リーガルエッセイ
公開 2024.09.10

「いじり」と「いじめ」について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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いじり

先日、高校生が、複数の同級生からいじめを受けて長期間欠席し、その後転校したことに関し、生徒が受けた行為が、「重大事態」として認められ、今後第三者調査委員会による調査が行われる予定である旨報じられました。この高校生が、同級生らから「いじられて嫌だ。学校に行きたくない」と言っていたとも報じられています。
その報道だけからは、具体的にどのような行為が認められたのかという事実関係が明確ではないので、この件を少し離れ、「いじり」といじめについて取り上げてみたいと思います。

「いじり」「いじる」という言葉は、たとえば、「あいつはいじられキャラだよね」などという文脈で使われることもあると思います。
そんな話を聴くと、つい、「その方は、その言動におもしろいところがあって、そこを周囲の人からからかわれたりするような、いわゆる愛されキャラなんだな」などと受け取ってしまいます。
つまり、私の中で、「いじられる」ということについて、あまりネガティブなイメージがなく、あたかも、いじられている方においても、いじられることをポジティブに受け止めているかのように認識してしまっているように思うのです。
「その方は、いじられることを本当のところはどう思っているんだろう」と考えたことがあまりないように思います。

もちろん、一言で「いじる」とは言っても、その実態はいろいろであるはず。
前提として、いじり、いじられる立場の人たちの人間関係だっていろいろ。
だから、すべてをいっしょくたにして、いじりは許容されるとか、絶対NGなんだとか評価することは乱暴だと思うのです。

ただ共通していると思うのは、「いじられている」本人の思いに想像を巡らせる必要があるということ。
真剣に言葉を伝えようとしたのにからかわれたことに悔しい思いをしているかもしれない。
「いじり」なんていう言葉からは想像できないような鋭い言葉に、深く傷ついているかもしれない。
本当はとても腹が立っているし、悲しく思っているし、これからはこんなことをされたくないと思っているのだけど、みんながからかい半分で笑いながらやっていることに対し、大真面目に意見することで、みんなから「空気が読めないやつ」と思われてしまったり、雰囲気を悪くしてしまったり、今後は、相手にしてくれなくなってしまうかもしれない。
自分は、いじめられているのではなくて、愛されているんだと、傷つきながら、懸命に思い込もうとしているのかもしれない。
そのようなことを考えながら、「いじり」を受け止め、いじられキャラを必死の笑顔で演じているのかもしれない。
そんな「いじり」を受ける側の思いに無感覚になってはいけないなと思います。

特に、「いじり」は、もともと一緒に行動することや話をすることが多い友達同士の間で行われることも多いと思われ、その場合、「いじられ」ている子にとって、いじられていることに対し意見を言うことというのは、いつも一緒にいる仲間から「せっかく仲良くしていたのに悪者にするなんて」と思われたり、それによって溝ができてしまったりするかもしれないという不安をも感じる行動であるかもしれないのです。
そんな不安に押しつぶされそうになりながらも相談を決めた子どもたちの声を受け止める親や学校側は、ここに来るに至るまでにどれほどの勇気を必要としたかということに思いを巡らせなくてはいけないのだと思います。

いじめについて、法律は、「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」として、受け手側がどのように受け止めたかということを重要な基準としています。
この観点で、身の回りの「いじり」について今一度考えてみる必要がありそうです。

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