侮辱罪が厳罰化され、令和4年7月7日からすでに施行されています。
これは、ときに人の命を奪うことさえある侮辱に対する刑罰が軽すぎるとの見方が強まったためです。
では、厳罰化により、侮辱罪の法定刑はどのように引き上げられたのでしょうか?
今回は、侮辱罪の厳罰化について弁護士がくわしく解説します。
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侮辱罪とは
侮辱罪(231条)とは、どのような場合に該当する罪なのでしょうか?
はじめに、侮辱罪の基本について解説していきましょう。
侮辱罪の定義
侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」が処される罪です。
これを分解すると、次の2点を満たす場合に侮辱罪が成立します。
「公然と」であること
1つ目の要件は、「公然と」行われたものであることです。
たとえば、「気持ち悪いから消えてほしい」や「目障りだから死ねばいいのに」などという言動などが、これに該当する可能性があります。
一方、たとえば他に人のいない会議室内での言動やTwitterのダイレクトメールでの言動は「公然と」の要件を満たさないため、原則として侮辱罪は成立しません。
人を侮辱したこと
2つ目の要件は、「人を侮辱した」ことです。
たとえば、「気持ち悪いから消えてほしい」や「目障りだから死ねばいいのに」などという言動などが、これに該当する可能性が高いでしょう。
なお、侮辱罪が成立するかどうかは1つの言葉のみで判断されるわけではありません。
用いた表現のほか、頻度や侮辱に至った経緯など、さまざまな要素を総合的に加味して判断されます。
侮辱的な表現である以上、「〇〇という表現を使ったらアウトで、○○という表現ならセーフ」など、表現のみで一律の線引きがされるわけではないということです。
侮辱罪と名誉棄損罪との違い
侮辱罪と似た刑罰に、名誉毀損罪(230条)が存在します。
名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」が処される罪です。
こちらも「公然と」行われたことが要件とされていますので、他者のいない会議室内での発言やTwitterのダイレクトメールなどでの発言は原則該当しません。
侮辱罪と名誉毀損罪との違いは、「事実の摘示」が必要とされるかどうかという点です。
事実摘示による名誉毀損とは、たとえば「A氏は覚醒剤の常習犯だ」、「A氏は裏口入学だ」、「A氏は会社の上司と不倫三昧」などの表現で相手の社会的評価を下げる言動です。
なお、ここでいう「事実」とは、「真実」という意味ではありません。
そのため、A氏が実際には覚醒剤や裏口入学、不倫などをしていなかったとしても、これらの発言は名誉毀損となる可能性があります。
名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
侮辱罪が厳罰化された経緯
侮辱罪が厳罰化された経緯は、インターネット上での誹謗中傷が社会問題となっていたことです。
誹謗中傷は、インターネット上で誰もが気軽に発言できるようになる前から存在しました。
しかし、匿名での発信が容易なインターネットの登場により、誹謗中傷のハードルが非常に下がってしまったといえるでしょう。
中には単なる「憂さ晴らし」などのために他者を誹謗中傷する人さえ存在するほどです。
しかし、誹謗中傷を受ける側が生身の人間であることには変わりありません。
特に有名人などのもとには、非常に多数の心ない誹謗中傷が寄せられるケースもあります。
こうした中、2020年5月、テレビ番組に出演していた女子プロレスラーがTwitter上で誹謗中傷を受け、命を絶つ事件が発生してしまいました。
この事件では2名の男性が侮辱罪で略式手続で起訴されたものの、科された刑罰は9,000円の科料のみです。(参考:https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210916-OYT1T50321/)
これを受け、 侮辱罪の罰則が低すぎるとの指摘がなされ、厳罰化に至りました。
また、先ほど解説した名誉毀損罪に該当する場合と法定刑に差がありすぎたことも、厳罰化に至った理由の一つです。
侮辱罪の厳罰化でされた3つの改正とは
侮辱罪の厳罰化では、具体的にどのような改正がなされたのでしょうか?
それぞれ解説していきましょう。※1
侮辱罪の法定刑が引き上げられた
もっとも重要な変更点は、侮辱罪の法定刑が引き上げられた点でしょう。
改正前と改正後の法定刑は、それぞれ次のとおりです。
- 改正前:拘留または科料
- 改正後:1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
なお、拘留とは1日以上30日未満刑事施設に拘置する刑であり(刑法16条)、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭を支払う刑です(刑法17条)。
従来は、たとえ侮辱罪に問われても、これら以上の刑罰を科されることはありませんでした。
侮辱罪の法定刑は、従来、刑法の中でもっとも軽いものだったのです。
これが軽すぎると指摘され、名誉毀損罪に準ずる内容で法定刑が引き上げられています。
これにより、侮辱行為への一定の抑止効果は期待できることでしょう。
教唆犯や幇助犯が処罰対象となった
侮辱行為を教唆したり幇助したりした人がいたとしても、従来はこれらの人を罪に問うことはできませんでした。
なぜなら、刑法において「拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない」と規定されており(64条)、従来の侮辱罪はこれに該当していたためです。
しかし、改正により侮辱罪の法定刑に新たに懲役や禁錮、罰金が加わったことでこの制限規定から外れ、教唆犯や幇助犯を罪に問うことが可能となりました。
公訴時効期間が伸長された
公訴時効期間とは、犯罪行為が終わった時点から起算して一定の期間が経過すると、その後の起訴が許されなくなる制度です(刑事訴訟法250条)。
この公訴時効期間を過ぎてしまうと、もはや侮辱行為をした者を刑法上の罪に問うことはできなくなります。
この公訴時効期間はその罪の法定刑によって定められており、一部を抜粋すると次のとおりです。
- 拘留または科料に当たる罪:1年
- 長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金に当たる罪:3年
侮辱罪の法定刑は従来、前者に該当していたため、公訴時効期間は1年と非常に短期でした。
一方、改正後は後者に該当しますので、公訴時効期間が3年へと伸長されています。
ただし、プロバイダなどでのログの保存期間は、これとは別の問題です。
ログの保存期間はおおむね3か月から6か月程度といわれており、ログが消えてしまうと開示請求などの法的対応が困難となります。
そのため、誹謗中傷へはできるだけ早期に対応すべきである点は、従来と変わりありません。
侮辱罪の厳罰化はいつから施行?
