リーガルエッセイ
公開 2021.11.10

パワハラ防止法への対策はできていますか?

パワハラ防止法への対策はできていますか?
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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パワハラ

この秋は、久しぶりにはまっているテレビドラマがあります。
江口のりこさん主演のSUPER RICHです。
江口さん扮する氷河衛(ひょうが・まもる)さんが女性としてとにかくすてきで目が離せなくなってしまい、毎週見逃し配信で見ています。
自分よりはるかに年上の女性について、強さのかげに隠れた弱さや、しっかり者のキャラクターのかげに隠れたキュートな部分をしっかりキャッチして、守ってあげたいと思ったり、女性として好きになったりする…そんな最高にすてきな感性を持つ男性社員のかたが二人もいる、そんな環境でますます魅力を放つ衛さんに「いいなーいいなー」とつぶやきながらひたすらぼーっと見ていたのです。
しかし、先週の配信では、弁護士センサーが反応した場面が2つあったので、今回は、そのことについてお話したいと思います。

1つ目。
衛さんと共同CEOだった男性が、会社のお金を持ち逃げしてしまったという件について。
あまり細かいところまでは注目せずにぼーっと見てきたので、持ち逃げの具体的な方法はしっかり把握できていないのですが、会社のお金を、自分の口座に入金してそれを自分の借金返済に充ててしまったというストーリーなのだとしたら、このような行為は業務上横領罪にあたります。
「会社のお金を着服した」などと表現されることがよくありますよね。
私が気になったのは、衛さんのもとに、その男性が衛さんの会社のお金を着服した事実で警察に逮捕されたと知らせる電話が入り、その連絡を受けて、衛さんや会社のみんながその情報に衝撃を受けたという場面。
みんな、男性が捜査対象になっていたり、ましてや逮捕されるなんて思ってもみなかった!という反応なのです。
ここは、実務とはちょっと違うなと感じました。
どうしてかというと、警察が、着服の被害者である衛さんの会社から「こんな被害に遭ったから、捜査して、彼を処罰してください!」という被害申告や告訴がないのに、会社には秘密裏に捜査を進め、逮捕にまで至るということは普通では考えられないと思うからです。
警察は、まずは、被害者である会社からの被害申告などを受けて事件を知るのが通常です。
その上で、衛さんや経理を担当する社員のかたから事前に会社のお金がどのように管理されていて、それを彼がどういう手段で自分の個人口座に移したのか、会社のOKをもらわずにそんなことが果たして彼にできる状態になっていたのか、などということを捜査して、たしかに彼が会社のお金を着服したことは間違いないといえそうだな、と嫌疑が固まって初めて逮捕状を請求して逮捕に至るはず。
なので、会社にとって、彼が逮捕されたことが青天の霹靂!という事態はちょっと考えられないなというのが率直な感想。

2つ目。
パワハラ上司登場の場面。
今は衛さんのもとで働いている男性社員のかたが、前職でし烈なパワハラ被害を受けていたところ、当時のパワハラ上司と今の仕事を通じて接点を持ったんですよね。そうしたら、そのパワハラ上司が、かつてその男性社員が自分のパワハラを理由に会社を辞めたことで自分のキャリアに傷がついたことを恨みに思っていてその報復をしようとするという悪質極まりない行動に出るのですが、このパワハラ問題は、今、ホットな話題です。
ですので、ここで、熱くとりあげてみたいと思います。

なぜホットかというと、来年4月に、いわゆるパワハラ防止法で定められている「会社はパワハラをなくすためにこういうことをしなさいね」というルールの適用が、中小企業にもスタートするからなのです。

ここでは、その法律の詳しい説明は省きますが、たとえば、
◎パワハラの相談があったときにきちんと対応するために、相談窓口を設置
◎相談する人や、パワハラがあったとされる人のプライバシーを守る
◎パワハラ相談をしたり、事実確認に協力したことで不利益な扱いを受けることがないように
◎パワハラ問題に関する教育
などという対応が求められます。

