コラム
公開 2024.06.29

単体224_新規_職場の上司をパワハラで訴えるには?訴え方や流れを弁護士がわかりやすく解説

パワハラの被害に遭っている場合、訴えたいと考える場合もあるでしょう。

そもそも「パワハラで訴える」とは、どのようなことを指すのでしょうか?
また、パワハラで訴える場合、どのような流れで行えばよいのでしょうか?

今回は、パワハラで訴える方法や訴える流れなどについて、弁護士がくわしく解説します。

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パワハラの定義

はじめに、パワハラの定義を紹介します。
パワハラについては、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称「パワハラ防止法)」で、次のように定義されています(パワハラ防止法30条の2)。

  • 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」もの

この要素を抽出すると、パワハラとは次の3つの要素をすべて満たすものとなります。

  1. 「優越的な関係を背景とした」言動であること
  2. 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動であること
  3. 「就業環境が害される」ものであること

これらの要素について、厚生労働省が運営するホームページである「あかるい職場応援団」を参考に、もう少しくわしく解説します。※1

「優越的な関係を背景とした」言動とは

「優越的な関係を背景とした」言動とは、業務を遂行するにあたって、その言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶ができない蓋然性(可能性)が高い関係を背景として行われる言動です。
典型的なものは、上司から部下への言動でしょう。

ただし、同僚や部下からの言動であっても、次の場合などは「優越的な関係を背景とした」言動に該当し得ます。

  • その言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難であるもの
  • 集団による行為で、これに抵抗や拒絶することが困難であるもの

このように、同僚や部下からの言動であるからといって、パワハラにならないわけではありません。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らしてその言動が明らかに業務上必要性のないものや、その態様が相当でないものです。
これを判断するにあたっては、次の要素などを総合的に考慮すべきとされています。

  • その言動の目的
  • 言動を受けた労働者の問題行動の有無、内容、程度などを含む、その言動が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • その言動の態様・頻度・継続性
  • 労働者の属性(経験年数、年齢、障害がある、外国人であるなど)
  • 労働者の心身の状況(精神的・身体的な状況や疾患の有無など)
  • 労働者と行為者との関係性

そのため、ある一つの行為だけを切り取って「パワハラか否か」と正確に判断することは困難です。

「就業環境が害される」とは

「就業環境が害される」とは、その言動によって、労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
たとえば、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられて就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じている状態などがこれに該当します。

この判断にあたっては、その労働者個人の感じ方だけで判断するのではなく、「同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうか」を基準とすることが適当とされています。

「パワハラで訴える」とは

「パワハラで訴える」とだけ表現する場合、これにはさまざまな意味を含んでいる可能性があります。
ここでは、「パワハラで訴える」が意味する可能性のある具体的な内容を紹介します。

なお、先ほど解説したように、パワハラは同僚や部下からであっても成立する可能性があるものの、ここでは解説の便宜上、パワハラ加害者を「パワハラ上司」と呼称します。

パワハラ上司を「会社に訴える」

1つ目は、パワハラ上司を会社に訴える方法です。

パワハラの被害に遭った場合、原則としてまずは会社に対して被害を訴えることとなります。
パワハラの内容や態様、状況によっては、パワハラ上司が異動となるなど、懲戒処分の対象となる可能性があります。

なお、パワハラ防止法の規定により、会社はパワハラ被害者からの相談に応じるなど、必要な措置を講じなければなりません。
相談窓口は独立して設けられていることもあるものの、人事部や総務部などが窓口となっていることが多いでしょう。

会社が対応してくれないことを「労働局に訴える」

2つ目は、会社が適切に対応してくれない旨を、労働局に訴える方法です。

会社がパワハラに対して適切に対応しない場合、会社が適切な義務を果たしていない可能性があります。
その場合は、都道府県労働局(総合労働相談コーナー)への相談が選択肢に入ります。
会社が対処してくれないことを労働局に訴えることで、労働局から会社に対して指導や助言をしてもらえる可能性があります。

