誹謗中傷は法的に問題のある行為であり、逮捕されたり損害賠償請求をされたりする可能性があることは、認知されつつあるでしょう。
では、誹謗中傷をする意図ではなく批判をする意図であれば、法的に問題となることはないのでしょうか?
実は、主観として批判であったとしても、内容によっては刑事罰の対象となったり、損害賠償請求の対象となったりする可能性は否定できません。
今回は、「誹謗中傷」と「批判」の違いや、これらに対してとり得る法的措置の内容などについて弁護士がくわしく解説します。
目次
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「誹謗中傷」と「批判」の違い
「誹謗中傷」と「批判」とは、どのように異なるのでしょうか。
はじめに、それぞれの意味を見ていきましょう。
誹謗中傷とは
「誹謗中傷」とは、根拠のない悪口を言って相手を傷つけることです。
一般的なイメージと、さほど違いはないでしょう。
批判とは
「批判」とは、次のことを指します。
- 物事の真偽や善悪を批評し判定すること。ひばん
- 人物・行為・判断・学説・作品などの価値・能力・正当性・妥当性などを評価すること。否定的内容のものをいう場合が多い。哲学では、特に認識能力の吟味を意味することがある
批判というと、よくない点を指摘するというイメージが強いかもしれません。
しかし、本来はこのように、よい悪いに関わらず評価したり判定したりすることを批判といいます。
誹謗中傷ではなく「批判」なら法的責任は問われない?
書き込みの意図が「誹謗中傷」ではなく「批判」であれば、法的責任は追及されないのでしょうか?
結論をお伝えすると、批判であるからといって、必ずしも法的責任に問われないわけではありません。
そもそも、「誹謗中傷罪」などといった罪名が存在するわけではなく、法的措置が可能かどうかは、書き込みの内容や状況などから個別で評価されます。
また、ある書き込みが誹謗中傷であるのか批判であるのかの線引きは容易ではなく、仮にこの区別が必要なのであれば、書き込んだ人の主観に拠らざるを得ないでしょう。
そのため、書き込みをした人の主観が誹謗中傷であっても批判であっても、その内容や態様が次で紹介する罪などに該当するのであれば、法的措置の対象となります。
誹謗中傷や批判に問われる可能性のある法的措置
誹謗中傷や過度な批判は、どのような法的措置の対象となるのでしょうか?
主なものは次のとおりです。
刑事上の責任
法的措置の1つ目は、刑事上の責任追及です。
刑事上の責任を平たくいえば、前科が付いたり、罰金や懲役など刑事罰の対象となったりすることを指します。
誹謗中傷や批判が刑法上の罪に該当する場合には、相手の身元を特定したうえで、警察に対して刑事告訴を行います。
刑事告訴とは、犯罪行為があったことを被害者が警察などに申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示です。
告訴が受理されれば、警察で捜査が行われ、場合によっては逮捕されます。
その後、検察に事件が送致され、起訴か不起訴かが決まります。
起訴されると刑事裁判が開始され、そこで有罪か無罪か、有罪の場合には刑罰の内容と執行猶予の有無などが決定されるという流れです。
ただし、先ほども解説したように、「誹謗中傷罪」などの罪名があるわけではなく、誹謗中傷イコール犯罪行為というわけではありません。
誹謗中傷や過度な批判が該当する可能性のある主な罪には、次のものなどが存在します。
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 脅迫罪
- 信用毀損罪・偽計業務妨害罪
名誉毀損罪
名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」が、「その事実の有無にかかわらず」該当する罪です(刑法230条)。
「公然と」が要件とされているため、1対1の個室で行われた発言や、他者が見ることのない個別のメッセージなどでなされた言動は、この罪には該当しません。
また、「事実を摘示」したことが成立要件となっており、抽象的な批判や悪口は名誉毀損罪の対象外です。
ただし、「その事実の有無にかかわらず」とされているため、事実無根の内容であっても名誉毀損罪は成立し得ます。
さらに、「人の名誉を毀損」したことが必要です。
そのため、言動の対象者が主観的に傷付いたとしても、社会的評価が低下したと判断されなければ、名誉毀損罪は成立しません。
