リーガルエッセイ
公開 2024.11.28

「自爆営業」について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「自爆営業」について

先日、「自爆営業」について、厚生労働省がパワハラに該当する場合もあるとして、指針に明記する方針であると報じられました。

「自爆営業」って聞いたことはありますか?
自爆営業というのは、使用者としての立場を利用し、従業員に商品の購入を強要したり、ノルマを達成できない場合に自腹で契約を結ばせたりすることを指して使われることのある言葉です。

自爆営業という言葉だと、なんだか、「ちょっと極端な営業方法のひとつ」くらいのニュアンスに聞こえてしまうような印象がありませんか?
でも、それはとんでもない誤解です。

もし、従業員として働かれているかたが、「自分は、自爆営業させられているかもしれない」と思うのであれば、それは直ちに労働基準監督署や弁護士に相談したほうがよいと思います。

ここでは、会社側の立場で自爆営業について考えてみたいと思います。

まず、結論を言うと、即刻、ご自身が経営される会社、マネジメントを担う部署等で自爆営業のようなものが行われていないか、チェックする必要があるということです。

「そうはいっても、あくまでも、今後徐々に規制が厳しくなるということでしょう?自爆営業というものに少しずつ意識を向けていけばいいのでしょう?」と思われますか?
それでは認識不足です。
指針に明記することになったと報じられましたが、実は、これまでの裁判例でも、自爆営業が判断過程で考慮要素とされたことはあります。

このような裁判例がありました。
過去に、ある金融機関で働いていた方が、業務上の過大なノルマの設定や上司によるパワーハラスメント等により精神障害を発症し、自殺して亡くなったとして、ご遺族が、労災保険法に基づき葬祭料の支給を請求したところ、処分行政庁が、精神障害の発生を否定したり、業務と死亡との因果関係を否定したりし、支給しない旨の処分をしたとのこと。
これに対し、ご遺族が、その処分の取り消しを求めて裁判を起こしたところ、控訴審で、不支給という処分の取り消しが認められたのです。
その判断の過程で、裁判官は、自爆営業という言葉を用いながら、亡くなった方が行わざるを得なかった自爆営業の実態を明らかにし、その上で、達成困難なノルマの設定に関する心理的負荷の強さは、一般的な金融機関の職員にとって、「中」に該当し「強」に近いものであったと評価しています。
具体的な自爆営業については、親族名義のクレジットカードを無断で契約し、それらを親族本人らには渡さずに自ら管理し、会費を負担していたとのこと、そんなことをせざるを得なかったというのだから、そもそも課されていた営業目標が厳しかったことを示していること、上司が「おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい」などと詰め寄っていたことを証拠から認定し、自爆営業を余儀なくされるような達成困難な営業目標が設定され、自爆営業が限界に達した状況にあってもなお、同様の自爆営業的な手段まで使った営業目標を要求されていたことが推認されるとしているのです。
すでに、自爆営業については、その事実の有無、実態が裁判所の評価に影響しているといえます。

自爆営業は、それ自体、違法になり得る法的問題です。
その内容によっては、労働基準法に定める賃金の全額払いの原則や違約金・賠償予定の定めの禁止に抵触し得ますし、刑法上の強要罪に該当する可能性もあります。

しかし、ひとつひとつの自爆営業にNGを出す、それだけでは不十分で、さらに根本にさかのぼって考える必要がありそうです。
つまり、現場で、自爆営業が常態化してしまっていたのだとしたら、現場の責任者が自爆営業を強いる行為に至ってしまうような問題が組織全体に隠れているはず、という点を考える必要があるということです。

もっとも、そもそも、自爆営業が行われてしまっている現場の状況を想像すると、自爆営業で苦しむ声は上まで上がってこず、待ちの姿勢では実態の把握が難しいかもしれません。
自爆営業で苦しむ従業員の方においては、現場の上司や会社の通報窓口などを信頼して相談してみたいという意欲が削られている可能性が高いため、通常のレポートラインや内部通報システムの過程で、その端緒をつかむのは難しいと思われるからです。
いかにして、現場で起きている問題を経営問題として吸い上げるか。
こうして書くととても抽象的で、日々の業務に追われる中検討すべき余裕はないかもしれません。
でも、起きてからでは遅いのです。

自爆営業のあぶり出しとそれへの対応として一つ考えられるのは、外部講師によるコンプライアンス研修の実施です。
自爆営業が行われ得る業態については、内閣府ホームページにおいて、「後を絶たない自爆営業」というタイトルで公開されているところです。
報道や有識者へのヒアリングに基づく情報とのことで、もちろん、ここに挙げられている業態で必ずしも自爆営業が起きやすいとまでは言えないと思いますし、逆に、挙げられていなくてもリスクあるケースもあると思いますが、目を通し、自社でリスクがありそうだと思われる場合、お気軽に、そのご不安をお聞かせください。
お話をうかがい、リスクの程度に応じ、階層別の研修の実施をすることなど、必要な対応を一緒に検討します。

また、必ずしも自爆営業自体が顕在化しているということでなくても、「ハラスメントの相談が毎月いくつか窓口に寄せられているが、個々の対応にとどまらず、全社的に対策を講じたい」「内部通報窓口は存在するが、年間を通して1件も相談が寄せられないまま何年も経つ。何か改善が必要か」「従業員のSNS利用にリスクを感じる」など、目先の課題で手一杯となり、なかなか問題に着手できていないまま今年も終えようとしていると感じられる事項があれば、ぜひお気軽にお声かけください。
個々の会社様の課題をあぶりだした上で、オーダーメイドの研修を実施することなど、課題に直結する方法を一緒に考えていきたいと思います。

最後に。
研修って、どこか堅苦しくて、会社としても、受講する方としても「とりあえず研修を実施した」という形自体が大事なんだっていう捉えられ方をすることってあると思うのです。
研修とはいっても、いろいろなやり方があるのだと思います。
その研修によって何を伝える必要があるのかによってもやり方は違うと思います。
ただ、私は、聴いてくださる一人一人のかたが、単に、知識を得たとか、勉強になったとかいう感想をもたれるような研修はしたくないなと思っています。
私は、聴いてくださったかたが、研修後に、「なんか元気になった」「仕事と前向きに向き合えそう」というような思いになっていただけるような研修を目指したいと思っています。
細かい知識を獲得することより、働いている方が、組織の中にあって、自分というものをとても大事な存在として自覚し、働くことについてポジティブなパワーで満たされることが研修講師としての自分の役割だという思いで臨みたいと思っています。
なんだか抽象的なきれいごとのように聞こえるかもしれません。
また、私自身まだまだその目標を常に達成することができているわけではないと思っています。
でも、そういったきれいごとを足元からひとつひとつ実行していくことが、自爆営業だけではなく、企業内で起きる不正とはかけ離れた組織風土を作っていくと思うので、今後も、研修というものを、ご依頼いただいた会社に所属するお一人お一人に向き合う時間と捉え、丁寧に役割を果たしていきたいと思っています。

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