就業規則を変更した際は、管轄の労働基準監督署へ届出しなければなりません。
この就業規則の変更届は、どのような点に注意して作成すればよいのでしょうか?
また、就業規則の変更届には、どのような書類が必要となるのでしょうか?
今回は、就業規則の変更届について、社労士がくわしく解説します。
就業規則変更届とは
就業規則変更届とは、会社が就業規則を改訂した際に、労働基準監督署へ提出すべき書類です。
常時10人以上の労働者を雇用する使用者が就業規則を作成したら、事業所を管轄する労働基準監督署へ届け出なければなりません。
(労働者が10人未満の場合は、就業規則を作成しても届け出の義務はありません)
同様に、就業規則を改訂した際も、労働基準監督署への届け出が必要です。
このことは、労働基準法(以下、「労基法」といいます)の89条で、次のように定められています。
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
就業規則変更の届出に必要な書類
就業規則の変更届には、どのような書類が必要となるのでしょうか?
ここでは、就業規則の変更を届け出る際に必要となる書類をまとめて紹介します。
- 就業規則変更届
- 改訂後の就業規則のコピー
- 従業員代表者の意見書
- (郵送の場合)返送用封筒と送付状
就業規則変更届
1つ目は、就業規則変更届です。
就業規則変更届は、同じものを2部用意することをおすすめします。
なぜなら、2部提出することで、1部に受付印をもらい自社で保管することが可能となるためです。
受付印が押された就業規則の変更届は、助成金の申請などで必要となることがあるため、必ず控えを残しておきましょう。
控えを受け取っていない場合、控えが必要となった際に再度変更届の提出が必要となる可能性があります。
就業規則変更届の様式は、厚生労働省のホームページから入手できます。※1
就業規則変更届の記載のポイントは次のとおりです。
主な変更事項
就業規則変更届には、就業規則の主な変更事項を記載する欄があります。
改訂した条文が1つだけであるなど、変更内容がこの欄に書ききれる場合は、改正前と改正後の条文を対比させてこの欄に記載します。
一方、変更した箇所が多い場合は、この欄に書ききれないことが多いでしょう。
その際は、この欄には「全面改訂」などと記載したうえで、別紙で改定後の就業規則を添付したり、新旧対照表と呼ばれる改定項目だけをピックアップした表を添付するのが一般的です。
労働保険番号
「労働保険番号」とは、労働基準監督署から付与される事業場独自の番号です。
労働保険に加入している事業場には、労働保険番号が付されています。
事業所の労働保険番号は、次の書類などから確認できます。
- 労働保険の概算・確定保険料申告書
- 労災保険申請書
- 労働保険年度更新申告書
業種
「業種」欄には、その事業場の業種を記載します。
業種は、日本産業分類の中分類を記載することが一般的です。
「食料品製造業」や「宿泊業」、「総合工事業」などがその一例です。※2
労働者数
「労働者数」とは、就業規則の変更届の対象となっている事業場に常時使用されている従業員の数です。
この従業員の数には正社員だけではなく、パートやアルバイト従業員も含まれます。
改訂後の就業規則のコピー
先ほど解説したように、就業規則変更届の所定の欄に変更事項が書ききれない場合は、別紙として改定後の就業規則のコピーを添付します。
この場合は、就業規則のコピーを2部添付しましょう。
従業員代表者の意見書
就業規則の変更届には、従業員代表者による意見書を添付しなければなりません。
変更についての意見があればその意見を記載し、特に異議がない場合は「異議ありません」などと記載してもらいます。
この従業員代表者の意見書の様式も、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
先ほど紹介した就業規則変更届と同じWordファイルの2ページ目が、意見書の様式です。※1
ただし、日付が「平成」となっているため、ここは適宜「令和」へと変更して使用してください。
(郵送の場合)返送用封筒と送付状
就業規則変更届は管轄の労働基準監督署へ持ち込むこともできますが、郵送も可能です。
郵送で就業規則変更届を提出する場合は、控えの返送を受けるため、宛名を記載して切手を貼った返信用封筒を同封しましょう。
なお、送付書類の一覧を記載した送付状を付けるのが一般的です。
就業規則変更届の提出先
就業規則変更届は、どこに提出すればよいのでしょうか?
