コラム
公開 2024.05.11

単体226_新規_窃盗症(クレプトマニア)の場合は無罪になる?逮捕時の対処法を弁護士がわかりやすく解説

人が窃盗をする原因はさまざまですが、中には窃盗症(クレプトマニア)の症状により窃盗行為に及んでしまう人もいます。

窃盗の原因が窃盗症である場合、無罪となるのでしょうか?
また、窃盗症の者が起こした窃盗事件である場合、弁護士はどのような弁護活動を行うのでしょうか?

今回は、窃盗症によって無罪となる可能性や弁護活動の内容、逮捕された場合の初期対応のポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。

記事を執筆した弁護士
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窃盗症(クレプトマニア)の概要

はじめに、窃盗症の概要について解説します。
なお、窃盗症は「クレプトマニア(Kleptomania)」とも呼ばれますが、本記事では原則として「窃盗症」と表記します。

窃盗症とは

窃盗症とは、窃盗行為に依存をする精神疾患です。
窃盗衝動を抑えられず、窃盗行為(万引きなど)を繰り返す疾患とされています。

万引きなどの窃盗を行う理由はさまざまであり、たとえば「お金がないから」や「どうしても欲しいものだが資金が足りないから」などの理由が考えられます。
しかし、窃盗症の者はこのような理由ではなく、衝動的に窃盗行為に及びます。

窃盗症の診断基準

米国精神医学会が発行している精神疾患の基本的な定義を記した「DSM-5」では、窃盗症の診断基準として次の5項目が挙げられています。

  1. 個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される
  2. 窃盗におよぶ直前の緊張の高まり
  3. 窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感
  4. 盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない
  5. 盗みは、素行障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない

ただし、これはあくまでも医師が診断の際に使用する一つの基準であり、これだけをもとに安易に自己診断することはおすすめできません。
適切な診断を受け治療の機会を確保するため、窃盗症の疑いがある場合は早期に医療機関を受診してください。

窃盗症(クレプトマニア)なら窃盗しても無罪になる?

窃盗症は依存症の一つであり、自身の意思で窃盗行為を止めることは困難です。
では、万引きなどの窃盗をした者が窃盗症である場合、窃盗行為をしても無罪となるのでしょうか?
ここでは、順を追って解説します。

窃盗症を理由に無罪となる可能性は低い

窃盗の原因が窃盗症であったとしても、そのことだけを理由として無罪となる可能性はほとんどありません。

刑法では、「心神喪失者の行為は、罰しない」とされています(刑法39条1項)。
しかし、窃盗症の者は必ずしも心身を喪失しているわけではなく、責任能力がないわけではありません。

むしろ、窃盗行為を「悪いこと」であると認識している場合が多いでしょう。
そのため、窃盗症であることだけを理由に無罪となる可能性は低いといえます。

窃盗罪の法定刑

窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です(同235条)。

なお、刑法に「万引き」という犯罪類型があるわけではありません。
店舗にあるものを盗むいわゆる「万引き」も、訪問した知人宅のものを盗む行為も、同じ「窃盗罪」にあたります。

再犯の場合は罪が重くなる可能性がある

万引きなどの場合、初犯であれば不起訴となる可能性や、起訴されて有罪となっても執行猶予が付いて実刑を回避できる可能性は低くありません。

しかし、窃盗症の者は窃盗行為を繰り返しやすく、何度も窃盗行為に及ぶ傾向にあります。
また、執行猶予中に窃盗行為をする場合もあるでしょう。
そのような場合は、もはや執行猶予は期待しづらく、罪が重くなる可能性があります。

なお、刑法では5年以内の再犯の場合に、懲役刑の上限が2倍になると規定されています(同56条、57条)。
つまり、窃盗罪の再犯の場合、懲役刑の上限は10年ではなく20年になるということです。

窃盗行為を繰り返さないよう、窃盗症である可能性を自覚した時点で、早期に診断や治療を受けることをおすすめします。

窃盗で逮捕された後の流れ

窃盗の容疑で逮捕された場合、逮捕後はどのような流れとなるのでしょうか?
窃盗をした者が窃盗症であるか否かによって流れが異なるわけではないため、ここでは逮捕後の一般的な流れを解説します。

