リーガルエッセイ
公開 2020.10.06 更新 2021.07.19

裁判員裁判の対象からの除外

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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昨年4月、路上で、暴力団の抗争事件を背景にしたと見られる襲撃事件が発生し、その被告人として、暴力団組員が殺人未遂などの罪で起訴されている裁判について、検察庁が、この事件の審理は裁判員裁判の対象から除外すべきだと求めたところ、裁判所が、その請求を却下したと報じられました。
この決定に対し、検察庁は不服申し立てをしたとのことです。

裁判員法には、一定の場合には、裁判所が、裁判員対象事件から除外して、いわゆる職業裁判官が取り扱う決定をしなければならないと定めています。
どのような場合かというと、裁判員候補者らの生命、身体、財産に危害が加えられるおそれがあったり、生活の平穏を著しく害されるおそれがあったりして、そのために裁判員候補者らが怖がってしまい、出頭できなくなったり、これにより職務を遂行してもらうことができず交代してくれる裁判員の選任も困難と認められる場合です。
そして、それをどうやって判断するかというと、被告人の言動、被告人が構成員になっている団体の主張、その団体の別の構成員の言動、裁判員に対する加害やその告知が行われたかどうかなどという事情を考慮することになります。
裁判員に加害行為があったり、加害の告知があったりという事実が認められれば、除外すべきかどうかの判断は容易だと思います。
でも、そのような明確な行為は認められないというケースで、裁判員候補者らの生命、身体等に危害が加えられるおそれがあるか、生活の平穏を著しく害するおそれがあるかという点は、それ自体が抽象的な表現となっており、評価はわかれるでしょうし、その評価が必ずしも裁判員を始めとする国民の感覚に合っている場合ばかりではなさそうだなと思いませんか?

暴力団抗争が背景にある事件は裁判員裁判の対象から外すべきか

暴力団抗争が背景にある事件の裁判についてはこの除外の決定がなされた例が複数あります。
このこと自体は、あまり違和感がないのではないでしょうか。

一般的に、暴力団抗争が背景にある事件の裁判について裁判員を務めた場合、暴力団関係者が、自分の所属する組や支持する関係者にとって有利な結果を得ようと圧力をかけてくるのではないか、逆に不利な判断をした場合、危害を加えてくるのではないかと恐怖を感じるという心理、もっともだと思います。

数年前になりますが、暴力団幹部が関わったとされる裁判の裁判員を務めた裁判員に対し、その裁判員が裁判所の外に出たところで、暴力団関係者が、「顔は覚えとる。よろしくね」などと声をかけたとして、裁判員法違反の被疑事実で逮捕されたと報じられたこともありました。

裁判員制度は、国民が裁判に参加することで、司法に対する理解の増進と信頼の向上を得ることがその趣旨だとされていますが、なによりも、その大きな目標を実現する前提として、裁判員の安全が確保されていること、これにより裁判員が生活の平穏や身体等への不安を感じずに純粋に証拠と向き合って判断できる環境を整える必要がありますよね。
そこに少しでも不安が生じる状況になると、裁判員に過度な負担をかけることはもちろん、かえって司法への不信を招く懸念もあるといえそうです。
裁判はこれから開かれるわけですから、当該事件がいったいどのような背景で起きたものか、証拠による事実関係の解明がまだなされていない段階で除外すべきかどうかの決定をしなければならず、その判断には難しい側面があると思います。
一言で「暴力団」といっても、いろいろな組織があると思われ、さらに、その活動実態が外に見えにくい性質がある以上、個別の事案ごとに各暴力団組織が一般市民に危害を加える危険性が具体的に迫っているかという判断自体がそもそも困難だといえるでしょう。
除外すべきかどうかの判断は、職業裁判官でない裁判員のかたたちが、不安を感じずに純粋に証拠と向き合って判断できるか否かを国民感覚に沿って評価する必要がありそうです。
即時抗告の結果に注目していきます。

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