リーガルエッセイ
公開 2021.04.19 更新 2021.07.26

養育費の不払いを防ぐための離婚届けの見直しについて

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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養育費

先日、法務大臣が、離婚届けの様式を見直すことを明らかにしたと報じられました。
どの点を見直すかというと、子どもの養育費支払いについて、公正証書にしたかどうかを尋ねるチェック欄を追加するとのこと。
報道によれば、養育費のより確実な支払いに向けての方策であるとのことです。

今の離婚届にも、養育費について取り決めをしたのかという点をチェックするための欄があります。
でも、その取り決めの方法はどんなものかは触れられていません。
どのような形で取り決めるのかによって、どんな違いがあるのか、必ずしも正確に知られていないように感じます。
もしかして、「さすがに子どものことだし、口約束でも守ってくれるだろうな。でも、念のために一筆手書きで書いておいてもらおう」などと考えて、「子どもの養育費として毎月〇日までに、〇円を払うことを約束します」程度の内容を書いてもらい、もう大丈夫と安心しているかたはいませんか?
実際、ご相談にいらしたかたに、公正証書の話をすると、「それって、本人に一筆書かせただけじゃだめなんですか?」と質問されることもあります。

口約束、とか、相手に一筆書いてもらった書面などというものは、いざ、相手が養育費を支払わないとき、給料の差し押さえなどをしようとしても、すぐに差し押さえの手続きにとりかかれません。
養育費支払いの約束が、判決として確定していたり、調停成立のときに作られる調停調書になっていたり、そして、また一定の要件を満たす公正証書になっていたりする必要があるのです。
だから、もし、そのことを全く知らないかたの場合は、離婚届に、「公正証書」の文字が追記されることにより、「それってなに?ただ紙に書かせるだけという場合とどう違うの?」と知るきっかけが得られるかもしれませんね。

ただ、もちろん、それだけでは足りません。
なぜなら、公正証書で取り決めがなされていないケースは、その方法自体を知らなかったり、効果を知らなかったりするケースばかりでなく、それらを知った上で、「スムーズな離婚」というものを優先するためにあえて取り決めをしないとういケースもあるからです。

たしかに、相手が離婚に全く応じてくれない、という場合などは、離婚に応じさせることだけでも大変なのに、さらに、離婚したくないという相手に養育費の支払いを約束させるなんてできるはずがないと思うかたもいると思います。
たとえば、相手が安定した仕事に就くこともなく、約束したとしても支払えるもの自体がないという場合、そして、ご自身は定職に就き、安定した収入もあるという場合などは、むしろ、早めに離婚することを優先させ、公的支援の手続きを進めたり、ご自身のお仕事に力を入れたりするという選択をすることもあり得るかなとは思います。
でも、この判断は慎重に。
離婚後は実家のお世話になるから、養育費がなくても両親の援助でなんとかなるだろう、と思っているかたもいるかもしれませんが、ご両親の健康状態や経済状態は今後お子さんが自立するまで今のままとは限りません。
少し切り詰めたら自分の収入だけでなんとかやっていけるだろうと思っているかたもいるかもしれませんが、お子さんの成長に伴って増えていく教育費や習い事にかかる費用も考慮しなくてはいけませんし、会社の業績悪化などで収入に変化があったとき、お子さんの生活を支えるだけの蓄えがあるかも慎重に考えなければいけません。
相手と同居しながら離婚の話し合いをしていたり、離婚の話し合いの過程で相手から心無い言葉を投げつけられたりしていると、離婚が成立することでこのストレスから逃れられるのなら、それをなにより優先させたい、という気持ちになってしまうこと、よくわかります。
それでもやっぱり、その先に直面するであろう事態を予想できるからこそしつこく申し上げたいと思うのです。
離婚したら、今、相手と婚姻関係を持っていることによるストレスはなくなるかもしれません。
でも、離婚は新しい生活のスタート。
もちろん、たくさんの問題に直面します。
そのとき、その問題がお金とつながっていることはとても多い。
逆に、今、お金がもう少しあればこの問題をこんな形でクリアできるのに、という思いになることもあるはず。
子どもの進学先、子どもがやりたいと言っている習い事をやらせてあげるかどうか、育児に行き詰まったとき、シッターの依頼をできるかどうか、子どもにスマホを持たせるかどうか、自分がちょっと調子悪いというとき病院に受診するかどうか、背が伸びた子どもに大きなサイズの体操服を買ってあげるかどうか、子どもの成長に応じて広い家に引っ越せるかどうか、仕事で疲れ果てているときに外食をするかどうか、そんな日々のちょっとした選択に直面したとき、「毎月、あと数万円があったら我慢せずに済んだのに」そんな後悔をするのはつらいもの。
ただでさえ、シングルマザーの毎日は「必死」とか「我慢」とかそんな言葉でいっぱいになってしまいがち。
そんな中で、お金で得られるゆとりや癒しや安心は間違いなくあるはずです。
離婚の話し合いを始めたけれど、相手が離婚に消極的、養育費の支払いに消極的、そんな状況で、離婚をとる代わりに養育費を放棄するか、生活の安定のために離婚をあきらめるか、そんな二択であるかのような思いになってしまっているかたは、まず、弁護士に相談してみてください。
ご自身の意向をかなえる方法がないか、弁護士が一緒に考えます。

また、離婚届に公正証書に関する記載が追記されることで、公正証書で取り決めをしようとするかたが増えるかもしれません。
公正証書を作成する、というとき、どのような書面を作るか、ということはとても大事なことです。
将来の不安をできる限り解消しておく書面を作成する必要があります。
弁護士が、公正証書の作成をお手伝いし、公証役場に同行することもできます。
お気軽にご相談ください。

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