リーガルエッセイ
公開 2020.09.10 更新 2021.07.18

「人違い殺人」殺害の故意責任は?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、男性が、病院敷地内で、男2人に置き去りにされ死亡した事件で、その男性が人違いで暴行を受けた可能性があると報じられました。
まだ事実関係はわかりませんので、この件を離れ、一般論でお話しします。
過去に、「人違い殺人」などと報じられた事件があります。
そのとき、そのニュースを報じた記事に対し、いくつかコメントが寄せられていて、その中に、「Aさんを殺害しようと計画していたことは間違いない。でも、間違ってBさんを殺してしまった。Bさんを殺すつもりなどなかったのだから、Bさんに対し、殺害の故意はなかった。だからBさんの殺人については無罪なのではないか」などというものがあったのを鮮明に覚えています。
みなさんは、どうお考えになりますか?

「人を殺そうとして人を殺せば故意あり」

たしかに、「相手がBさんだとわかっていたら、殺す理由などなかったのだから、Bさんの殺人について故意がない」という言い分があるかもしれません。
でも、そのような主張をしたとしても、「故意がないから刑事責任を問えない」とはなりません。

殺人罪は、「『人を殺した者は』死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と定めています。
誰か特定の人を殺した場合を定めているわけではありません。
そして、故意がある人に刑事責任を負わせる意味は、たとえば殺人罪についていうと、「人を殺してはいけない」という規範に直面し、「やめておこう。引き返そう」と判断することが可能だったのに、あえて規範を乗り越えたことに対する非難だと言われています。
相手がAであってもBであっても、相手が人であるという意味では共通しています。
だから、「Aを殺そう」と考えてAを殺害した人は、おおよそ、人を殺してはいけないという規範に直面し、やめておこうと判断することができたにもかかわらず、あえてその規範を乗り越えて殺人に及んだといえます。
Aとは別のB死亡の結果についても殺人の故意責任を否定する理由がないのです。

では、本当はAを殺すつもりだったのにBを殺してしまったという場合、その事情は、判決の内容にどう影響するのでしょうか?
少なくとも、被告人にとって有利に働くことはないと思います。
というのは、人違いで殺された被害者のかたに、落ち度なんてありません。
もちろん、被害者には、どんな経緯があったとしても、殺人を正当化するような事情などありません。
とはいえ、事情によっては、殺人の量刑は大きく変わり、執行猶予判決になることすらあります。

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