パワハラという言葉、いつのまにか、日常的に使われる機会も増えたと思いませんか?
職場で、「それ、パワハラですよー」とか「あんまり言っちゃうとパワハラになっちゃうなあ」なんていうちょっとふざけた雰囲気の中でパワハラという言葉が使われたりもしますよね。
でも、パワハラは、ときに人の命を奪うことにもなるもの。
また、会社にとっても、間違いなく大ダメージを引き起こす不祥事となりうるもの。
特に、昔は、たとえある会社でパワハラがあっても、外部に公表されない限り、会社内のごく一部の範囲だけで隠ぺいされることもあったかもしれませんが、今は、簡単にSNSにより会社内でおきた不祥事が拡散される時代です。
「あの会社ではこんなパワハラがあったんだ。会社は、もともとパワハラ防止のための措置をとることを怠っていて、起きたパワハラももみ消そうとしたんだ」なんてことが拡散されたら、会社の社会的評価は落ち、人材の流出が起きたり、優秀な人材の採用にも支障をきたしたりといったことがあり得ます。
だから、そんなパワハラが絶対に起きないように、最低限、法律で対応が求められていることについてはしっかり準備して体制を整える必要があるんです。

ここでちょっと気を付けなくてはいけないなと思うことがあります。
法で求められている対応をとっておくことが大事であることは間違いないのですが、当然のことながら、それさえ整えれば問題なし、というわけではないことです。

たとえば、パワハラに関する社内教育をしようということになったとして、そこで、パワハラの定義や、どういう言動がパワハラになるのかという事例を、実際の裁判例なども見ながら勉強することはとても大事だと思うし、必須の知識だとは思います。
ただ、過去の事例から、こういう言動はセーフで、ここからがアウトなんだ、などという認識を持つことはある意味危険。
もちろん、人格非難をすることなど、問答無用でアウトという点を抑えたりすることはよいと思うのですが、背景となる個別事情を無視して、結論だけを取り出して、この言動は問題ないんだな、などという形で勉強することは危険だなと感じます。
同じ言動でも、個別事情によっては、法律上、違法と評価されることがあると思うからです。
また、仮に個々の言動がパワハラとして不法行為にあたらないと評価されたとしても、会社として、その職場環境を放置して何らの措置を取らずにいることが労働者に対する安全配慮義務違反にあたると評価されることもあります。

なにより、パワハラが問題となる事例を見ていると、職場には、自分と違うバッググラウンドをもち、いろいろな価値観を持つ人が集まって仕事をしているのに、自分の考え方が唯一正解であるかのように考えてしまい、その凝り固まった信念をもって発言をしてしまったがために問題が起きてしまっているなと感じることがあります。
自分が相手の仕事のしかたに疑問を感じ、これは注意すべきだと考えたとして、
・果たして、「注意すべき」という自分の考えは、もしかしたら、違った見方もあり得るんじゃないかな。むしろ、自分の考えを押し付けようとしてしまう自分に問題があったりはしないかな。
・もしかしたら、自分が問題と感じている相手は、今、プライベートや職場の人間関係において、自分が気づいていない悩みを抱えていて、追い詰められた心境にあったりするかもしれないな
・相手に伝えるとして、どういう言葉で伝えたら、自分の意図が誤解なく伝わるかな

などということを謙虚に、丁寧に考えて対応することで防ぐことのできる問題が多くあるように思われてなりません。
私自身も、まったく、本当にまったくと言っていいほどこの対応ができているとは言えないのですが、仕事をする上で、こうした想像力を持つことと、これに基づく丁寧なコミュニケーションをとることができていないことがパワハラ問題の根幹にあって、この基本的な部分が改良されていかないと、どんな相談窓口を作っても、どんな研修をしても、どんな就業規則を作っても、会社におけるパワハラ問題をゼロにすることはできないのではないかなと思っているところです。

来年の4月を約半年後に控え、このパワハラ防止法への対応をそろそろ準備しなくてはという状況なのではないかなと思います。
必須なものであることはわかってはいるけど、本業でお忙しい中、あれもこれも同時並行でできないし、そもそも、法律で何をせよと言われているのかもいまいちよくわからないし、さらに形だけではなくちゃんと機能する体制を整えるためにどうすればよいかなんて検討している余裕がない、という声も聞こえてきそうです。
Authense法律事務所では、御社に講師を派遣して、パワハラ防止法を簡単にひととおり理解するための研修を実施したり、相談窓口の制定、就業規則の整備、パワハラの実態調査アンケートの実施など改正法に対応する措置をサポートしたり、また万一パワハラに関する相談があった際の事実調査、被害者・行為者対応をお任せいただいたりという形で社内不祥事予防、事後対応をフルサポートさせていただく体制を整えております。
まずはパワハラ防止法について勉強してみたい、というご要望にもお応えできます。
ぜひ一度、お気軽にお問合せください。

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