パワハラを問題とするためには、証拠を集めなければなりません。
では、パワハラの証拠としては、どのようなものが有効なのでしょうか?
また、パワハラの証拠を集める際は、どのような点に注意する必要があるでしょうか?
今回は、パワハラの証拠について弁護士がくわしく解説します。
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パワハラで証拠が必要となる理由
パワハラの証拠が必要な理由は、パワハラの証拠が一切ない場合、第三者にパワハラの事実を信じてもらえない可能性があるためです。
パワハラの加害者は、パワハラの事実を否定することがあります。
その場合、たとえば会社にパワハラの被害を訴えても、会社としては懲戒処分などに二の足を踏んでしまうでしょう。
万が一、実際にはパワハラの事実がないにもかかわらず懲戒処分をしたとなると、会社が相手方から法的措置をとられてトラブルとなるおそれがあるためです。
また、パワハラは、相手や会社に対する損害賠償請求の原因となります。
しかし、訴訟にまで発展した場合は特に証拠が重視されるため、パワハラの証拠が一切なければ損害賠償請求が認められない可能性があります。
パワハラの証拠の集め方と注意点
パワハラの証拠としては、どのようなものを集めればよいのでしょうか?
ここでは、パワハラの代表的な証拠を紹介するとともに、集め方や注意点を解説します。
ただし、ここで紹介するのは一般的な内容です。
必要な証拠や集め方はパワハラの内容や状況によって異なる可能性があります。
そのため、無理に自分で集めようとする前に、弁護士へご相談ください。
- 音声の録音データ
- 動画の録画データ
- メールやLINE、チャットなどのやり取り
- パワハラにあたる辞令などの書面
- 医師の診断書
- 同僚などによる目撃証言
- 被害者の日記やメモ
音声の録音データ
1つ目は、音声の録音データです。
「暴言を吐かれる」「大声で怒鳴られる」など、音声からパワハラであることが判断できる内容である場合は、録音データが有用な証拠となり得ます。
録音はボイスレコーダーやスマートフォンのボイスレコーダーなどで行うことが一般的です。
近年、小型のボイスレコーダーなど録音していることが相手からわかりにくいものも売られているので、用意しておくとよいでしょう。
なお、会社の許可を得ることなく社内でパワハラの音声を録音しても、証拠としては有用です。
ただし、就業規則で社内での録音が禁止されている場合や、会社から録音しないよう再三注意をされているにもかかわらず録音を辞めないなどの事情がある場合は、解雇など懲戒処分の対象となる可能性は否定できません。
録音する際は、カットなどの編集をしたり相手の発言だけを切り取って録音したりせず、一連の流れをすべて録音してそのまま保存してください。
また、正確な日時が記録されるよう、ボイスレコーダーの日時設定が正しいことを確認しておくとよいでしょう。
録音データからは読み取れない前後の事情がある場合は、別途メモなどで補足しておくことをおすすめします。
録音は一度だけではなく、複数回分があると証拠としての力がさらに強くなります。
動画の録画データ
2つ目は、動画の録画データです。
殴る、蹴る、物を投げつけるなどのパワハラの場合は、動画が有用な証拠となります。
とはいえ、録音とは異なり、相手にバレずに録画をすることは容易ではないでしょう。
そのため、あらかじめカメラを設置して置いたり、同僚などに録画を依頼したりするなどの対策が必要となります。
録画の場合も、前後関係がわかるようメモなどで補足しておくことをおすすめします。
