リーガルエッセイ
公開 2022.12.26

Xmasに起きた小さな奇跡

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、刑事分野の責任者として指導にあたる。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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Xmasに起きた小さな奇跡について

リーガルな要素がゼロな話なのですが、私自身、日常的に、仕事なのかプライベートなのかとか、リーガルなトラブルなのか否かとか、そのような境界を設けずに生きているし、そんな私にとって、今年起きた出来事の中でもっともインパクトの大きなことのひとつになったので、この場でもお話ししたいなと思います。

私は、ふだん「奇跡」などという言葉を信じてもいないし、たぶんそんな言葉を使うこともありません。
でも、昨日のXmasには、奇跡というものの存在を信じざるを得ない気持ちになったのでそのお話を。

もう1年近く前になりますが、中学生になる娘が、それはそれは大事にしていたココアという小さな犬のぬいぐるみを外出先に連れて行き、なくしてしまったのです。
警察に届け出ましたし、落としたと思われるお店を何度も捜索しましたし、お店にも落とし物の届け出もしましたし、ありとあらゆる手を尽くしたつもりでしたが、今日に至るまで見つかっていません。
娘にとって、本当に大事な存在でしたので、この1年、娘は、ことあるごとに、ココアのことを思い出しては泣き暮らしていました。
そして、数日前、娘が何か紙に書いていると思ったら、おそらくサンタさん宛てに「どうかココアを私に返してください。お願いします」というお手紙を書き、自分のお部屋の窓のそばに置いていたのです。

娘は、1年前のXmasにサンタさんの正体を知りました。
にもかかわらず、そんな奇跡を願う娘の気持ちを思うと、私は胸が痛くなりました。
でも、私に何ができるのかわかりませんでした。
なすすべもなくXmas当日を迎えてしまいました。
ココアが帰ってきていないことを知り、娘がどんなにか絶望するかと思うとそれが悲しくて、今年は悲しいXmasになりそうだなと思いながらXmasの朝を迎えたのです。

25日の朝「やっぱりココアは帰ってこなかったね。サンタさんへのお手紙、捨てちゃっておいて」と娘が悲しそうに言いました。
少しでも元気が出るように、いつもより少しだけがんばって朝ご飯を作りました。
朝ご飯を食べ、少ししたころ、我が家へ宅急便が届きました。
私のおばからでした。
おばは、シングルマザーをしている私を何かと気にかけてくれ、おいしいお菓子を見つけると送ってくれたりするのです。
Xmasだからお菓子を送ってくれたのかなと思いながら箱を開けたら、娘あてのプレゼントが出てきました。
開けると、それはぬいぐるみでした。
娘と思わず目を見合わせました。
プレゼントは、小さなくまのぬいぐるみだったのです。
でも、抱っこした時に上から見たぬいぐるみの表情がまさにココアそのものだったからです。

おばは、私たちと離れて暮らしており、頻繁に連絡を取り合う関係でもないので、ココアの存在も、ココアをなくしてしまった悲しい出来事も、その後娘がココアを思い泣き暮らしていたことも、Xmasにココアが帰ってくることを祈っていたことも何も知りませんでした。
私は急いでおばに電話しました。
すると、おばは、近所のお店に立ち寄ったとき、このぬいぐるみが目につき、吸い寄せられるように手に取ったものの、一度は手を放し帰宅したこと、でも、その後も気になってまたその店に行き、ぬいぐるみを手に取ったこと、中学生である私の娘にあげるプレゼントとしては幼いのではないかと悩んだものの、どうしてもあげたい気持ちになり、Xmasに間に合うように送ってくれたことを話してくれました。

私と娘は、その話を聞いて、二人で声をあげて泣いてしまいました。
なぜかというと、つい先日、私たちは、ある1本の映画を観たのですが、その映画とこの状況が重なってしまったからでした。
観たのは、飼い犬が、その寿命が尽きた後も、姿を次々に変えながら、飼い主の元に現れ、飼い主の幸せを見守り続けるというもの。
私たちには、ココアが、私のおばの手を借りて、娘のために、このくまのぬいぐるみに姿を変え、Xmasの奇跡を願う娘のもとに来てくれたように思えたのです。

その後、私と娘は、そのプレゼントされたくまのぬいぐるみを連れて、近所のスーパーに買い物に出ました。
歩いていたところ、突然、見知らぬ女性が近づいてきて、娘の抱っこするくまのぬいぐるみを見て、「あら?犬のぬいぐるみに見えたわよ」とつぶやき、にこっと笑ったのです。
プレゼントされたのはくまのぬいぐるみでしたが、なくしたココアは犬のぬいぐるみでした。
娘は、この見知らぬ女性は、もしかしたら、娘に、なくしたココアがくまのぬいぐるみに姿を変えていることを気づかせてくれるためにそんなことを言いにきたのではないかと感じたそうです。
非現実的な話には全く興味のない私ですが、私も、同じように感じてしまいました。

私は、起きている事象を理解するときに、奇跡だとか、そういうよくわからない検証不可能なものを持ち出すことがあまり好きではありません。
でも、おばがプレゼントしてくれたぬいぐるみは、間違いなく、娘が大事にしていたココアが、毎日ココアを思って嘆き悲しむ娘を心配して、姿を変えて守りに来てくれた子なんだと確信しているし、娘の思いが、Xmasにそんな小さな奇跡を起こしたのだと思っています。
そんな奇跡に、心から感謝しています。
そして、もしかしたら、強い思いが、なかなか説明できない形で現実を動かすことがあるのかもしれないなと、本当に本当に少しだけですが、今はそう思います。

今回のことから、仕事をする上での教訓などをむりやりひねりだそうなどとも思っていません。
でも、私は、自分の体験から確かだと思えることだけを信じて日々生きているため、私自身、本当に限られた体験をもとに目の前の事象をジャッジしてしまう傾向があると感じます。
今回のことは、そんな私の視界を少しだけ広くしてくれ、また、自分が信じるものの幅を少しだけ広げてくれたような気がしているし、それによって、気持ちが豊かになれたような気がしています。

今年は、なかなかリーガルエッセイの更新ができない日々が続きました。
来年は、また少しずつ、書いていきたいなと思います。
よいお年をお迎えください。

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