ここでは、原則と例外の提出先をそれぞれ解説します。
原則:事業所の所在地を管轄する労働基準監督署
就業規則変更届の提出先は、原則として、その就業規則が適用される事業所の所在地を管轄する労働基準監督署です。
本社一括届出の場合:本社所在地を管轄する労働基準監督署長
本社一括届出制度とは、一定の要件を満たすことで、本社と他の事業場(支社、営業所、店舗など)の就業規則変更届などを本社で一括して行える制度です。
本社一括届出制度を活用している場合、本社の所在地を管轄する労働基準監督署に一括して変更届を提出することができます。
ただし、本社一括届出をするには、一括して届け出る本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が同じ内容であることなど、一定の要件を満たさなければなりません。
また、変更届の場合には、変更前の就業規則も同じ内容であることが必要です。
就業規則の変更届の管轄や本社一括届出の手続きでお困りの際は、社会保険労務士(社労士)までご相談ください。
就業規則変更届の提出方法・流れ
就業規則変更届の提出は、どのような流れで行えばよいのでしょうか?
ここでは、就業規則を変更してから労働基準監督署へ提出するまでの一般的な流れについて解説します。
変更後の就業規則案を作成する
はじめに、変更後の就業規則の原案を作成します。
就業規則を変更するきっかけはさまざまですが、たとえば次の事情から変更することが考えられます。
- 法改正に対応するため
- 現行の就業規則が会社の現状に合っていないことに気付いたから
- 制度を変更したいから
厚生労働省のホームページにはモデル就業規則が掲載されており、参考にすることができます。※3
ただし、モデル就業規則はあくまでも「モデル」であり、この内容が自社に合っているとは限りません。
そのため、モデル就業規則を参考にするとしても、自社に即した内容となるよう修正を加える必要があります。
とはいえ、就業規則は法令の基準を下回らないよう注意して作成する必要があるなど、適切な修正をするには法令への理解が不可欠です。
また、従業員にとって不利益な内容へと変更しようとする際には、特別に注意を払わなければなりません。
そのため、変更後の就業規則の原案作成は、社労士や弁護士などのサポートを受けて行うことをおすすめします。
従業員代表者に意見を聴取する
変更後の就業規則の原案が作成できたら、従業員代表者から変更内容に関する意見を聴取します。
従業員代表者とは、それぞれ次の者を指します(同90条1項)。
- その事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合:その労働組合
- 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合:労働者の過半数を代表する者
この従業員代表者は会社が恣意的に指名することはできず、投票や挙手など民主的な方法での選出が必要です。
なぜなら、会社が自由に従業員代表者を指名できるのであれば、会社にとって都合のよい従業員(つまり、就業規則の改訂に異議を述べない可能性が高い従業員)を選ぶことができ、制度が形骸化してしまうためです。
なお、ここで求められているのはあくまでも従業員代表者の「意見を聴取すること」であり、反対意見が出たからといって就業規則の変更届出ができないわけではありません。
しかし、従業員側から強い反対意見が出ているにもかかわらず就業規則の変更を強行してしまうと、これに不満を持った従業員との間でトラブルが発生したり、退職者が急増するおそれがあります。
また、給与の減少や休日の減少など従業員にとって不利益となる変更を強行すれば、従業員から損害賠償請求がなされる可能性もあります。
そのため、反対意見が出ている場合や従業員にとって不利益な内容へと変更しようとする際は、社労士や弁護士などの専門家へあらかじめ相談したうえで、慎重に進めることをおすすめします。
必要書類を準備する
従業員代表者から就業規則変更に関する意見を聴取したら、届出に必要な書類を用意します。
就業規則変更届に必要な書類は、先ほど紹介したとおりです。
必要書類の準備ができたら、管轄の労働基準監督署へ届け出ましょう。
就業規則の届け出方法は、①郵送、②窓口への持ち込み、③電子申請の3種類があります。