メールやLINE、チャットなどのやり取り
3つ目は、メールやLINE、チャットなどでのやり取りです。
メールなどでパワハラがされた場合は、削除せずにその内容を残しておいてください。
チャットなど相手の操作でメッセージが消えてしまうおそれがある場合は、スクリーンショットを残しておきましょう。
パワハラにあたる辞令などの書面
4つ目は、パワハラにあたる辞令などの書面です。
パワハラに該当し得る辞令や指導が文書で行われる場合があります。
その場合は、文書を保管しておいてください。
また、パワハラに該当し得る指導が口頭でされた場合は、文書を出してもらうよう要求するとよいでしょう。
医師の診断書
5つ目は、医師による診断書です。
パワハラが原因で身体的な怪我をした場合や精神的な苦痛を受けた場合は、医師の診断を受けたうえで診断書を書いてもらいましょう。
特に、精神的な苦痛は目で見えるものではありません。
そのため、パワハラの被害と近い日時で診断書を取得しておくことで、実際に強い精神的な苦痛を受けていたことを証明しやすくなります。
なお、医師の診断書だけで他の証拠が一切ない場合や、パワハラがあった日と診断書を取得した日付が遠い場合は、パワハラとの因果関係が否定されるおそれがあります。
そのため、医師の診断書は、あくまでも補完的なもの(パワハラがあった事実を証明するものではなく、被害の実態を証明するもの)と理解しておいてください。
同僚などによる目撃証言
6つ目は、同僚などによる目撃証言です。
同僚の協力が得られる場合には、パワハラに関する証言をしてもらうとよいでしょう。
ただし、証言は他の証拠と比較すると、証拠力がやや低くなります。
被害者の日記やメモ
7つ目は、パワハラに関して記載した被害者の日記やメモです。
いつ、誰からどのような言動をされたのか、そのときどう感じたのかをできるだけ詳細に記載しておいてください。
一般的にはパワハラに関することだけを書いた日記やメモより、日々の出来事を記載する中で「パワハラについても書かれている」状態の日記であるほうが、信憑性が高くなります。
パワハラの証拠を集めるポイント
パワハラの証拠を効果的に集めるには、どうすればよいのでしょうか?
ここでは、パワハラの証拠を集めるポイントを3つ解説します。
早期に弁護士へ相談する
パワハラに関する証拠を集める際は、早期に弁護士へご相談ください。
弁護士に相談することで、その状況において必要な証拠やその集め方などについてアドバイスを受けられるためです。
会社が保有する証拠をあてにしすぎない
パワハラの証拠を集める際に、会社の保有する情報などが欲しい場合もあるでしょう。
たとえば、会社が設置している防犯カメラにパワハラの様子が映っている可能性が高く、その録画データが欲しい場合などが挙げられます。
しかし、会社が持っている証拠をあてにし過ぎることはおすすめできません。
なぜなら、パワハラに対する会社の態度はまちまちであり、証拠の提示を拒んだり証拠隠滅を図ったりする可能性が否定できないためです。
証拠集めに躍起になりすぎない
パワハラの証拠が乏しいからといって、証拠集めに躍起になりすぎることはおすすめできません。
なぜなら、無理に証拠を集めようとして所かまわず動画を撮ったり同僚に証言を求めたりすると、会社から懲戒処分されるおそれがあるためです。
また、録音や録画をするためにわざと相手を挑発したり証拠を捏造したりしてしまうと、他の証拠の有用性までが揺らぎかねません。
パワハラの証拠を集めた後の主な対応
パワハラの証拠を集めたら、その後はどのような対応が検討できるのでしょうか?