警察で取り調べを受ける

窃盗の容疑で逮捕されると、まず警察で事件の捜査がなされます。
警察での身体拘束期間は最大48時間です。

なお、勘違いしている人も少なくないものの、逮捕自体は刑罰ではなく、逮捕イコール有罪ではありません。
そのため、窃盗の現行犯で逮捕されても、逃亡や証拠隠滅などのおそれがないと判断されれば釈放を受けることが可能です。
一般的には、弁護士をつけて弁護活動をしてもらうことで、早期の釈放が受けやすくなります。

検察に身柄が送られる

逮捕から48時間以内に検察に身柄が送られ、検察での捜査が開始されます。
検察に身柄が送られることを「送検」といいます。

検察は、送検から24時間以内に勾留(被疑者の身柄を拘束すること)の請求をするかどうかを決定します。
勾留されると、そこから最大20日間(=原則10日間+延長最大10日間)、検察に身柄が拘束されます。

一方、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されると早期に釈放され、在宅のまま捜査が進められることもあります。

起訴・不起訴が決まる

捜査の結果、被疑者を起訴するか不起訴とするかを検察が決定します。

起訴とは、刑事裁判を開始することです。
一方、不起訴とは刑事裁判にかけないことを決定することであり、事実上の無罪放免を意味します。

検察が捜査や取調べをした結果嫌疑がないと判明した場合や、嫌疑が不十分とされた場合などに不起訴となります。
また、被害者との示談交渉がまとまったことなどで、不起訴となる場合もあります。

刑事裁判が開始される

起訴されると、刑事裁判が開始されます。

刑事裁判の結果が出るまでには、数か月程度がかかることが一般的です。
勾留された状態で起訴された場合は裁判が終わるまで身体拘束が続く可能性があるものの、一定の保釈金を支払うことで釈放される可能性もあります。

なお、日本では起訴された際の有罪率は99.9%以上とされており、起訴後に無罪を勝ち取ることは容易ではありません。

ただし、有罪であっても執行猶予付きの判決となる可能性はあります。
執行猶予とは、一定期間を問題なく過ごすことで、刑の言い渡しの効果が消滅する制度です。

そのため、起訴された場合は、執行猶予付きの判決を目指すこととなります。

窃盗症(クレプトマニア)の事件で弁護士ができること

窃盗の容疑で逮捕された者が窃盗症である場合、弁護士はどのような弁護活動を行うのでしょうか?
ここでは、被疑者が窃盗症の場合における弁護活動の概要を解説します。

被害者との和解を目指す

窃盗の容疑で逮捕された場合、まずは被害者との和解(示談成立)を目指します。
被害者との和解ができれば、不起訴となったり刑が軽減されたりする可能性が見込まれるためです。

窃盗の被害者と和解するには、窃盗した物を返したり被害額を支払ったりするなどして、被害弁償をすることが前提となります。

なお、本人が逮捕されている場合は外部との連絡が取れないため、直接示談交渉をすることができません。
そのため、弁護士が仲介して示談交渉を行うこととなります。

窃盗症であるとの診断を受けさせる

窃盗症の診断を受けていない場合には、窃盗症であるとの診断を受けさせます。

先ほど解説したように、窃盗症であることだけを理由に無罪となる可能性はほとんどありません。
しかし、窃盗症であることが確定されないと、治療方針などが固めることが困難であるためです。

また、窃盗症は疾患の一つであり、刑罰を受けたからといって改善されるものでもありません。
この点を示し、被疑者に必要であるのは刑罰ではなく治療である旨などを主張します。

減刑を目指す

窃盗症が原因で無罪となる可能性は低いものの、重度の窃盗症であれば責任能力を欠いていると判断され、刑罰が減軽される可能性があります。
特に、他の精神疾患を併発している場合は、減刑が認められる可能性があります。

