リーガルエッセイ
公開 2020.08.27 更新 2021.07.26

離婚協議中 子を連れ去ったら未成年者略取罪?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、男性が、妻の実家にいた自分の1歳の子を、妻の同意なく連れ去ったとして未成年者略取罪の被疑事実で逮捕されたと報じられました。
報道によれば、妻が、夫と別居しており、夫の行動を受けて、「離婚協議中の夫が勝手に連れ去った」と通報したとありますが、事実関係は今後捜査によって明らかになっていくことと思います。
今回は、離婚協議中、一方配偶者のもとにいた子を、もう一方の配偶者が自分のもとに連れてきてしまったら、その行為は未成年者略取罪という犯罪になるのか、という点をとりあげてみたいと思います。

過去に裁判例も

たとえば、妻が、夫との離婚を考え、子を連れて自分の実家で生活をし始めたとします。
夫としては、妻が子を連れて家を出ていくことについて同意していないし、そもそも話し合いすらしていないから納得いかない。
でも、子と会いたいと妻に連絡しても対応してもらえず、たまらず、あるとき、妻の実家に行き、妻が不在の間に、止める妻の両親の説得を聞かずに子どもを妻の実家から連れ出し、自宅に連れ帰ったとします。
このようなとき、妻の立場からしたら、「子どもを連れ去られた」となるでしょうし、一方、夫の立場からしたら、「そもそも、連れ去られた子どもをもとに戻しただけだ」となりそうです(家庭内暴力の被害に遭っていた一方配偶者が、子を連れて逃げたという場合は状況が全く異なってくると思いますのでここではそのようなケースを想定せずにお話ししています)。
夫の立場からすると、自分も妻同様に子の親権者であるのだから、子を自分のもとに連れてきても、それが犯罪になるなんておかしいではないかという考え方があるかもしれません。
それが犯罪になるのなら、最初に、子を連れて実家に連れて行ったことも犯罪になるはずだとも思われるでしょう。

でも、先に挙げた例で、子どもを、妻の実家から連れて帰った夫には、未成年者略取罪という犯罪が成立する可能性があるのです。
未成年者略取罪というのは、未成年者を生活環境から離脱させて自分や第三者の支配下に置くことをいいます。
過去に、離婚係争中の夫が、子を連れ去ったとして未成年者略取罪が成立するとされた裁判例もあります。
その事例は、夫婦が別居中、妻が自分のもとで当時2歳の子を養育していたところ、妻の母が、子を保育園に迎えに行き、車に乗せる準備をしていたすきに、夫が、背後から子を持ち上げて自分の車に乗せて走り去った行為が未成年者略取罪にあたるとされました。
判決では、この事例に見られる個別事情に照らすと、夫の行為は、家族間における行為として社会通念上許容されうる枠内にとどまるものと評価できないと判断しています。
どんな事情が考慮されたかというと、子の監護養育上、子を自分(夫)の手元に置くことが現に必要とされるような特段の事情がないこと、連れ去った行為態様が粗暴で強引だったこと、子が自分の生活環境についての判断、選択の能力が備わっていない2歳の幼児だったこと、その年齢からして常に監護養育が必要なのに連れ去った後の監護養育について確たる見通しがあったと認めがたいことなどでした。
もっとも、この裁判例によれば、事情次第では、社会通念上許容されうる枠内にとどまるという判断もあり得るということになりそうです。

この裁判には、複数の裁判官がその判断に関わっているのですが、1人の裁判官は、この判断に、反対意見を述べています。
反対意見を述べた裁判官は、親権の行使と見られるものである限り、仮に一時的に見れば多少行き過ぎと見られる一面があっても、その行為をどう評価するかは子の福祉の観点から見る家庭裁判所の判断にゆだねるべきであって、その領域に刑事手続きが踏み込むことには慎重になるべきだとして、問題となった事例については、社会的に許される範囲だという意見を示しています。

こうして見てくると、親権者が、別居中の子を自分の元に連れてきてしまったという場合、未成年者略取罪で起訴されるか、起訴されたとして有罪となるかは、どの程度まで刑事手続きが踏み込むか、どの程度までを家裁で判断されるべきものとしてその判断を尊重するかという点についての検察、裁判所の考え方によって結論が変わってくると言えそうです。

子の連れ去りは、離婚やこれに伴う子の親権、面会交流に関する意見の対立を背景に起きるものです。
子を連れて出て行かれてしまい、その後も思うように会えずもどかしい気持ち、そのような事態を作り出した相手への憤りの気持ち、一方で、そのようにして家を出ざるを得ないところまで追い込まれたのだと思うもう一方の配偶者の気持ち…いろいろな思いがあって起きることで、そのような思い自体を否定することはできません。
ただ、犯罪の成否というところで争いになることは、離婚後、お互いが子とどう関わって子の幸せを守っていくか、という本筋の話し合いとはかけ離れているような気がします。
連れ去りによる犯罪の成否、という事態に直面する前に、親権、面会交流について子どもと親双方にとっていい解決方法を探っていけたらいいですよね。
弁護士にご相談ください。一緒にその解決方法を考えます。

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