名誉毀損罪を犯した者は、次のいずれかの刑罰に処されます。
- 3年以下の懲役
- 禁錮
- 50万円以下の罰金
なお、名誉毀損罪には、「違法性阻却事由」が存在します。
違法性阻却事由とは、これに該当したら、罪に問えないという要件のことです。
問題となっている言動が次の要件をすべて満たす場合には、名誉毀損罪で相手を罰することはできません(同230条の2)。
- 公共の利害に関する事実に係るものであること
- その目的が専ら公益を図ることにあったと認められること
- 事実の真否を判断し、真実であることの証明があったこと
代表的なものとしては、政治家が汚職をしたとの報道などでしょう。
この違法性阻却事由が定められていなかったとすると、新聞や雑誌などの記事の多くが名誉毀損罪に該当してしまいます。
侮辱罪
侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱」した場合に該当する罪です(同231条)。
名誉毀損罪と似ていますが、事実の摘示は不要とされており、抽象的な誹謗中傷であっても該当する可能性があります。
侮辱罪を犯した者は、次のいずれかの刑罰に処されます。
- 1年以下の懲役
- 禁錮
- 30万円以下の罰金
- 拘留
- 科料
なお、侮辱罪の刑罰は、令和4年(2022年)7月6日まで「拘留または科料」のみとされていました。
しかし、SNS上で誹謗中傷をされたプロレスラーの女性が自ら命を絶った事件を受け、刑罰が軽すぎるとの批判が生じたことから、厳罰化に至っています。
脅迫罪
脅迫罪とは、相手や親族の「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」した場合に該当する罪です(同222条)。
脅迫罪を犯した者は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
こちらは、名誉毀損罪や侮辱罪とは異なり、「公然と」行うことは要件とされていません。
そのため、個別のメッセージなど他者の目に触れない場での言動であっても、対象となる可能性があります。
信用毀損罪・偽計業務妨害罪
信用毀損罪や偽計業務妨害罪とは、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害」した場合に該当する罪です(同233条)。
たとえば、嘘の口コミを書くなどしてお店や会社の評判を下げたり業務を妨害したりした場合には、これに該当する可能性が高いでしょう。
また、コロナ禍においては、「自分はコロナだ」などと嘘をつき出向いた先の施設に消毒の負担を負わせ、偽計業務妨害罪などで逮捕されるケースが頻発したことも記憶に新しいかもしれません。
信用毀損罪や偽計業務妨害罪を犯した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
民事上の責任
法的措置の2つ目は、民事上の責任追及としての損害賠償請求です。
損害賠償請求とは、相手の行為によって被った損害を、金銭で賠償させる請求を指します。
刑事上の責任追及とは異なり、損害賠償請求には警察や検察は関与しません。
また、損害賠償請求が認められても相手に前科が付くわけでもありませんので、混同しないよう注意しましょう。
誹謗中傷や過度な批判に対して損害賠償請求をするためには、刑事告訴をする場合と同様に、まずは発信者情報開示請求などを行って相手の身元を特定しなければなりません。
その後、判明した相手に対して、損害賠償請求を行います。
しかし、損害賠償請求をしたところで、相手が請求を無視するなどして任意に支払わない場合もあるでしょう。
また、相手から減額を請求され、金額の交渉がまとまらない場合もあります。
このような場合には、裁判上での損害賠償請求へと移行します。
裁判へと移行した場合には、裁判所が損害賠償請求の可否や金額を決定し、相手はここで決められた金額を支払わなければなりません。
誹謗中傷や批判に関するよくある誤解
誹謗中傷や批判には、誤解が少なくありません。
よくある誤解としては、次のものなどが挙げられます。
発信者が匿名なら法的責任は追及できない
インターネット上の誹謗中傷や過度な批判の多くは、匿名で行われています。
匿名で誹謗中傷などをしている人は、「匿名である以上は法的責任を追及されるはずがない」などと考えているのかもしれません。
しかし、匿名であっても法律上問題のある行為をすれば、発信者情報開示請求などによって身元を特定することは可能です。