弁護士は具体的な状況に応じて必要な診断を受けさせるなどして証拠を集め、刑の軽減を図ります。

窃盗症の治療など再発防止に向けた取り組みを示す

「窃盗症であるから仕方ない」など開き直った態度を見せてしまうと、刑の軽減を受けることは難しくなります。
そうではなく、治療方針や自助グループへの加入などの取り組みを示します。
再発防止へ向けて取り組んでいることを示すことで、刑の軽減ができる可能性があります。

なお、先ほど解説したように、再犯である場合は刑の軽減ができるどころか、刑が重くなりかねません。
そのため、実際に再犯防止へ向けた治療を受け、窃盗を繰り返さないための努力が不可欠です。

窃盗症(クレプトマニア)の者が逮捕された場合の初期対応ポイント

窃盗症の者が窃盗容疑で逮捕されてしまった場合、どのように対応すればよいのでしょうか?
ここでは、窃盗症の者が逮捕された場合の初期対応のポイントを解説します。

早期に弁護士に相談する

ポイントの1つ目は、できるだけ早期に弁護士へ相談することです。
弁護士へ相談すべき主な理由は次のとおりです。

  • 被害者との示談交渉を進められるから
  • 早期の釈放が目指せるから
  • 不起訴処分や刑の軽減を目指せるから

被害者との示談交渉を進められるから

先ほど解説したように、不起訴処分や刑の軽減のためには、被害者との示談交渉をまとめることが先決です。
被害者に謝罪し被害弁償をすることで、不起訴処分や刑の軽減が受けられる可能性が高まるためです。

しかし、本人が逮捕されていると、自身で被害者と示談交渉をすることはできません。
そこで、弁護士による仲介を受け、早期の示談成立を目指すこととなります。

早期の釈放が目指せるから

逮捕は、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合になされるものです。
弁護士に依頼して逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを主張してもらうことで、早期の釈放を受けやすくなります。
釈放され在宅のまま捜査が進むことで、社会生活へ及ぼす影響を最小限に抑えることが可能となります。

不起訴処分や刑の軽減を目指せるから

弁護士のサポートを受けることで、不起訴処分や刑の軽減を目指しやすくなります。
なぜなら、弁護士が窃盗症の診断を受けさせたり示談交渉をまとめたりするなど、具体的な状況に応じた適切な弁護活動を行うためです。

窃盗症への理解がある弁護士に依頼する

ポイントの2つ目は、窃盗症への理解がある弁護士に依頼することです。

先ほど解説したように、窃盗症の場合は診断を受けさせたり治療方針を示したりするなど、通常とは異なる弁護活動が必要となります。
しかし、弁護士が必ずしも精神疾患への理解に長けているとはいえず、窃盗症への理解度合いは弁護士によってまちまちです。

窃盗症への理解があり、窃盗症の者の弁護活動経験が豊富な弁護士に依頼することで、状況に応じた適切な弁護活動を受けやすくなります。

まとめ

窃盗症の場合に窃盗容疑で逮捕されたら無罪となるのか、窃盗容疑で逮捕された場合の流れ、窃盗症の事件で弁護士が行う主な弁護活動などについて解説しました。

窃盗症であることだけを理由として、窃盗行為が無罪となる可能性はほとんどありません。
むしろ、窃盗症である場合は再犯のリスクが高く、再犯時には刑罰が重くなりやすいことに注意が必要です。

窃盗容疑で逮捕された者が窃盗症である場合、窃盗症であるとの診断を受けたうえで適切な治療を受けるなどの再発防止策を示すことで、刑の軽減を図れる可能性があります。
重度の窃盗症であり責任能力を欠いていると判断されることで、刑が軽減されることもあります。

また、窃盗症に限ったことではありませんが、被害者に被害弁償を行い、示談交渉をまとめることも、不起訴処分の獲得や刑の軽減には有用です。
適切な弁護を受け不起訴処分や刑の軽減を目指すには、窃盗症に理解のある弁護士へ早期に依頼することが重要です。

Authense法律事務所では刑事事件を専門的に取り扱うチームを設けており、窃盗症の者への弁護活動についても多くの実績があります。
窃盗症の者が窃盗容疑で逮捕されてお困りの際は、Authense法律事務所までできるだけ早期にご相談ください。
不起訴処分や刑の軽減を目指し、状況に応じた適切な弁護活動を行います。

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