覚せい剤を所持し、これを使用するという覚せい剤取締法違反の罪を犯したとします。
Aさんに妻子がいて、Aさんが家族の生活を支えていたら、Aさんの逮捕、勾留、続く裁判により、家族はその間生活費を得られなくなります。
覚せい剤は依存性の高い薬物で、再犯率も高いです。
再犯に及ぶと、時期によりますが実刑の可能性も高くなります。
刑務所に入ることになったら、その間家族の生活はどうなるか?その間どころか、Aさんは、覚せい剤使用が発覚し、仕事を辞めることになるかもしれません。
そうなったら、家族の生活はどうなるのか?
父が覚せい剤を使用して逮捕したということを知った子どもへの影響は?
子ども社会で、父が覚せい剤を使用して逮捕されたことが知れてしまったら?
子が幼くて、妻が働きながら生活していたとします。
夫の覚せい剤使用が発覚し、妻が職場で働きづらくなったら?
これまで育児をサポートしてくれていた妻の親族が妻から離れてしまったら?

覚せい剤の売人は、その多くが反社会的勢力であったり、つながりがあると言われています。
Aさんが支払った覚せい剤の代金は、反社会的勢力の活動資金になるでしょう。
その活動資金をもとに、反社会的勢力が、振り込め詐欺を犯したら、その詐欺により、老後の生活に備え、こつこつと貯めてきた大事なお金をだましとられる被害者が生まれます。

覚せい剤の使用により、幻覚、幻聴、妄想、錯乱などの症状が生じることがあると言われています。
Aさんが覚せい剤を使用した状態で、錯乱状態になるなどし、人に危害を加えたり、車を運転して他人を死傷させたりしたら、たくさんの被害者が生まれます。

少し考えただけでも、Aさんの周りでは、Aさんの覚せい剤使用により、多くの被害者が生まれる可能性があるといえませんか?
何よりも、覚せい剤は、これを使用したAさんの体を確実にむしばみます。
私は、検察官だったとき、覚せい剤を始めとする違法薬物の密輸、密売事件を多く担当した時期があります。
ある被疑者の取調べで、20代のころに覚せい剤を使い出し、その後、刑務所に入ったり出たりを繰り返しているうちに60代になってしまったと言って見せてもらった腕が、注射痕でぼろぼろになっていました。
「自分はいったい何をしてきたんだろう、と思います。でも、自分の周りにはだれもいないし、希望もなにもない」と言っていました。
自分がしたことではあります。
でも、その腕を見たとき、希望もないという言葉を聞いたとき、薬物犯罪の一番の被害者はほかでもない自分自身だと感じました。

だから、私は、こんなにたくさんの被害者を生む薬物犯罪は、絶対に根絶しなくてはいけない重大犯罪だと思っています。
どれだけの被害者が生まれるのか、ということを、自分事として受け止められるような教育が継続的に徹底して行われる必要性を感じています。

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