ここでは、パワハラの被害に遭った際の主な対応を紹介します。
会社に相談する
1つ目の対応方法は、会社に相談することです。
証拠を確認したうえで会社がパワハラを問題視すれば、加害者を異動させるなど対策をしてもらえる可能性があります。
なお、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称「パワハラ防止法」)」では、会社に対してパワハラの相談窓口の設置を求めています(パワハラ防止法30条の2)。
また、パワハラの相談をしたことなどを理由に、会社が相談者を不利益に取り扱うことも禁止されています。
労働局に相談する
2つ目の対応方法は、都道府県労働局(総合労働相談コーナ)に相談することです。
会社がパワハラに対して適切に対処しない場合や、会社ぐるみでパワハラが行われている場合、会社がパワハラ相談者を不利益に取り扱った場合などには、労働局への相談が選択肢に入ります。
会社が違法な行為をしている場合は、指導や助言をしてくれる可能性があります。
ただし、労基署がパワハラ加害者に直接指導をしたり罰則を科したりするわけではありません。
労働審判を申し立てる
3つ目の対応方法は、労働審判を申し立てることです。
労働審判とは、労働者と事業主との間の労働トラブルを、迅速かつ実効的に解決するために設けられている手続きです。
通常の訴訟よりも迅速な解決が見込まれるほか、労働問題を専門とする裁判官が関与します。
ただし、労働審判の対象となるのはあくまでも「会社」であり、パワハラ加害者本人を訴えることはできません。
また、労働審判で下された結論について一定期間内に異議が申し立てられると、通常の訴訟へと移行します。
訴訟を提起する
4つ目の対応方法は、訴訟を提起することです。
パワハラ加害者本人や会社に対して損害賠償請求をしたい場合には、この方法をとることとなります。
訴訟はいきなり申し立てるのではなく、まずは弁護士から内容証明郵便を送るなどして損害賠償請求をすることが一般的です。
これに相手が応じない場合は、訴訟へ移行して解決を図ります。
なお、損害賠償請求は相手方のみならず、原則として相手方と会社の双方に対して行います。
なぜなら、会社は使用者責任を負っており、加害者と連帯して損害賠償請求責任を負う場合が多いためです。
刑事告訴する
5つ目の対応方法は、加害者を刑事告訴することです。
パワハラはその態様などにより、「暴行罪」や「傷害罪」、「脅迫罪」など刑法上の罪に該当する場合があります。
この場合は、刑事告訴をすることで、相手に前科をつけられる可能性があります。
刑事告訴とは、警察などの捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。
告訴が受理されると、必要に応じて相手が逮捕されます。
その後、起訴されて刑事裁判が開始されると、相手の有罪・無罪や具体的な量刑が決まります。
パワハラが特に悪質である場合には、刑事告訴も有力な選択肢となるでしょう。
パワハラの証拠集めについて弁護士へ相談するメリット
パワハラの証拠を集める際は、弁護士にご相談ください。
最後に、パワハラの証拠について弁護士への相談をおすすめする主な理由を3つ解説します。
具体的な状況に応じて集めるべき証拠のアドバイスを受けられる
弁護士へ相談することで、具体的な状況に応じて集めるべき証拠のアドバイスを受けることが可能となります。
そのケースに応じた必要な証拠を具体的に知ることで、効果的な証拠収集がしやすくなります。
また、自身が行おうとする証拠集めの方法に問題がないかどうか、あらかじめ確認することも可能です。
精神的な負担が軽減される
パワハラの証拠を集めようにも、「これでよいのだろうか」「集めた証拠で十分なのだろうか」などと迷うことは少なくないでしょう。
孤独な戦いであるように感じ、証拠集めに躍起になりすぎてしまうおそれもあります。
弁護士へ相談することで、集めるべき証拠が明確となるほか、共に戦う味方ができ精神的な負担の軽減につながります。
具体的な法的措置をサポートしてもらえる
弁護士に依頼することで、具体的な法的措置のサポートを受けられます。
たとえば、相手方や会社に対して内容証明郵便を出してもらうことや、訴訟に移行した際に訴訟に代理で出席してもらうことなどが挙げられます。
法令や訴訟のプロに依頼することで請求を有利に進めやすくなるほか、相手方が裁判への発展をおそれることで訴訟に至る前に解決できる可能性も高くなります。
まとめ
パワハラに関する証拠の概要や集める際の注意点について解説しました。
パワハラを受けていることが事実であっても、証拠がなければ第三者にパワハラを信じてもらえないおそれがあります。
その結果、会社が適切な対応をしてくれなかったり、損害賠償請求が認められなかったりするおそれがあるでしょう。
相手に「パワハラなどしていない」などと言い逃れをされないよう、パワハラの被害に遭ったら証拠を集めておいてください。
必要な証拠を確実に残すため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所ではパワハラ被害者の救済に力を入れており、被害者からの損害賠償請求などの成功実績が豊富です。
パワハラの証拠集めでお困りの際や、パワハラ加害者に損害賠償請求をしたい場合は、Authense法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。
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