リーガルエッセイ
公開 2020.05.07 更新 2021.07.18

パチンコ店 休業要請に従わない店名の公表

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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新型コロナウイルスの感染拡大防止のための休業要請に従わないパチンコ店について、店名公表に踏み切る自治体が出てきています。

店名公表については、いろいろな声があるようです。
「要請に従わない店の店名公表は当たり前だ」
「店名公表をすれば店への評価が下がる。その損害はどうしてくれるのか」
なかには、「かえって宣伝になるから人が集まるようになる」などという意見も。

休業要請に従わないパチンコ店について、店名を公表することは、そもそも、どのような法的根拠に基づくのか、ご存じですか?
今回は、休業要請や店名の公表がどのような根拠に基づいてなされているのか、という点をとりあげてみます。

新型インフルエンザ等対策特別措置法が根拠

新型インフルエンザ等対策特別措置法という法律があります。
そして、この法律が改正され、新型コロナウイルスも適用対象となったのです。

休養要請やこれに従わない場合の施設名公表の根拠となる法律は、この新型インフルエンザ等対策特別措置法です(以後、「特措法」といいます)。
この法律の名前は、緊急事態宣言発令の根拠となった法律でもあるので、最近、ニュースで耳にする機会もあったのではないでしょうか?

そして、この特措法は、緊急事態において、新型コロナウイルスのまん延を防止し、国民の生命や健康を守り、国民生活・国民経済の混乱を避けるために必要があるときは、多数の人が利用する施設を管理している人や催物の主宰者に対し、施設や催物の制限や停止などを要請することができると定めています。

パチンコ店への休業要請はこの定めに基づくものなのです。
そして、要請にも従わず、そこに正当な理由がない場合には、要請した措置を講じるように指示することができるとも定められています。

店名の公表はなぜ許されるの?

要請に従わなかったとして店名を公表されることについて、みなさんは、どう思いますか?

受け手の反応によっては、店の悪評につながり、売り上げにも影響する可能性がありますよね。
公表が店にとって大きな影響を持つ措置である以上、その根拠が必要になるはずです。
この点についても特措法で定められています。

特措法では、今お話しした要請や指示をしたときには、都道府県知事が、遅れずにこのことを公表しなければならない、と定めているのです。
つまり、公表することは、義務として定められているのです。

どのタイミングで要請するか?

要請や指示をした場合、遅れずにこのことを公表しなければならない、となると、どのようなときに要請、指示をすべきか、ということの判断が大事になってきますよね。
各自治体からは、その判断が法律からは必ずしも明確になっていないとして、国にガイドラインを示してほしいという声があがっていました。
これに応じ、政府は、特措法に基づく要請や指示を行う場合のガイドラインをまとめ、都道府県に通知したと報じられています。

報道によれば、ガイドラインでは、まずは、「協力の要請」という公表を伴わない形での要請をしたうえで、これへの施設側の対応を実地調査で確認することを求めています。そして、協力の要請に従わないと、今後もっと強い効力を持つ要請・施設名公表に踏み切らざるを得ないことなどを事前に告知することとしています。

それでも協力の要請に応じない場合に、公表の義務が規定されている強い「要請」に踏み切ること、その後の対応による次の段階として指示に踏み切ることなどがその内容になっているようです。

つまり、施設名の公表につながる要請や指示は、協力要請から段階を踏んで行い、それでも正当な理由なく店がこれらに応じない場合に踏み切るものとされているようです。

休業要請には問題も?

休業要請やこれに伴う公表については法的な根拠があるとしても、この法律自体に課題があるのではないかという声もあがっています。

公表は、施設名のみならず、その所在地や要請・指示の内容までが都道府県ホームページに公開されるもので、施設にとっては大きな影響を受けることが予想されます。
また、最近では、休業要請に従わないパチンコ店が散見される事態を踏まえ、今後、休業指示にも従わない施設に対し罰則を科すための改正も検討されていることも報じられました。

たしかに、新型コロナウイルス収束の兆しがなかなか見えず、感染拡大を阻止しなければならない事態であることは間違いありません。

一方で、なぜ施設名などを公表されても営業を続ける施設があるのか?ということも考える必要があります。
休業の要請に従い営業ができなくなることによる売り上げの減少にどう対応すればよいのか?という問題です。

感染拡大防止措置を実効的なものにするためには、休業要請、施設名公表、罰則の話と合わせて、休業に伴い売り上げが減少する事態がどのようにフォローされるのかということもセットで検討されるべき問題であると思います。

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