事業場で雇用する労働者が10人以上である場合、会社には就業規則の作成が義務付けられています。
初めて就業規則を作る場合には、厚生労働省が公開している「モデル就業規則」が参考になります。
しかし、このモデル就業規則はあくまでテンプレートであり、そのまま自社の就業規則に使ってしまうとトラブルの原因となる可能性があります。
今回は、就業規則を作成するときの注意点について、モデル就業規則の各章ごとに解説します。
【参考】厚生労働省のモデル就業規則はこちら
目次
第1章:総則
モデル就業規則の第2条では、就業範囲の適用範囲について定めています。
第2条第2項は以下のように規定されています。
第2条 2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
この条文のように「別に定める」という文言を用いる場合には注意が必要です。
「パートタイム労働者については別に定める」としたにもかかわらず、パートタイム用の別規程を作成していない場合、正社員用として作成したこの規定がパートタイムやアルバイトにも適用されてしまうためです。
このような適用除外の規定を設ける場合は、有期雇用者、パートタイム・アルバイトだけでなく、労働契約法第18条1項に基づいて無期雇用者に転換した者なども明記すべきです。
なお、就業規則を「正社員用」「パートタイム従業員用」などに分けると、各従業員にとっては自分に関わる規則だけを確認すればよいので分かりやすい点がメリットになります。
ただし、同一労働同一賃金の観点から、雇用形態の違いによる待遇差を設けた規定は、その待遇差を説明できない場合は、違法になる可能性があります。
就業規則は全雇用形態共通の1つにまとめて作成し、相違がある部分だけをそれぞれ分けて規定するという方法もあります。
第2章:採用、異動等
第5条(採用時の提出書類)
モデル就業規則の第5条では、採用時の提出書類について定めています。
第5条 労働者として採用された者は、採用された日から⚫︎⚫︎週間以内に次の書類を提出しなければならない。
① 住民票記載事項証明書
② 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
③ 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
④ その他会社が指定するもの
2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。
提出書類が列挙されていますが、これについては自社で実際に必要である提出書類を定めることが重要です。
また、身元保証書の提出を求めるのであれば、保証人の要件なども明記しましょう。
入社時の必要書類が期限までに提出できない場合の処置や、書類の記載事項に変更があった場合の対応も明記する必要があります。
第6条(試用期間)
モデル就業規則の第6条では、試用期間について定めています。
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から⚫︎⚫︎か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。
使用期間を短縮するパターンと、試用期間を設けないパターンが記載されていますが、これに加えて試用期間を延長するパターンも規定しておくのがよいでしょう。試用期間は延長規程を就業規則に定めておかないと延長ができないからです。
また、試用期間終了後に本採用拒否(解雇)する可能性を踏まえて、本採用を行なわない場合の条件なども明記しておきましょう。
第7条(労働条件の明示)
モデル就業規則の第7条では、労働条件の明示について定めています。
第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。
労働条件について、通知書を書面として交付する内容となっていますが、労働条件通知書や雇用契約書の電子交付が想定される場合はその旨も記載しておくとよいでしょう。
第9条(休職)
モデル就業規則の第9条では、休職について定めています。
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が⚫︎⚫︎か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき
年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき
必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。
「休職」という制度自体は労働基準法で義務付けられたものではないので、休職制度を削除することもできます。
ただし実務上、一定の休職期間を与えないまま解雇した場合には、裁判などで会社が不利になる可能性が高くなります。
会社のリスク管理という意味でも、休職の制度は就業規則に定めた方がよいでしょう。
休職期間について
就業規則に記載する休職期間は、自社の状況に合った長さにする必要があります。
モデル就業規則では、年単位での休職を認めるような書き方になっていますが、会社として実際に年単位の休職を許容できるかは慎重に検討しなければなりません。
中小企業など経営体力が十分でない企業であれば、休職期間は1ヵ月~3ヵ月程度としたうえで、勤続年数に応じて休職できる期間を延ばしたり、試用期間中の従業員には適用しないなどの設計とするのがよいでしょう。
長期欠勤要件について
モデル就業規則では、休職の要件となる長期の欠勤について、「業務外の傷病による欠勤が⚫︎⚫︎か月を超える」場合と規定しています。
このように規定すると、欠勤が連続している場合にのみ休職となるため、欠勤と出勤を繰り返しているケースは休職の要件に該当しなくなってしまいます。
長期欠勤要件は、断続的な欠勤を通算するように規定するとよいでしょう。
復職基準について
復職基準について、モデル就業規則では「休職事由が消滅したとき」と規定されています。
この記載だと、完全に傷病が治癒していなくても、主治医が「半日勤務での復職可能」の診断書を出すことで復職が可能となるケースがあり得ます。