侮辱罪の厳罰化の施行日は令和4年(2022年)7月7日であり、すでに施行されています。
これ以降に行われた侮辱に対しては、改正後の罰則などが適用されます。
過去の誹謗中傷も厳罰化の対象になる?
侮辱罪の法定刑が引き上げられたことで、過去の誹謗中傷も厳罰化の対象になるのでしょうか?
改正前の誹謗中傷は厳罰化の対象外
改正前に行われた誹謗中傷は、厳罰化の対象とはなりません。
改正前にされた誹謗中傷が侮辱罪に問われた場合には、従来の「拘留または科料」の法定刑が適用されることとなります。
なぜなら、刑法には「不遡及の原則」があり、法制定や法改正前の事実にまでさかのぼって法を適用することはできないためです。
改正前に確定した判決が変更されるわけではない
改正前に既に確定した判決が、今回の改正によって引き上げられるわけではありません。
つまり、たとえば侮辱罪の法定刑引き上げの契機となった事件で略式起訴された人物の法定刑は、すでに確定した科料9,000円のままであるということです。
法定刑が引き上げられたからといって、判決を変更するなどして懲役刑に処することなどはできません。
誹謗中傷に対応する法的手段
誹謗中傷への法的対応策は、侮辱罪として刑事告訴をすることのみではありません。
では、SNS上などで誹謗中傷を受けた場合、これに対応するための法的手段にはどのようなものがあるのでしょうか?
主な対応方法は次のとおりです。
刑事告訴する
1つ目の対応策は、侮辱罪や名誉毀損罪など、その侮辱行為が該当する罪で刑事告訴をすることです。
ただし、刑事告訴をしたからといって、すぐに警察が告訴を受理してくれるわけではないことは知っておきましょう。
また、匿名の相手に誹謗中傷をされた場合において、その相手を警察側が特定してくれるかどうかは事案や警察の対応次第です。
そのため、あらかじめ発信者情報の開示請求などを行い、相手が誰であるのかを特定したうえで刑事告訴をすることが推奨されます。
なお、発信者情報の開示請求とはSNS運営企業などやプロバイダに対して投稿や相手の情報を開示するよう請求することですが、任意に開示に応じてくれることは多くはありません。
そのため、裁判所の手続きを利用することが一般的となっています。
この開示請求を自分で行うことは容易ではありませんので、ご希望の場合には弁護士へご相談ください。
書き込みの削除請求をする
2つ目の対応策は、SNS運営企業などやインターネット掲示板の管理者などに対して、書き込みの削除請求をすることです。
ただし、削除請求は慎重に行わなければなりません。
なぜなら、書き込みが削除されれば証拠が一つ消えてしまうため、適切に証拠保全をしていないと、後の刑事告訴や損害賠償請求が困難となってしまうためです。
そのため、誹謗中傷に対して刑事告訴や損害賠償請求をしたいと考えているのであれば、適切な証拠保全を行ってから削除請求する方がよいでしょう。
損害賠償請求をする
3つ目の対応策は、誹謗中傷をした相手に対して損害賠償請求をすることです。
損害賠償請求は民事上の概念であり、刑事告訴とはまったく別の請求です。
つまり、仮に相手に対して損害賠償請求が認められたからといって、相手に前科がつくわけでもなければ、警察や検察が関与するわけでもありません。
また、ある誹謗中傷が犯罪に該当するかどうかと、それに対する損害賠償請求が認められるかどうかという判断基準は重なる部分が多いものの、まったく同じというわけではありません。
たとえば、社会的評価を低下させられたとは認められなくても、名誉感情を傷付けられた場合において、これに刑事罰に問うことは困難ですが、民事上の損害賠償請求は認められる可能性があります。
この判断には専門的な知識や経験が必要となりますので、まずは弁護士へご相談いただいたうえで、対応法を検討するとよいでしょう。
まとめ
侮辱罪が厳罰化されたことにより、今後多少の抑止効果は期待できることでしょう。
しかし、誹謗中傷の被害を減らすためには、これだけでは不十分です。今後は刑事罰の対象を内部的名誉などにまで広げていく対応が求められるのではないでしょうか。
もし誹謗中傷の被害に遭ってしまったら、Authense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所では、誹謗中傷に関する初回60分の無料相談を実施しております。
誹謗中傷への対応は、時間との勝負です。
そのため、できるだけ早期にご相談いただくことをおすすめします。
参考文献:
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