リーガルエッセイ
公開 2020.06.05 更新 2021.07.18

改正道交法成立

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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道路交通法改正の背景

車を運転されるかたの中には、あおり運転の被害に遭い、おそろしい思いをされたご経験のあるかたもいらっしゃるのではないでしょうか?

あおり運転に端を発したいたましい死亡事故が発生し、あおり運転が社会問題となったことに伴い、平成30年には、警察庁が、全国の警察署に対し、あおり運転抑止のための厳正な捜査を徹底するよう通達を出しました。
その後、あおり運転を行った者について、暴行罪で検挙する事例が報じられたり、県警が設けた専用サイトへの投稿を端緒として被疑者の特定、検挙に至ったというニュースも報じられるなど、あおり運転への警察の厳しい捜査姿勢も見受けられます。

一方で、あおり運転というものが、直接犯罪として規定されていないことで、あおり運転というもの自体の定義づけがあいまいだという問題がありました。
また、厳しく立件するとはいっても、法定刑の重い危険運転致死傷罪にあたる行為は限られていますし、それ以外だと暴行罪や道路交通法違反の車間距離不保持、進路変更禁止違反等いずれも重いとはいえない法定刑の犯罪該当性を検討せざるを得ませんでした。
暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役、30万以下の罰金または拘留もしくは科料、車間距離不所持等の法定刑は、3月以下の懲役、5万以下の罰金です。

そのような中、あおり運転の深刻な被害が認知され、社会問題となったことに伴い、あおり運転の厳罰化などを盛り込んだ改正道路交通法が6月2日に成立しました。

初めて、あおり運転が「妨害運転罪」として規定されたのです。
6月中にはこの改正法がスタートします。

妨害運転罪とは

私自身、まだ、改正された条文そのものを見ることができていませんが、報道によれば、他の車両の通行を妨げる目的の車間距離不保持やクラクション、幅寄せ、急ブレーキなどを違反行為として明示しており、その法定刑を「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」とするとともに、高速道路上で相手の車両を停めさせるなど「著しい危険」を生じさせた場合はその法定刑を「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」と重くしているとのこと。
3年以下の懲役または50万円以下の罰金、といえば、酒気帯び運転と同じ重さということになります。

立件の難しさも

単純に法定刑だけを見ると、たしかに、厳罰化がされたといえそうです。
でも、実際の適用場面では、ある運転が、ほかの車両の通行を妨げる目的でなされたものといえるのかという点の立証は必要です。
「自分は、ほかの車両の通行を妨げる意図などなかった」と弁解されたとき、そのような意図があったことを証明するには、どのような走行をしていたかを事後的に客観的に明らかにする必要があります。
車間距離不保持等の違反行為をしたかどうかという点の立証ももちろん必要です。
「相手が危険な走行をしてきたからクラクションを鳴らしたんだ」「車間距離も十分にとっていた。もし詰まってしまっていたとしたら、相手の走行に原因があったはずだ」などという主張もあり得るでしょう。

客観的に、それぞれの車がどのように走行していたのか、ということを事後的に明らかにする捜査はなかなか大変だと思うのです。
当事者となった車両の運転手以外の車両の運転手が、走行の過程で断片的に状況を目撃していたとしても、その場所が道路であるという性質からして、そのまま立ち去ってしまい、後に目撃者を探すということもなかなか難しいといえそうですよね。
そのようなとき、ドライブレコーダーの映像が残っていれば、車の走行状況を明らかにするために有効だと言われています。

また、身の安全を守るためにも、早期に証拠を収集するという観点からも、早めに被害申告をすることが大切です。
この点、警視庁も、あおり運転の被害にあったら、まずはサービスエリアなど交通事故に遭わない安全な場所に移動した上でためらわずに110番通報するよう呼び掛けています。

今後、自粛が解かれ、徐々に交通量が増えていくことが予想されます。
そのような中、改正道路交通法が適正に適用され、あおり運転に端を発したいたましい事件が二度と起きることがないことを願っています。

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