なお、労働局がパワハラ上司に直接指導や助言をすることはありません。
労働局はあくまでも「対会社」であることを理解しておきましょう。

パワハラ上司や会社を「審判や裁判で訴える」

3つ目は、パワハラ上司や会社を審判や裁判で訴える方法です。

審判とは、労働者と会社との間の紛争を解決する手段です。
通常の訴訟と比較して簡易・迅速であるものの、異議を申し立てられると通常の訴訟(裁判)に移行します。
また、労働審判は不当な解雇や異動など会社とのトラブルを調整する場であり、パワハラ上司に損害賠償請求をする場ではありません。

一方、訴訟ではパワハラ上司や会社に対して損害賠償請求(慰謝料請求)が可能です。
この場合、まず相手方に内容証明郵便を送って裁判外で請求したうえで、これに応じない場合に訴訟に移行することとなります。

初めに審判と訴訟のいずれを選択すべきであるかは望む結果や状況によって異なるため、弁護士へご相談ください。

パワハラ上司を「警察に訴える」

4つ目は、パワハラ上司を警察に訴える方法です。

パワハラを直接規定した刑罰はありません。
しかし、殴る・蹴るなどの危害を加えた場合は「傷害罪」や「暴行罪」、「殺すぞ」などと脅迫した場合は「脅迫罪」、社内に悪口を広められた場合や「名誉毀損罪」や「侮辱罪」など、個々の行為が刑法上の罪に該当する可能性があります。
この場合、警察などの捜査機関に刑事告訴をすることで、パワハラ上司に前科をつけられる可能性があります。

ただし、告訴状の受理後、どのように捜査を進めるかは捜査機関に委ねられ、たとえ被害者であっても逐一指示を出すことなどはできません。
また、内容によっては不起訴(刑事裁判を開始せず、事実上の無罪放免とすること)となる可能性もあるほか、有罪であっても執行猶予(一定期間を問題なく過ごせば、刑の言い渡しの効果が消滅する措置)がつけられるケースもあります。

刑事告訴が得策であるか否かはパワハラの程度やパワハラによる被害状況、被害者の臨む結果などによって異なります。
あらかじめ弁護士へご相談ください。

パワハラを訴える方法と流れ

パワハラで訴える場合、どのような流れで進めればよいのでしょうか?
ここでは、パワハラ上司と会社に対して損害賠償請求をすることを前提に解説します。

  1. パワハラの証拠を残す
  2. 会社に相談する
  3. 弁護士へ相談する
  4. 弁護士から内容証明郵便を送付する
  5. 訴訟を起こす

1.パワハラの証拠を残す

初めに、パワハラの証拠を残しましょう。
会社にパワハラを訴えても、相手がパワハラを否定した場合、証拠がなければ会社に信じてもらえない可能性があるためです。

また、会社が適切に対処せず訴訟に移行することとなった場合、証拠がなければ損害賠償請求が認められない可能性が高くなります。
訴訟では、特に証拠が重視されるためです。

そのため、あらかじめパワハラの証拠を残しておいてください。
パワハラの証拠については、後ほど改めて解説します。

集めるべき証拠がわからない場合は、この段階から弁護士へ相談することも一つの方法です。

2.会社に相談する

パワハラの証拠が集まったら、会社に相談します。

パワハラ防止法の規定により、会社にはパワハラの相談窓口を設けるなど適切な措置が義務付けられています。
人事部や総務部などが窓口を担っていることもあるため、窓口がわからない場合は人事部などに確認してみるとよいでしょう。

会社が適切な対応をしたことでパワハラが収まり、また被害者としても損害賠償請求などまでをするつもりがない場合は、この時点で解決となります。

3.弁護士へ相談する

次の場合などには、弁護士へ相談してください。

  • 会社に相談しても、パワハラに対して適切に対処してくれずパワハラが収まらない場合
  • 会社ぐるみでパワハラをしている場合
  • パワハラの相談をしたことで、被害者の異動や減給など不利益な取り扱いを受けた場合
  • 会社を辞める予定であるなど会社に相談するつもりがなく、損害賠償請求を希望する場合

弁護士へ相談することで、今後の方針が定めやすくなります。
相談の際には、依頼した場合にかかる費用についても確認しておくとよいでしょう。

4.弁護士から内容証明郵便を送付する

弁護士に依頼したうえで、弁護士から会社やパワハラ上司に損害賠償請求をします。
請求は、内容証明郵便を用いて行うことが多いでしょう。

この時点でパワハラ上司や会社が謝罪して損害賠償請求損を支払えば、示談成立となり解決となります。
この場合、示談金の額のほか、以後パワハラをしない旨など今後の対処法を記した示談書を交わすことが一般的です。