復職の基準については、「所定労働日に所定労働時間勤務することができること」など、復職にあたっての最低限の基準を明示するとよいでしょう。
復職時に診断書の提出を求める内容を記載するとともに、診断書の発行費用は自己負担とする旨も定めましょう。
なお、就業規則に定めている場合、復職に際して主治医以外に産業医(または会社の指定する病院)への受診を義務付けることもできます。
第3章:服務規律
第11条(遵守事項)
モデル就業規則の第11条では、従業員が守らなければならない遵守事項について定めています。
一般的な内容が記載されているにとどまるため、自社に合った内容を検討し、従業員に必ず守ってもらいたい事項を定めましょう。
第12条~第15条
12条から15条のハラスメント規程についても、モデル就業規則では簡易的な内容となっています。
具体例を示すとともに、詳細に規定しましょう。
第18条(遅刻、早退、欠勤等)
第18条では、遅刻、早退、欠勤等について定めています。
第18条3項は、欠勤についてこのように規定しています。
第18条 3 傷病のため継続して⚫︎⚫︎日以上欠勤するときは、医師の診断書を提出しなければならない。
欠勤が何日以上続いたときに診断書を提出させるかは会社で決めることができます。
ただし、1日や2日の欠勤で診断書の提出を義務付けるとなると、実務運用上はかなり煩雑になります。
目安として4日程度以上を推奨します。
また、診断書の発行費用を自己負担とすることも明記しましょう。
第4章:労働時間、休憩及び休日
モデル就業規則の第20条では、休日について定めています。
第20条 休日は、次のとおりとする。
① 土曜日及び日曜日
② 国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
③ 年末年始(12月⚫︎⚫︎日~1月⚫︎⚫︎日)
④ 夏季休日(⚫︎月⚫︎⚫︎日~⚫︎月⚫︎⚫︎日)
⑤ その他会社が指定する日
2 業務の都合により会社が必要と認める場合は、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。
土日と祝日が休日である旨を規定していますが、労働基準法では「何曜日を休日にするか」や「祝日を休日にするか」は定めていいません。
そのため、実際にはこれらの休日は会社で独自に設定することができます。
何曜日を休日にしてもかまいませんし、週によって休日の曜日を変えたり、部門ごとに休日の曜日を変えたりすることも可能です。
そもそも年末年始休日や夏季休日を設定するか否かについても、会社が自由に決められます。
ただし、この「休日」の条で定める休日は、月平均所定労働時間(日数)に影響するため慎重に検討する必要があります。
年末年始休日や夏季休日は、「休日」ではなく「休暇」に規定することも検討しましょう。
月平均所定労働時間は残業代計算をする際に必要となります。
同じ残業時間でも、年間休日が多いと残業代が多くなり、年間休日が少ないと残業代が少なくなります。
就業規則で法定休日を定めるか?
就業規則において法定休日を特定していない場合、週において後に位置する休日が法定休日となります。
就業規則で法定休日を特定すると、特定した曜日が法定休日となり、それを上回る休日を定めている場合は法定外休日になります。
第5章:休暇等
第23条(年次有給休暇)
年次有給休暇について、モデル就業規則では法定通りの付与方法が記載されています。
年に1度の一斉付与など、異なる方法をとる場合は修正が必要です。
また、半休の取得を認める場合は、半休取得についても規定に入れる必要があります。
第24条(年次有給休暇の時間単位での付与)
年次有給休暇の時間単位での付与は義務ではありません。
導入する場合は、就業規則に規定し、労使協定を締結する必要があります。
時間単位での付与は有給休暇の管理が煩雑となり、企業負担も増えるため、管理体制ができている企業向きといえます。
特別休暇について
モデル就業規則の第5章には、「慶弔休暇」「病気休暇」など、さまざまな休暇が記載されています。
また、就業規則に「リフレッシュ休暇」「ボランティア休暇」などを定めている企業もあります。
しかし、これらの特別休暇は、労働基準法などで定められている法定休暇以上の、いわば上乗せの福利厚生的な休暇です。
「従業員が有給休暇をほとんど消化できており、さらに休暇制度を増やしたい」という意図でさまざまな休暇を定めるのであればよいのですが、有給休暇がほとんど消化できない中でそれ以外の休暇を増やしても、制度が形骸化したり、休暇を使う社員と遠慮して使わない社員の間で不公平感が生じたりしてしまう恐れがあります。
既に年5日以上の有給休暇の取得が義務付けられていることからも、まずは業務の効率化などを通じて、有給休暇を消化できるような労務管理体制を構築し、その次のステップとして会社独自の休暇制度を取り入れていくことが望ましいといえます。
「モデル就業規則やテンプレートに慶弔休暇が書いてあったから」「他社でリフレッシュ休暇をやっているから」という理由で、上乗せの休暇制度をむやみに導入するのは避けたほうがよいでしょう。
なお、特別休暇は有給でも無給でもかまいませんが、必ず有給か無給か、いずれかを明記しましょう。
第30条(慶弔休暇)
同一労働同一賃金の観点から、慶弔休暇については正社員とパート・アルバイト従業員との差を設けることが難しいため注意が必要です。
第6章:賃金
手当の設定に注意
モデル就業規則では「家族手当」「役付手当」「精勤手当」といった多くの手当が規定されていますが、手当を設けることは義務ではありません。
どういった手当を設けるか、また金額をいくらにするかは、会社ごとの判断によります。
一度設けた手当をなくすのは不利益変更になってしまうため、どういった手当を設けるかは慎重に判断すべきといえます。
第40条(割増賃金)
モデル就業規則の第40条では、割増賃金について、45時間~60時間の割増率が35%、年360時間を超えた時間の割増率が40%と定められています。
一方、労働基準法が定める割増賃金の割増率は25%以上となっています。
割増賃金率を25%を超える率とするのは努力義務であり、35%や40%といった割増率を定める義務はありません。