複数の事業所がある場合は③の電子申請が非常に便利です。
電子申請は、企業で行うには電子証明書を取得するなどのハードルがあるのも実情ですので、社労士を活用いただくことをおすすめします。
繰り返しとなりますが、①の郵送と②の窓口への持ち込みの場合は、就業規則(変更)届、就業規則、意見書をそれぞれ2部提出し、受付印が押された控えを保存するようにしてください。
従業員に変更を周知する
就業規則を改訂したら、変更した旨と変更後の内容を従業員に周知しましょう。
就業規則を作成したり変更したりしたものの、従業員がその内容を知らなければ、無効と判断される可能性があります。
たとえば、就業規則の変更によって新たに従業員を解雇できる懲戒規定を設けたものの、就業規則が周知されておらず従業員が規定の内容を知らなければ、この規定に従って行った懲戒解雇が無効となる可能性があります。
そのため、就業規則を変更したら、従業員に周知することが必要です。
周知する方法としては、事業所の見やすい場所の壁面に掲示したり、閲覧対象者を社員に限定した社内サイト上に掲載し、事業所のパソコンを操作することで従業員が誰でも見られる状態にしたりするといったことが考えられます。
具体的な周知方法にお悩みの際は、社労士などの専門家へご相談ください。
就業規則変更届の提出に関するよくある疑問
最後に、就業規則変更届に関するよくある疑問とその回答を3つ紹介します。
変更点が多く様式内に記載しきれない場合はどうする?
就業規則変更届には、就業規則の変更内容を記載する欄があります。
しかし、変更内容が多岐にわたる場合は、この欄に書ききれないことが多いでしょう。
その場合は、就業規則変更届の「主な変更事項」欄には「全面改訂」などと書き、改定後の就業規則を別紙として提出したり、新旧対照表と呼ばれる改定項目だけをピックアップした表を添付するのが一般的です。
就業規則変更届に期限はある?
就業規則変更届について、「改定後〇日以内」など具体的な期限は設けられていません。
しかし、届出自体は義務であることから、就業規則を変更したら遅滞なく届け出ることが必要です。
就業規則を変更したにもかかわらず届出しないとどうなる?
就業規則を変更したにもかかわらず届出をしなかった場合には、30万円以下の罰金の対象となります(同120条)。
ただし、届出を忘れたからといって、変更の効果が生じないわけではありません。
労働基準監督署への変更届の提出を忘れていても、変更後の就業規則が従業員に周知されていれば、変更の効果は生じるものと解されています。
ただし、従業員にとって不利益となる内容の変更であり、変更の効力について労使間でトラブルが生じた場合は、就業規則の変更届をしていないとの事情が会社にとって不利に働く可能性があります。
後のトラブルを避けるため、就業規則を変更したらすみやかに変更届を行うとともに、変更内容を従業員に周知しましょう。
就業規則の変更にあたって手続き上の不備を避けるため、就業規則の変更をする際は、社労士などの専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
就業規則変更届についてくわしく解説しました。
就業規則を変更したら、原則としてその事業場を管轄する労働基準監督署へ、就業規則変更届を提出することが必要です。
就業規則変更届には、変更後の就業規則のほか、従業員代表者による意見書などを添付します。
就業規則変更届の控えは助成金の申請などで必要となることがあるため、2部用意したうえで、必ず控えを受け取っておきましょう。
Authense社会保険労務士法人では、各企業様の実情に沿った就業規則の作成や変更をサポートしています。
就業規則を作成したい場合や就業規則を変更したい場合、就業規則の変更届でお困りの際などには、Authense社会保険労務士法人までお気軽にご相談ください。
また、Authense社会保険労務士法人はAuthense法律事務所と同じAuthense Professional Groupに属しています。
そのため、労使間でトラブルが生じた際にはスムーズに弁護士へおつなぎし、ワンストップサービスをご提供することができます。
監修者
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