リーガルエッセイ
公開 2021.04.26 更新 2021.07.26

ドラマ「リコカツ」で描かれていた「価値観の相違」について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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リコカツ第2話 価値観の押し付け

私には自ら定めた鉄の掟があります。
そのうちの1つが「恋愛ドラマを見るべからず」です。(同じ趣旨で、「ラブソングを聞くべからず」というものもあります。)
私にとって、恋愛ドラマは、百害あって一利なしだからです。
まず第一に、素敵な恋愛を目の当たりにすると、気持ちが浮つきます。
すると、ストイックにこなすべき家事など日々のルーティーンやミスが許されない仕事に甘さ、隙が生まれます。
そして第二に、恋愛ドラマの素敵な世界を見た後は、ふだん満たされたつもりになっている自分の日常が色あせて見えてきます。ドラマの世界を日常に取り入れようと目論んだりしたら、それは痛い目にあいます。
だから、私は、この鉄の掟を守るようにしています。
どうしても掟に反して見たいという事態になったら、見る時間帯だけには細心の注意を払うようにしています。
私は、深夜になると、日中の張り詰めた緊張状態が解けるせいか、やけに感傷的になります。
そんな時間帯に恋愛ドラマを目にするということだけは避けなければならない。
先ほど挙げた、恋愛ドラマを見ることで受けるダメージが倍増するからです。
だから、万一掟に反し恋愛ドラマを見たい事情があるなら、日中、明るい時間帯に見るということだけは死守しなければならないのです。

「リコカツ」は離婚の準備活動に関するドラマと聞いていました。
第1話もそういった内容だったと思います。
それを淡々と弁護士目線で見て、弁護士として気づいたことなどを発信する。
それが私が今回自分に課した任務でした。
このドラマは恋愛ドラマではない。
つまり、このドラマを見ることは私の掟に反することになりません。
視聴時間帯も自由。
そこで、私は、金曜日から土曜日に日付の変わった深夜1時ころから見逃し配信で第2話を見始めました。
得意の1.75倍速です。
ところが見終わったのが深夜3時過ぎ。
普通に見れば1時半過ぎには見終わっていたはずなのに、なぜか?
永山瑛太さん演じる緒原さんの発言やふるまいに完全にのめりこんでしまい、心奪われたセリフを5回くらい巻き戻して聞いてしまったり、すてきな笑顔を一時停止してぼーっと眺めてみたり、感動してうるうるしている間はまた一時停止して見たり、といったことを繰り返していた結果です。
そして、その後、寝ようと思っても全く眠れないんです。
間違いなく、私がおそれていた恋愛ドラマの弊害です。
私は、第2話にして気づいてしまいました。
これは、離婚に至る準備活動を淡々と描いた社会派ドラマなどではない。交際ゼロ日で結婚した夫婦が、結婚後、離婚が常に頭をよぎりながらも、すてきな恋愛をしていく恋愛ドラマなのではないか?
意図せずして、素敵な恋愛ドラマを見始めてしまい、しかも、一番視聴してはいけない時間帯に見てしまったことになります。
ダメージから立ち直れずにいますが、そんな中で思ったことを2つとりあげてみたいと思います。
1つ目は「浮気の証拠」について。
これから見るかたのお楽しみを奪わないように、詳しくは書きません。
ドラマの中で、ある夫婦が出てきて、休日、夫が若い女性とボーリング場でいちゃいちゃしているところに妻が突如現れる場面があります。
妻の手にはスマホ。夫と女性の様子を録画していると思われます。
夫が、ふざけた調子で「浮気の決定的な証拠をとられちゃったなあ」って言ったのを受けて、妻が「今、浮気って言ったわね!?」と言質をとったかの発言をする(少なくとも、私はそういう趣旨かなと理解しました)。
果たして、夫が、「浮気の決定的な証拠をとられちゃった」と笑顔で語る様子を録画した動画が浮気の決定的な証拠になるか?
それだけだとさすがに難しいだろうなと思います。
このようなやりとりの前に、夫と女性が「この後どうしようか?ホテルに行こうか?」)などというやりとりもありました(実際は、もう少しあからさまな感じのやりとりもありました)。
このやりとりまで録画されていたとしても、これだけだとしたら証拠としては弱いでしょう。
ただ、妻がこれで終わりにするようには見えず、今後の証拠収集に注目です。

