Authense社労士法人コラム
公開 2024.08.19

仕事中の喫煙(タバコ休憩)は給料泥棒なのか?労働時間と休憩の定義から、社労士が考えてみた。

「タバコ休憩は給与泥棒じゃないんですか?」

先日、筆者はそんな相談を受けました。

社員のタバコ休憩の回数が多く、1日に何回も行っているのに残業時間はきっちりつけるのは納得がいかないと。「非喫煙者はお昼休憩しかないのにずるい」と他の社員からの不平不満の声も出て困っているとのことでした。

タバコ休憩を頻繁にとっている人がいると、非喫煙者からすれば不満の対象になるのも無理はありません。このようなタバコをはじめとした休憩に関する社員同士の対立や不満は経営者にとっても「あるある」です。

そこで雇用の専門家である社労士の立場から、仕事中のタバコ休憩の扱いやタバコを吸う人と吸わない人が不満を抱かない対策について法的な視点から考えたいと思います。

そもそも「休憩」とはなにか?

労働基準法で定められている「休憩」は、労働者が働く時間の合間に自由に過ごすことができる時間のことです。

休憩と言っても「自由に過ごすことが出来ない時間」は、休憩ではなく労働時間になります。例えば、お昼休憩中に交代で電話当番をする場合や接客業でお客様が来るまでお店で待機しているような時間は休憩ではなく労働時間と判断されます。

労働基準法で定められている休憩時間は「労働時間に応じた休憩時間」「働く時間の間にとる」「一斉に与える」「使い方は自由」という4つのルールがあります。

労働時間に応じた休憩時間

労働時間に応じて下記の休憩時間を与える必要があります。

労働時間 休憩時間
6時間未満 休憩の必要なし
6時間を超え8時間未満 45分以上
8時間を超え 60分以上

休憩時間の上限は定められていないので、上記以上の休憩を与えても問題ありません。60分の休憩を45分と15分など分割して与えてもかまいません。

働く時間の間にとる

休憩時間は労働時間の始めや終わりにとることはできません。
「休憩なしで働いて早く帰りたい」と考える人もいるでしょう。ただ、休憩は労働時間の途中にとる必要があるため、休憩なしで働いて早く帰ることはできません。

一斉に与える

休憩時間は一斉にとらせなければいけません。
ただ、仕事の都合に合わせて自由な時間に休憩を取っている方もいると思います。一斉に休憩を与えないことを約束する労使協定を結べば労働者の自由な時間に休憩を取らせることができます。この場合でも「働く時間の間にとる」というルールは守る必要があります。

使い方は自由

休憩時間は労働者が自由に利用できる時間です。
食事をとったり、昼寝をしたり、タバコを吸ったり、自由に使う権利があり企業が休憩時間の使い方を指示することはできません。
タバコ休憩も通常の休憩時間の中で行うことは問題ありません。休憩は「使い方は自由」というルールがあるためです。

話がずれてるように感じたかもしれませんが、冒頭に書いた「タバコ休憩」は本来の休憩時間とは別に「仕事中に職場を抜け出してタバコを吸う」ことを指しており、従業員全員に一律に与えられる休憩ではないため不平不満のネタになってしまうのです。

喫煙(タバコ休憩)以外にも実はたくさんある勤務中の私的行為

タバコ休憩ばかりが目についてやり玉に挙げられがちですが、タバコ休憩以外にも業務時間中の仕事以外の行動、私的行為をしている従業員はたくさんいます。タバコ休憩と他の私的行為は何が違うのでしょうか?

例えば、仕事がひと段落した時などに自席で同僚と雑談したり、お菓子を食べたり、コーヒーを飲んでリラックスしたりすることはあるでしょう。

こういった行為は休憩時間とみなされません。仕事の指示があればすぐに戻って対応したり、電話がかかってきたら取らなくてはならないなど、いつでも仕事をすることができる状態だからです。

今ではほとんど見かけなくなりましたが、昔は自席でタバコを吸うことが許されていました。お茶やお菓子を食べながら仕事をするのと同じ感覚で、タバコを吸いながら仕事をしていたものです。自席でタバコを吸いながら仕事をするのは、お茶やお菓子を食べたりするのと同じ感覚で仕事時間とみなされていました。

では、トイレのために数分~数十分席を外すことはどうなのでしょうか?
トイレに行ってしまうとすぐに戻って対応するということは難しいこともありますよね。

トイレ休憩と他の私的行為は区別して考える必要があります。

トイレは生理現象ですので労働時間中にトイレに行くことは休憩時間にはならず、その回数を制限したり禁止するようなことは認められませんし、通常の回数の範囲内であれば問題が起こることはありません。

他の私的行為と違いタバコ休憩が目の敵にされてしまうのは、自席を離れて喫煙所に行くからです。またトイレ休憩と違い生理現象だからやむを得ないという理屈も通用しないため「仕事中に席を外してタバコ休憩に行くのはずるい」という不満につながってしまうのです。

結論、勤務中の喫煙は休憩時間?労働時間?