第45条(欠勤等の扱い)
欠勤、遅刻、早退について控除を行う場合は、計算方法などを定めておく必要があります。
基本給以外に手当(役職手当など)を控除の基礎に入れるか否かは、会社ごとに検討して設定します。
ただし、固定残業代を控除の計算基礎に入れる場合は、金額を控除した分残業代の支払いが不足していないか注意が必要です。
第50条(賞与)
賞与は必ず支給しなければならない賃金ではありません。支給の有無も含めて検討しましょう。
また、「査定期間に在籍していても賞与支給日に在籍していない従業員は対象外とする」といった規定とすることも可能です。
ただし、この場合は規定に明記が必要です。モデル就業規則には記載されていないので注意しましょう。
第7章:定年、退職及び解雇
モデル就業規則の第7章では、定年、退職及び解雇について規定しています。
こちらは正社員向けの内容となっており、無期転換した従業員の定年についての言及がありません。
無期転換した従業員を対象にする規定を作る場合は、無期転換後の定年についての定年を定めておく必要があります。
また、再雇用後の更新条件や期間なども定めておくとよいでしょう。
52条(退職)
第52条第1項では、退職について以下のように定めています。
第52条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。
①退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して⚫︎⚫︎日を経過したとき
②期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
③第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
④死亡したとき
これらに加えて、従業員が失踪した場合や、まったく連絡が取れなくなった場合なども記載しておくとよいでしょう。
第8章:退職金
モデル就業規則の第8章では退職金について規定していますが、退職金は会社の義務ではないので、規定しなくてもかまいません。
また、第54条第1項では懲戒解雇された従業員への不支給・減額を定めているのみであり、通常の解雇などが不支給の対象になっていません。
第54条 労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、第68条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。
懲戒解雇以外にも不支給や減額を適用したい場合は、追記が必要です。
第9章:無期労働契約の転換
同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えるときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換することができます。
モデル就業規則の第9章では、この無期転換について定めています。
無期労働契約への申込みは、申込みをしたかどうかの争いを防ぐため、書面の様式を整備し、書面で行うことをおすすめします。
第10章:安全衛生及び災害補償
モデル就業規則の第10章では、会社および労働者の遵守事項や、健康診断、ストレスチェック、安全衛生教育、災害補償などについて規定されています。
安全衛生及び災害補償に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項にあたるため、これらの定めをするのであれば必ず就業規則に記載しなければなりません。
第11章:職業訓練
モデル就業規則の第11章では、職業訓練について定めています。
「どこで教育訓練を行うか」については記載されていませんが、自己啓発のための訓練などをする場所として就業時間外に会社設備を利用する事を許可する場合などは、会社の管理監督外にあることや、労働時間にならないことを明記しておくとよいでしょう。
第12章:表彰及び制裁
モデル就業規則の第12章では、表彰、懲戒の種類、懲戒の事由について規定されています。
表彰及び制裁について、その種類及び程度に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項にあたるため、これらの定めをするのであれば必ず就業規則に記載しなければなりません。
第13章:公益通報者保護
モデル就業規則の第13章では、公益通報者の保護について規定されています。
常時使用する労働者の数が301人以上の事業者は、本法第11条の規定により、内部公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備し、その他の必要な措置をとることが義務付けられています(常時使用する労働者の数が300人以下の事業者に対しては努力義務)。
第14章:副業・兼業
モデル就業規則の第70条では、届出を行えば副業をすることができる内容となっています。
事前許可制とするのか、どのような条件において許可するのか、副業の内容を届け出る必要があるかなども明記しておくとよいでしょう。
まとめ
厚生労働省のモデル就業規則は、新たに就業規則を作成するうえで参考にしやすい便利なテンプレートといえます。
ただし、大企業から中小企業までさまざまな企業に対応した内容で作られているため、どういった内容を取捨選択するかは企業側に委ねられています。
モデル就業規則をそのまま流用し、必須ではない規定まで自社の就業規則に盛り込んでしまうと、成長過程の中小企業にとっては過剰な内容になってしまう可能性もあります。
就業規則を作成する際は、社労士や弁護士などの専門家にサポートを受けることをおすすめします。
専門家のサポートを受けることで、将来のトラブルの抑止につながる、自社に合った就業規則の作成が可能となります。
Authense社会保険労務士法人では弁護士と連携しつつ、労使トラブルを防ぐサポートを行っています。
就業規則の作成でお困りの企業様は、Authense社会保険労務士法人までご相談ください。
監修者
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