2つ目は、「価値観の相違」について。
パーティなど好きではない、服にお金を遣いたくないという価値観とバーベキューなどを嫌い、服にお金をかけることは大事という価値観がぶつかり合う中、お互いの職場が開催する、夫婦で出席することを求められているイベントまでもが同じ日にバッティングしてしまう。
そんなとき、どちらのイベントを優先させるべきなのか?
一方の職場イベントを優先しろと相手に強いることは、相手と職場の人たちとの信頼関係を軽視したり、もっといえば、相手にとっての仕事、相手の人生を軽視することにつながるのではないか?という視点も。
どんな物に魅力を感じるか、どんな物をおいしく感じるか、そんなポイントについての相違も浮き彫りになります。
第2話の中ですべてが解決したわけではないのだろうなと感じます。
でも、お互いの価値観の相違を初めて認識し、その上でどうするか、考え、行動する姿は、ドラマの世界だと思いながらも、素直に感動しました。

価値観の相違。
以前、こちらのエッセイで取り上げたことがありますが、離婚原因のトップと言われています。
実際、私が離婚したいとお考えのかたから相談を受けるとき、なぜ離婚したいか、という理由として「相手と価値観が違いすぎるからです」とおっしゃるかたは、やはりとても多いという印象です。
結婚するとき、「価値観が似ている、同じ」と思って結婚を決める人も、「自分と違う価値観がおもしろそう」と思って結婚を決める人もいるように思います。
でも、結果、価値観が違うといって離婚を選択する人が多いという現実。
「価値観が似ている」と思ったけど、実際結婚してみたら、思っていたのと全然違っていたのかもしれないし、「自分と違う価値観」に魅かれたけど、思った以上に違い過ぎたというのかもしれない。
いずれにしても、相手との価値観の相違に直面することはおそらく誰もがあるのではないかなと思います。
価値観の相違に直面したときどう対応するかは人によって違うかもしれませんね。
価値観が違うから一緒にやっていけないと判断してすぐに離婚するという選択をするかたもいます。
子どもが生まれて夫婦の置かれた状況が大きく変わったことをきっかけに、お互いの考え方に隔たりが大きすぎるということに気づき、離婚を決意されるというかたも多くいます。
たしかに、子どもの成長に従って、習い事、進路の問題、これに伴うお金の遣い方の問題など問題はどんどん大きくなっていくであろうと思われるのに、こんなに考え方が違うのでは、将来、絶対に考えが折り合うことはないだろうと思い、早めに別れを決断するという考えには、もっともだなと思ってしまう部分があります。

私も正直正解がわかりません。
でも、昔、パートナーシップのプロを自称する知人から教えてもらって、心がけたいなと思っていることはあります。
まずは、相手との違いをフラットな視点で見つめること。
そして、相手は、どうしてそう考えるのかな?と自分なりに想像し、相手にも聞いてみること。
そんな過程で、自分にとって当たり前過ぎて、「常識」だと思っていたことが、実は、これもひとつの個性的な考え方のひとつに過ぎなくて、どちらが正解とか間違いとかいったことがないものなんだなと思えるかもしれません。
その上で、そんな個性的な考えを持つお互いが、「悪くないな」と思える第三の選択肢がないか一緒に話し合って考えること。
このプロセスをともに実践できず、自分の考えを押し付けようとしてくる相手とは離れることも選択肢に入れる。
この方法を聞いたとき、「なるほど!これで私もパートナーシップで苦労することはなくなるぞ」と思ったものです。
でも、これを、いざ相手との価値観の違いが見えたとき、そして、特に、その問題が自分にとって結構大事なものだったとき、実践することはものすごく難しいことだなと感じます。
難しいことなのだけど、でも、これを実践できるように訓練していく必要があるのだろうなと思います。
今後も、ドラマの中で、価値観の相違を突き付けられるいろいろな問題が発生するのだと思います。
もっと、離婚という決断に近づく心境になり、具体的な準備にとりかかる場面もあるかもしれませんね。

最後に、離婚とは全然関係のない視点ですが、あの緒原さんに気のありそうな職場の女性のしたことは、犯罪になると思いますか?
保護責任者遺棄罪の成否が気になるところです。

第三話も視聴したら気づいたことを発信します!
今度は視聴時間帯にだけは気を付けたいと思います。

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