素材_悩んでいる人
前述したとおり、タバコ休憩をお昼休みなどの休憩時間に行うことは何も問題はありません。問題となるのは、本来の休憩時間とは別に仕事中に行われる「タバコ休憩」です。

では、休憩時間以外に喫煙所に行く行為は、労働時間にあたるのでしょうか?あるいは休憩時間になるのでしょうか?

そもそも「労働時間」とは、業務時間中に仕事に従事している時間の他に、仕事中ではないが業務の指示があればすぐに仕事ができる状態で待機している時間(手待ち時間)も含めて労働時間とされています。

手待ち時間とはどういう状態なのでしょうか?

例えば、お昼休みに電話番をするために席にいて電話が来たらすぐに出る必要がある状態や、飲食店のスタッフがお客様がいない時間帯にお店で待機している状態などは、仕事をしていなくても労働時間(手待ち時間)として扱います。

「タバコ休憩」についても喫煙所が近くにあり、すぐに業務に戻れる状態であれば労働時間として認められるケースが少なくありません。

一方で喫煙のために職場を離れ、戻るまでに相当の時間を必要とする場合は、休憩時間と判断される場合があります。

タバコを吸っている時間が労働時間になるかどうかは、法的に明確なルールがあるわけではありません。あくまでも慣例として常識の範囲内の回数や時間であれば、許容しているケースが多いようです。

タバコ休憩が不満として槍玉に上がりやすい理由は前述の通り生理現象でないことに加えて、昔と比べて喫煙者が激減して少数派になったこと、オフィスから離れるためタバコ休憩を取っていることが明確に分かること、仕事の余裕が無くなっているため不公平を感じやすくやったことなど、法的な話とは別に環境の変化が挙げられると思います。

会社としてタバコ休憩を禁止にすることはできる?

タバコ休憩が「労働時間」として扱われるなら、業務時間中の喫煙を禁止することは出来るのでしょうか?

会社で働く人には、業務時間中は会社の仕事に集中しなければならないという「職務専念義務」があります。

職務専念義務とは「労働者は業務時間中は、使用者の指揮命令下で職務に専念する義務」のことをいいます。簡単に言うと「仕事中は仕事に集中しなければならない」という義務です。

公務員の場合、国家公務員法等によって職務専念義務が定められていますが、民間企業は職務専念義務が明文化された法律はありません。

ただし、職務専念義務は労働契約を締結することで当然発生するものと考えられており、法律に明文化されていなくても、労働契約を締結すると職務専念義務も発生することになります。

この「職務専念義務」を根拠にして、業務時間中の喫煙を禁止することができると考えられるのです。

ただ、ずっと仕事し続けるというのは無理な話です。

実際、業務に支障がない範囲でストレッチをしたり、お茶を飲んだり、雑談したりといった仕事以外の行動は多くの職場である程度許容されています。すべての私的行為を禁止すると、かえって働きづらい職場になってしまいます。ですので「職務専念義務」は、実務上はゆとりを持って運用されているというのが実情です。

他の私的行為が許されているのに、タバコ休憩だけを全面禁止にするのは喫煙者にとっては働きづらい環境になってしまうので、非喫煙者との公平性を保ちながらどこまでをよしとするのか考えることが求められます。

喫煙の頻度があまりにも多い、一回あたりの時間が極端に長い等、明らかにモラルに欠けている人に対しては、会社として「職務専念義務」の観点から指導したり、タバコ休憩の回数や時間のルールを設けるなど対策も考えられます。

これまでタバコ休憩が慣習的に認められていた職場の場合は、労働者とのトラブルが発生する可能性があるので、ルールを作成する際は専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

また、会社として禁煙が絶対に必要だと考えるのであれば、「喫煙者は採用しない」というのも1つの手段です。

喫煙者をそもそも採用しない方針はあり?

募集の際に「喫煙者は採用しない」という条件をつけることは許されるのでしょうか?

