リーガルエッセイ
公開 2020.07.31 更新 2021.07.18

#口座買取 #口座売買 「口座買い取ります!」に注意

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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最近、SNS上で、「口座買取します #口座買取」「買取強化 〇〇銀行 〇〇銀行#口座買取」などという投稿を見かけます。
もちろん、この「口座」というのは銀行口座のことを指します。
預金通帳やキャッシュカードを売ってくださいという誘いをかけているのです。
これを見たとき、「おおっぴらに売ってはまずそうだな」という感覚はだれもがもつと思います。
でも、この誘いにのって自分の預金通帳やキャッシュカードを売ったら、犯罪が成立することがあるということについては知らないかたもいるかもしれません。

犯罪による収益の移転防止に関する法律

売ってくれという誘いにのって、自分の手元にある預金通帳などを他人に売ったら、犯罪による収益の移転防止に関する法律に違反し、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方という刑事罰を受ける可能性があります。
この犯罪が成立するのは、主に、相手が、自分になりすまして、売った通帳やカードを使おうとしていることを知りながら売った場合です。

その意味で、どういう認識で通帳等を売ったかということが大事になります。
ただ、今、振り込め詐欺などの犯罪で、犯人グループが被害者からの振込先口座を必要としていること、そのために口座買取が横行していることは常識として多くのかたが知っていることだと思います。

そして、SNS上の投稿では、「#口座買取」と合わせて「#闇金」「#裏バイト」などというハッシュタグがつけられているものも複数あります。
SNSで口座買取の投稿を見て、素性のわからない人に通帳等を売りました、という場合、いくら、「相手から、通帳の使用目的を説明されませんでした」と弁解したとしても、その口座は、振り込め詐欺などの犯罪に悪用されようとしている可能性を容易に考えられただろうと思うのです。
ですから、犯人グループが、被害者にその口座あてに振り込ませたお金を、名義人になりすまして引き出すつもりでいることを容易に認識できたはずだと評価されるケースは多いだろうと思います。

仮に、相手がどんな目的か知らなかったとしても、通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに通帳等を売ったりしてしまうと、やはりこの犯罪が成立し、同じように処罰される可能性があります。
ちょっとこちらはイメージしにくいかもしれませんね。
過去には、メールで勧誘を受け電話で話をしただけでどのような素性の人かわからない人からお金を借りるため、その返済手段または担保として自分名義のキャッシュカードを相手に渡した行為について、これは通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに通帳等を売ったと評価されて犯罪が成立すると判断した裁判例があります。

ちなみに、今お話ししてきたのは、手元にある通帳等を売る行為に関してでしたが、銀行口座開設の段階でも犯罪が成立する場合があります。
開設した口座を他人に売る目的で、そのことを秘密にして、自分名義の口座を開設し、預金通帳等を銀行から受け取る行為も犯罪になるのです。
このような行為は、銀行に対する詐欺罪になり得ます。

コロナの感染拡大の影響でアルバイト収入が途絶え、生活に不安を抱えている人もいると思います。
しかし、その不安につけこむ口座買取や口座開設の誘いにのってしまえば、収入どころか、刑事責任を問われる立場になりかねません。
SNS上の投稿に気軽に触れられる今、そして生活の不安が生じやすい今、これまで以上に、以前こちらでとりあげた闇バイト同様、失うものの大きさを冷静に考えることが必要になりそうです。

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