リーガルエッセイ
公開 2020.12.11 更新 2021.07.18

児童の靴を隠した教員が「器物損壊罪」で逮捕

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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靴 窃盗?器物損壊?

学校に通っていたころ、上靴とか外履き用の靴とかを隠されたことってありませんか?
私は、中学生のころ、上靴がなくなったことが何度かありました。
真実はわかりません。
でも、当時、人気者の男子がいて、その人気者の男子と休み時間や放課後にしゃべったり、一緒に学校から帰ったりすると、翌日に上靴がなくなっている、そんな経緯だったので、ポジティブな私は、人気者の男子と仲良くできたことの代償として上靴が犠牲になったのだとしたら、男子との楽しい時間には代えがたいから上靴の犠牲もやむなし、むしろ武勇伝であると思っていたものです。

こんな大昔の話を思い出したのは、先日、ある報道を見たからでした。
ある小学校で、児童3人の上靴がなくなるという出来事があったところ、その上靴がその小学校の教員の更衣室ロッカーから発見されたというのです。
そして、この教員は、器物損壊罪で逮捕されたとのこと。
これを聞いたとき、「窃盗罪じゃないの?」と思われたかた、いませんか?
上靴を切り裂いたり、汚したりして履けない状態にしてしまったわけではないようですし、器物損壊罪というのもしっくりこないというかたもいるかもしれません。
でも、このような場合は窃盗罪ではなく、器物損壊罪にあたるんです。
窃盗罪が成立するためには、「不法領得(ふほうりょうとく)の意思」が必要です。
不法領得の意思というのは、その物を自分の物として、その物の経済的用法に従って利用、処分する意思のこと。
報道によれば、この教員の動機は、職場の同僚への不満を晴らすためだったとのことです。
これは、不法領得の意思にあたりません。
では、なぜ、切り裂いたり汚してしまったりしたわけではないのに隠しただけで器物損壊にあたるのか?
それは、器物損壊罪というのが、物理的に壊したりすることだけでなく、その物の効用を喪失させた場合にも成立する犯罪だからです。
上靴を教員の更衣室ロッカーに長期間隠してしまったら、上靴を見つけることはできず、その間生徒たちはそれらの上靴を履くことができません。
ですから、上靴としての効用を喪失させたとして器物損壊罪が成立しうるのです。

ここで、ふと、ほかの報道を思い出すかたもいるかもしれません。
靴に性的興奮を覚えて学校に侵入して上靴などを持ち去ってしまうという事件。
このような事件は何罪が成立しうるのか?
まず、靴を持ち去ることを目的として学校に侵入することについて建造物侵入罪が成立します。
そして、靴を持ち去る行為については、窃盗罪が成立します。
靴により性的興奮を満たすために持ち去るということが、果たして、靴の経済的用法に従って利用することといえるのか?と思うかたもいますよね。
でも、この「経済的用法に従って利用」は広く解されていて、性的興奮を満たすためということであっても、不法領得の意思があるとして窃盗罪が成立しうるのです。

窃盗罪と器物損壊罪の法定刑を比べると、窃盗罪が10年以下の懲役または50万円以下の罰金であるのに対し、器物損壊罪は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料で、窃盗罪の法定刑のほうが重いといえます。
不法領得の意思という内心に関わる要素で、法定刑が大きく異なる2つの犯罪のいずれか判断しなければならない、ということです。
動機に関する被疑者の供述にとどまらず、持ち去った態様、その後の保管状況、余罪の有無等慎重な捜査が必要になるといえそうです。

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