前提として、企業には「採用の自由」があるため、採用条件は企業が自由に設定できるのが原則です。誰を採用するか(不採用にするか)は企業側の自由なのです。

ただし、何もかも自由ではなく「採用の自由」にも以下のような制限があります。

  • 年齢制限をすること(一定の場合を除く)
  • 性別を条件とすること
  • 本人に責任のない事柄や思想信条に関して情報を取得して判断要素にすること

今回の「タバコを吸うこと」は制限のどれにも当てはまらないため「喫煙者を採用しない」という条件は、ただちに違法にはなりません。

求人情報を見ていると応募資格として「〇〇の経験者」などと必須の条件が書いてあることがありますよね。この応募資格を「非喫煙者」にすることで、喫煙者は採用しませんというメッセージになります。

ただし、採用後に喫煙者であることが発覚したとしても、それをもって即クビにしたり、喫煙したからといって処分をすることは難しいので注意しましょう。

喫煙者を採用しない場合は、トラブルにならないためにも、採用面接時に喫煙を禁止する合理的な説明を行い、社内ルールを説明するなど応募者に会社の意図をきちんと理解してもらう必要があります。

喫煙者にも非喫煙者にも不公平感のない制度は?

素材_小槌
タバコ休憩について、不公平感のない制度を整えるには会社としてどのような対策を検討すべきなのでしょうか? タバコ休憩以外でも離席を認めても良いのですが、タバコ休憩への根本的な不満は「タバコを吸うこと」ではなく「社員間の労働時間に関する不公平」にありますので、以下のように明確かつ平等なルールを作る方法もあります。

制度の例1:通常の休憩時間とは別に非喫煙者にも「リフレッシュ休憩」を認める

非喫煙者にも喫煙者と同様の休憩を与えるという方法です。

諸説ありますが人間の集中力は約90分が限界だといわれています。長時間作業をしていると次第に効率が落ちてしまいます。業務時間中に適度な休憩時間があった方が、仕事がはかどり業務効率が上がることも期待できます。

社員の集中力を保ち効率を維持する目的で、例えば、午前と午後に15分ずつ「リフレッシュ休憩」を設けます。喫煙者も喫煙は「リフレッシュ休憩」中にしてもらい、それ以外の時間の喫煙は禁止してしまう、といった方法です。

制度の例2:喫煙者には休憩を分割して取得してもらう

1時間以上の休憩を与えることは難しいという場合は、休憩を分割して取得してもらう方法があります。
1時間のお昼休憩を午前中に10分、お昼時間に40分、午後に10分と分割取得してもらいます。タバコ休憩は分割した休憩時間にしてもらいます。

ただし、これは人により異なる対応で管理する側の手間も発生します。あまりに細かく休憩をとると仕事の効率を落としてしまったり、十分な休息が取れなくなってしまいますので、最低限の配慮を行うようにしましょう。

本来仕事の成果は、喫煙の有無やデスクにいる時間だけで決まるものではありません。
喫煙者に喫煙を禁止することや喫煙に対して罰則を設けるという考え方より、両者が共存できる仕組みを考えるのがポイントです。

まとめ

喫煙者と非喫煙者の間でたびたび論争となる、職場での「タバコ」に関する問題は、放置しておくと不平不満が大きくなり従業員のモチベーションにも影響します。

一方で、喫煙スペースが社員のコミュニケーションの場として機能し、社員同士のコミュニケーション円滑化に役⽴っている場合もあります。普段話すことがない他部門の社員と気楽に情報交換できたり、デスクでは出来ない会話をすることで人間関係が円滑になる場合もあるでしょう。

喫煙者にとっての大切な時間を守りつつ非喫煙者にも配慮する、双方にとって働きやすく公平な職場環境を構築すべきです。

監修者

代表
Authense 社会保険労務士法人

Authense社会保険労務士法人は、成長を目指す経営者様に寄り添い、従来のサービスの枠にとらわれない新しい形のサービスを提供いたします。 さらに弁護士や、行政書士、コンサルタント等他のプロフェッショナルとの連携によりAuthenseグループでのトータルサポート体制を整えており、信頼のおけるビジネスパートナーとして企業の更なる発展に貢献します。

お悩み・課題に合わせて最適なプランをご案内致します。お気軽にお問合せください。

CONTACT

案件のご相談・
ご予約のお客様

お悩み・課題に合わせて最適なプランをご案内致します。お気軽にお問合せください。