社会保険料は毎月支給する給与にかかる一方で、賞与(ボーナス)にもかかります。
そして、賞与にかかる社会保険料の計算方法は給与にかかるものとは異なるため、計算を誤らないよう注意しなければなりません。
では、賞与にかかる社会保険料は、どのように計算すればよいのでしょうか?
また、賞与にかかる社会保険料を計算する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
今回は、賞与にかかる社会保険料の計算方法や計算の注意点などについて、社労士がくわしく解説します。
社会保険料を計算する上での「賞与」とは
社会保険料の計算上、毎月支払われる報酬と賞与は区別されています。
一般的に、賞与は定期の給与とは別に支払われる給与等を指すことが多いでしょう。
ただし、厚生年金保険法では、賞与について次のように定義されています(厚生年金保険法3条1項4号)。
- 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるものをいう
また、健康保険法においても、これと同様に定義されています(健康保険法3条6項)。
この定義にあてはめると、たとえば2か月に1回「賞与」との名称の金銭を支給する会社があったとしても、これは社会保険上の「賞与」ではありません。
3か月を超えない頻度で支給される賞与(つまり、年4回以上の賞与)は社会保険上の賞与ではないため、「賞与」としてではなく、毎月支給する報酬などと併せて社会保険料を計算します。
以下、この記事で単に「賞与」という場合は、社会保険上の賞与(3か月を超える期間ごとに支給するもの)であるものとします。
社会保険料の計算に賞与が含まれることとなった背景
以前から賞与についても社会保険料がかかっていたものの、2003年3月までは1,000分の10と低率に設定されていました。
賞与について適用されていたこの低率の社会保険料を、「特別保険料」といいます。
しかし、社会保険料と毎月の報酬とで異なる社会保険料率を適用する場合、「毎月の給与を減らし、その分を多く賞与として支給する」などの「社会保険料逃れ」ができてしまいます。
このような事態を避けるため、現在は月額で支払う給与と賞与とで、同じ料率の社会保険料が課されることとなっています。
なお、毎月の報酬にかかる社会保険料は、原則として4月から6月の報酬月額の平均値をベースとした「標準報酬月額」を基礎として算定します。
一方で、賞与にかかる社会保険料は支給月ごとに「標準賞与額」を算定し、その回ごとに社会保険料を算定する仕組みとなっています。
賞与にかかる社会保険料の計算方法
賞与にかかる社会保険料は、どのように算定するのでしょうか?
ここでは、各社会保険料の算定方法について順を追って解説します。
- ステップ1:標準賞与額を算定する
- ステップ2:各社会保険料を計算する
ステップ1:標準賞与額を算定する
はじめに、「標準賞与額」を算定します。
原則として、この標準賞与額が社会保険料算定の基礎となります。
標準賞与額は、税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた額です。
ただし、標準賞与額には上限が設けられています。
上限額は、健康保険では毎年4月1日から3月31日までの累計額で573万円、厚生年金保険では月間150万円です。※1
たとえば、税引前の賞与総額が624,500円である場合、標準賞与額は624,000円となります。
ステップ2:各社会保険料を計算する
標準賞与額をベースに、各社会保険料を計算します。
計算方法は、社会保険料の種類ごとにそれぞれ次のとおりです。
健康保険料
健康保険料は、次の式で算定します。
- 健康保険料=標準賞与額×健康保険料率
健康保険料率は、加入している健康保険組合や事業所のある都道府県によって異なります。
協会けんぽに加入しており、東京都に事業所がある場合の健康保険料率は9.98%(令和6年4月納付分から)です。※1
なお、これは被保険者(従業員)負担分と事業主負担分の総額です。
実際は、これを折半した部分を被保険者に支払う賞与から天引きしたうえで、残りの半分を事業主が負担することとなります。
介護保険料
介護保険料は40歳から64歳までの被保険者からだけ徴収が必要です。
被保険者が40歳になった月からは、健康保険料に加え、介護保険料も徴収しなければなりません。
介護保険料の計算方法は、次のとおりです。
- 介護保険料=標準賞与額×介護保険料率
令和6年4月納付分からの介護保険料率は、全国一律1.6%です。※1
協会けんぽに加入しており事業所が東京都内にある場合は、健康保険と合わせて11.58%となります。
健康保険料と同じく、これは被保険者(従業員)負担分と事業主負担分の総額です。
これを折半した部分を被保険者に支払う賞与から天引きしたうえで、残りの半分を事業主が負担します。
厚生年金保険料
厚生年金保険料は、次の式で算定します。
- 厚生年金保険料=標準賞与額×厚生年金保険料率
厚生年金保険料率は、年金制度改正に伴い、2004年から段階的に引き上げられてきました。
この引き上げは2017年9月に終了し、その後は18.3%で固定されています。※2
なお、厚生年金保険料も、被保険者と事業主が折半で負担します。
雇用保険料
雇用保険料は、次の式で算定します。
- 雇用保険料=賞与支給額×雇用保険料率
雇用保険料は標準賞与額をベースに算定するのではなく、1,000円未満を切り捨てる前の賞与支給額をベースに算定します。
また、雇用保険料率は業種や年度によって変動します。
たとえば、雇用保険上の「一般の事業」である場合における令和6年度の雇用保険料率は、労働者負担分が1,000分の6、事業主負担分が1,000分の9.5です。
なお、ほかに「農林水産・清酒製造の事業」と「建設の事業」があり、いずれも「一般の事業」より保険料率が高く設定されています。
賞与の支給にあたって会社が行うべき手続き
従業員に賞与を支給するにあたって、会社はどのような手続きをすべきでしょうか?