5.訴訟を起こす

裁判外で解決に至らない場合は、訴訟へと移行します。

訴訟では、諸般の事象や証拠を踏まえ、裁判所が損害賠償請求の可否や適正な賠償額を決めます。
裁判所が損害賠償請求を認容する場合、パワハラ上司と会社がこれを共同して負担すべきとされることが一般的です。

パワハラで訴える際に有用となる主な証拠

パワハラで訴える際は、どのような証拠を集めるとよいのでしょうか?
ここでは、パワハラの主な証拠を紹介します。

録音した音声データ

暴言や嫌味、大声で怒鳴るなどのパワハラの場合、録音した音声データが有用な証拠となります。
ボイスレコーダーやスマートフォンのボイスメモなどで録音するとよいでしょう。

録音は相手の音声だけを切り出すのではなく、編集せずに提出してください。
また、複数回の録音があった方が、信憑性が高くなります。

メールやLINEなどのやり取り

メールやLINE、チャットなどでパワハラをされた場合は、そのやり取りの記録が証拠となります。
不快な内容であっても、削除せずに保存しておきましょう。

また、LINEやチャットなどは、相手の操作だけでメッセージが消えてしまう場合があります。
訴訟などを予見して相手がメッセージを削除しても証拠が残るよう、スクリーンショットなどを撮っておいてください。

動画

殴る・蹴るなどのパワハラの場合は、動画が有力な証拠になります。
とはいえ、録音とは異なり、相手に気付かれずに動画を撮ることは容易ではないでしょう。

そのため、同僚に協力を依頼したり、あらかじめカメラを設置したりするなどの工夫が必要となります。
会社が設置している監視カメラにパワハラの様子が映っている可能性がある場合、会社に提供を求めてみることも一つの方法です。

診断書

パワハラによって怪我をした場合や精神的苦痛を感じた場合は、医師の診断を受けて診断書を得ておくとよいでしょう。
診断書はパワハラの直接的な証拠とはならないものの、被害の証拠となり得ます。

ただし、パワハラの発生日から診断書の日付が大きく離れていると、パワハラとの因果関係が疑問視されるおそれがあります。
そのため、パワハラにより心身に不調が生じたら、早期に診察を受けて診断書をもらっておくことをおすすめします。

被害者の日記やメモ

被害者の日記やメモも、パワハラの証拠となり得ます。
パワハラについて記録を残す際は、誰にいつ何をされたか、何を言われたかなど、できるだけ具体的に記すことをおすすめします。

ただし、日記やメモはそれだけでは証拠としてはやや弱いと言わざるを得ません。
そのため、他の証拠を補強するものとして日記を併用するとよいでしょう。

パワハラで訴える際に知っておくべきこと

最後に、パワハラで訴える際に知っておくべきことを2つ解説します。

上司だけではなく会社も訴えることが多い

パワハラでの損害賠償請求は、パワハラ上司のみならず、会社を訴えることも可能です。
なぜなら、会社は使用者責任や安全配慮義務を負っているためです。

そのため、相手に資力がなく損害賠償金の回収が難しい場合であっても、併せて会社を訴えることで回収できる可能性が高くなります。

パワハラ問題に強い弁護士へ相談するのがベスト

会社が非協力的である場合、一人で悩んでパワハラが解決することはほぼありません。
パワハラが長期化すれば、心身に回復が難しいほどの支障が生じるおそれがあります。

パワハラの被害に遭っている場合は一人で悩まず、パワハラ問題への対応実績が豊富な弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、対応の見通しが立てやすくなります。

まとめ

パワハラで訴える方法や、訴える流れなどを解説しました。

一口に「パワハラで訴える」といっても、実はその方法は複数あります。
パワハラの被害に遭って訴えたいと考えている際は、早期に弁護士へ相談したうえで、具体的な方法を検討するとよいでしょう。
早期に弁護士へ相談することで必要な証拠や、今やるべきことが明確となります。

Authense法律事務所ではパワハラ被害者からのご相談や訴訟のサポートについて、多くの対応実績があります。
パワハラで上司や会社を訴えたいとお考えの際は、Authense法律事務所までご相談ください。

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