もちろん、匿名であることを理由に、法的責任が問われないなどということもありません。
お店や会社の悪口なら法的責任は追及できない
個人への誹謗中傷ではなく、お店や会社の悪口であれば法的措置を追及できないと考えている人もいるでしょう。
しかし、これは誤解です。
もちろん、常識的な範囲での口コミであれば、法的責任を問われることはないでしょう。
一方で、嘘の口コミでお店や会社の信用を毀損した場合などには、刑罰の対象となったり、損害賠償請求をされたりする可能性があります。
実際に、「この店はコロナでやっていない」などと嘘をついて飲食店の信用を傷つけたとして、19歳の少年が逮捕された事例も存在します。※1
これはインターネット上の事例ではありませんが、インターネット上でこのような嘘の口コミを書き込んだ場合にも、同様の罪に問われる可能性があるでしょう。
有名人は「有名税」があるから批判や誹謗中傷をしてもよい
SNS上などで、「有名税」という言葉を目にすることがあります。
これは、「有名人であれば、多少の誹謗中傷などをされても仕方がない」というニュアンスで使用されることが多いようです。
しかし、有名税などという制度は存在せず、法的根拠はありません。
誹謗中傷をした相手が有名人であったとしても、そのことだけを理由に罪が減免されたり損害賠償請求が免除されたりすることはないので、誤解のないよう注意しましょう。
むしろ、有名人であれば名誉毀損などによる影響が大きくなる傾向にあるため、損害賠償請求額が高額となる可能性さえあります。
誹謗中傷や行き過ぎた批判の被害に遭ったら
誹謗中傷や、行き過ぎた批判の被害に遭ったら、どのように対処すればよいのでしょうか?
基本の対処方法は次のとおりです。
証拠を残す
インターネット上で誹謗中傷や行き過ぎた批判の被害に遭ったら、まずは証拠を残しましょう。
証拠がなければ、発信者情報開示請求などが難しくなってしまうためです。
証拠を残す方法としては、たとえば次の内容がわかるスクリーンショットを撮影することなどが考えられます。
- 書き込みの内容
- 書き込みの日時
- 書き込みのURL
- SNSなどの場合には、相手のユーザー名やアカウント名、相手のプロフィールページ
なお、スクリーンショットを撮影する際には、画像ではなくPDFで保存することをおすすめします。
画像でのスクリーンショットの場合、URLなどが不完全となる可能性が高いためです。
たとえば、iPhone(iOS16)であれば、次の方法でPDFでのスクリーンショットが撮影できます。※2
- 通常どおりスクリーンショットを撮影する
- 左下隅にあるスクリーンショットのサムネイルをタップしてから、「フルページ」をタップする
- 「完了」をタップして、「PDFを“ファイル”に保存」を選択して保存場所を選択してから、「保存」をタップする
できるだけ早く弁護士に相談する
書き込みの証拠を残したら、できるだけすぐに誹謗中傷問題に強い弁護士へ相談しましょう。
誹謗中傷への法的措置は、時間との勝負であるといっても過言ではありません。
そのため、できれば当日か翌日などには相談ができるとよいといえます。
なお、書き込みの内容によっては、すぐに削除してほしいと考える場合もあるでしょう。
しかし、可能であれば、弁護士への相談までは削除請求をしないことをおすすめします。
なぜなら、スクリーンショットの撮影に漏れや不備があった場合には追加での撮影が必要となるものの、すでに投稿が削除されていれば、追加撮影が困難となるためです。
まとめ
誹謗中傷と批判に、法律上、明確な線引きがあるわけではありません。
いずれであっても、名誉毀損罪などそれぞれの罪の成立要件を満たすのであれば、刑事罰の対象となる可能性があります。
また、書き込みによって損害が生じた場合には、損害賠償請求の対象となる場合もあるでしょう。
「批判ともとれる内容だから、法的措置は難しいかもしれない」などと自己判断で諦めず、まずは弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所では、誹謗中傷などへの法的トラブル解決に力を入れています。
誹謗中傷や行き過ぎた批判でお困りの際には、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。
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