ここでは、会社側で必要となる主な手続きを紹介します。
賞与明細書の発行
賞与を支給する際は、賞与明細書を作成して賞与を支給する従業員に交付しなければなりません。
賞与明細書には賞与の支給総額のほか、支給総額から控除する社会保険料などの項目や、項目ごとの控除金額などを明記します。
被保険者賞与支払届の提出
賞与を支給したら、「被保険者賞与支払届」を作成して提出しなければなりません。※3
この届出には次の2つの役割があります。
- 賞与に係る保険料額が決定される
- 被保険者が受給する年金額の計算の基礎となる
会社が日本年金機構に賞与の支払月を登録すると、その登録月の前月に会社に「被保険者賞与支払届」の様式が送付されます。
送付される用紙には被保険者の氏名と生年月日などが印字されているため、ここに標準賞与額などを記載して届け出ましょう。
提出先は、日本年金機構の事務センターか、管轄の年金事務所です。
届出期限は賞与支払日から5日以内であるため、手続きを失念しないようご注意ください。
賞与の社会保険料計算の注意点
賞与に係る社会保険料の計算では、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
最後に、賞与の社会保険料を計算する際の主な注意点を4つ解説します。
なお、大前提として、社会保険料の計算には「日割り」の概念がありません。
月内に被保険者としての資格の得喪があった場合、その月分の社会保険料は「かかる」か「かからないか」のいずれかとなります。
賞与支給月に退職する場合は社会保険料の対象とならない
ここまで解説してきたように、賞与にも原則として社会保険料がかかります。
ただし、社会保険料の対象となるのは、その月の末日時点で被保険者としての資格を有している場合のみです。
そのため、賞与の支給月の途中で退職した場合は、社会保険料の対象とはなりません。
たとえば、7月5日に賞与を支給したA氏が7月15日に退職した場合、この賞与に対して社会保険料はかからないということです。
ただし、社会保険の資格喪失日は退職日の翌日となるため、7月31日に退職した場合は7月分の社会保険料の徴収が必要です。
7月31日に退職した場合は資格喪失日が8月1日となり、7月末日時点では資格を喪失していないこととなるためです。
なお、7月15日に退職したA氏について自社で社会保険料を徴収する必要はないものの、A氏個人としてみれば、原則として何らかの形で社会保険料を納めなければなりません。
すぐに転職して7月末日時点で別の会社に在籍している場合はその会社で社会保険に加入する必要があり、7月末時点では企業に在籍していない場合は自身で国民健康保険料などを支払うべきということです。
賞与が年4回以上ある場合は給与と同等に取り扱う
冒頭で解説したように、社会保険上の「賞与」とは3か月を超える期間ごとに支給するものです。
3か月を超えない頻度で支給する賞与(つまり、年4回以上の賞与)は社会保険料上の「賞与」ではありません。
年4回以上賞与を支給する場合は毎月支払う報酬などと同等に扱われ、標準賞与額ではなく、標準報酬月額をベースに社会保険料を算定することとなります。
また、このような賞与は、標準報酬月額を算定するうえで計算の基礎として組み込まれます。
産前産後や育児休業中の突入月の賞与は社会保険料の対象とならない
産前産後休業や育児休業に入る月に賞与を支給し、月末時点まで休業が継続している場合、その賞与には社会保険料はかかりません。
たとえば、7月5日に賞与を支給したA氏が7月15日から産前産後休業に入り、7月末日時点で休業が継続しているのであれば、A氏に支給した賞与からは社会保険料を徴収する必要がないということです。
ただし、月内に産前産後休業や育児休業に入っても、月末時点で復職している場合は原則どおり賞与にも社会保険料がかかります。
たとえば、7月5日に賞与を支給してその後7月7日から育児休業に入ったものの、7月28日に復職した場合は7月5日支給分の賞与にも社会保険料がかかるということです。
なお、産前産後休業中や育児休業中は、社会保険料の支払いが免除されます。
これは、被保険者(従業員)負担分のみならず、事業主負担分も同様です。
雇用保険料は年度末に精算する
健康保険料や厚生年金保険料は、対象月の翌月末日(末日が休日である場合は、翌営業日)が納付期限です。
たとえば、7月5日に賞与を支給した場合、これにかかる保険料は8月末日までに納付します。
一方、雇用保険料は毎月納めるのではなく、6月1日から7月10日の間にその後の1年分の概算保険料を納める仕組みです。
そのため、概算での支払額と実際の給与や賞与の支給額によって計算した保険料とに差額が生じることがあります。
この過不足については、翌年度分の納付時期に精算することとなります。
健康保険料や厚生年金保険料と雇用保険料とでは納付時期などが異なるため、整理して理解おくとよいでしょう。
まとめ
賞与にかかる社会保険料の計算方法や賞与に社会保険料がかかることとなった経緯、計算時の注意点について解説しました。
年3回以内の賞与を支給する場合、毎月支給する給与とは別枠で社会保険料を算定します。
賞与の形で支給したからといって、社会保険料が免除されたり安くなったりするわけではないため、誤解のないようご注意ください。
また、賞与支給月に退職や産前産後休業への突入などがあった場合は、原則として賞与から社会保険料を差し引く必要がありません。
月内に被保険者としての権利の得喪があった場合は、社会保険料の徴収でミスをしないよう特に注意が必要です。
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