従業員が退職したなど一定の事由が生じた際は、社会保険の資格喪失届を提出しなければなりません。
社会保険の資格喪失届を出すべきなのは、どのようなときでしょうか?
また、社会保険の資格喪失届は、どのように書けばよいのでしょうか?
今回は、社会保険の資格喪失届の概要や書き方などについて、社会保険労務士がくわしく解説します。
目次
社会保険の資格喪失届とは
社会保険の資格喪失届とは、一定の事由が生じたことにより健康保険や厚生年金保険の資格基準を満たさなくなった場合に、雇用主である事業主が提出すべき書類です。
「社会保険の資格喪失届」と呼ばれることが多いものの、正式名称は「被保険者資格喪失届」です。
特に従業員が転職する場合、自社での手続きが遅れると、転勤先での保険証交付が遅れる事態となりかねません。
そのため、次で解説する事由が生じたら、できるだけ速やかに社会保険の資格喪失届を提出しましょう。
社会保険の資格喪失届が必要なケース
社会保険の資格喪失届が必要となるのは、どのような場合なのでしょうか?
ここでは、主なケースを4つ紹介します。
- 退職したとき
- 死亡したとき
- 一定の年齢に達したとき
- 加入要件から外れたとき
退職したとき
もっとも代表的な場面は、従業員が退職したときです。
退職の場合、退職日の翌日が社会保険の資格喪失日となります。
社会保険料には、日割りの概念はありません。
また、社会保険料は「資格喪失日(退職日の翌日)」の前月分までを納めることとされています。
そのため、たとえば7月19日に従業員が退職した場合、この従業員の資格喪失日は7月20日であり、6月分までの社会保険料を納めます。
一方、7月31日に従業員が退職した場合、この従業員の資格喪失日は翌日である8月1日となります。
資格喪失日が属する月(8月)の前月である、7月分までの社会保険料を納めなめればなりません。
死亡したとき
2つ目は、従業員が死亡したときです。
従業員が死亡した場合、死亡日の翌日が社会保険の資格喪失日となります。
一定の年齢に達したとき
3つ目は、従業員が一定の年齢に達したときです。
まず、従業員が70歳に到達した場合には、厚生年金保険の資格を喪失します。
資格喪失日は、70歳の誕生日の前日です。
そのため、この時点でいわゆる「70歳到達届」を提出しなければなりません。
70歳到達届とは、「厚生年金保険被保険者資格喪失届」と「厚生年金70歳以上被用者該当届」を兼ねた様式です。
また、従業員が75歳に到達した場合は、75歳の誕生日当日に健康保険の資格を喪失します。
そのため、この時点でも社会保険の資格喪失届を提出しなければなりません。
なお、75歳になって健康保険の加入者資格を喪った者は、その後後期高齢者医療制度の対象となります。
加入要件から外れたとき
4つ目は、従業員が社会保険の加入要件から外れたときです。
たとえば、これまで正社員であった者が、週の所定労働時間が20時間未満のパートとなった場合などがこれに該当します。
この場合、雇用契約変更の当日に社会保険の資格を喪失するため、社会保険の資格喪失届を提出しなければなりません。
なお、社会保険の加入要件を満たすのは、次のいずれかに該当する者です。
- 正社員
- 正社員の1週間の所定労働の4分の3以上働いているパート・アルバイト
- 次の要件をすべて満たすパート・アルバイト
- 従業員数101人(2024年10月1日以降は、51人)以上の企業で働いている
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 月額賃金が8.8万円以上である
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
社会保険の加入要件についてお困りの際は、社労士までご相談ください。
社会保険の資格喪失届の基本的な概要
社会保険の資格喪失届は、いつ、どこに提出すればよいのでしょうか?
ここでは、社会保険の資格喪失届の基本的な概要について解説します。
提出先
社会保険の資格喪失届の提出先は、日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所です。
提出は、窓口への持参や郵送のほか、電子申請も可能です。
提出期限
社会保険の資格喪失届の提出期限は、事由の発生から5日以内です。
期限が短いため、人事担当者などは提出が必要となる事由をあらかじめ理解したうえで、事由の発生後すみやかに届け出るように準備をしておきましょう。
社会保険の資格喪失届を提出しないと罰則はある?
社会保険の資格喪失届を期限内に提出しなかったからといって、罰則が適用されるわけではありません。
しかし、事業主が一向に資格喪失届を提出しなければ、退職した従業員の失業給付受給などが遅れる可能性や、転職先との二重加入状態となるおそれがあります。
このように、資格喪失届を遅延すると従業員に損害が生じる可能性があり、損害賠償請求などがなされて大きなトラブルとなる可能性があります。
そのため、社会保険の資格喪失届は事由発生から5日以内に必ず提出してください。
入退社が多いなど自社での管理が難しい場合などには、社外の社労士に対応を任せることも検討するとよいでしょう。
社会保険資格喪失届の項目と書き方
社会保険の資格喪失届は、どのように記載すればよいのでしょうか?
ここでは、資格喪失届の各項目と基本的な書き方のポイントを解説します。
提出者記入欄
提出者記入欄には、事業所の基本情報を記載します。
雇用主である企業の本店所在地や会社名、代表者氏名、電話番号などです。
また、「事業所整理記号」と「事業所番号」も記載しなければなりません。
日本年金機構の記載例にも「必ず記入してください」と書かれており、万が一記載が漏れていれば再提出画必要となったり、手続きに通常以上の時間を要したりする可能性があります。
事業所整理記号は、「11-アアア」のように、2桁の数字と4文字以内のカタカナから成る記号です。
また、「事業所番号」は「00123」のような、5桁の数字で指定されています。
事業所整理記号と事業所番号は、健康保険と厚生年金保険の適用事業所ごとに払い出されています。
これらは適用関係通知書や納入告知書などから確認できるため、資料を確認したうえで正確に記載してください。
被保険者整理番号
被保険者整理番号欄には、社会保険の資格を喪失した従業員の整理番号を記載します。
被保険者整理番号とは、その事業所で健康保険や厚生年金に加入している被保険者に対して割り振られる、個人ごとの番号です。
健康保険の被保険者整理番号と厚生年金の被保険者整理番号は共通のこともある一方で、異なる場合もあります。
社会保険の資格喪失届に記載すべき番号は「厚生年金」の被保険者整理番号であるため、誤らないようご注意ください。
厚生年金の被保険者整理番号は、被保険者資格取得届の控えなどから確認できます。
なお、基礎年金番号やマイナンバー、雇用保険の被保険者番号とも異なります。
氏名・生年月日
「氏名」欄には、社会保険の資格を喪失した従業員の氏名を記載します。
フリガナの記載を忘れないようご注意ください。
「生年月日」欄には、社会保険の資格を喪失した従業員の生年月日を記載します。
個人番号(基礎年金番号)
「個人番号(基礎年金番号)」欄には、社会保険資格を喪失した従業員の基礎年金番号を記載します。
マイナンバーなどとは異なるため、誤らないようご注意ください。
基礎年金番号は、年金手帳などから確認できます。
喪失年月日
「喪失年月日」には、社会保険の資格を喪失した日を記載します。
社会保険の資格喪失日は、それぞれ次のとおりです。※1
- 退職による資格喪失:退職日の翌日
- 雇用契約変更による資格喪失:雇用契約変更の当日
- 転勤による資格喪失:転勤の当日
- 死亡による資格喪失:死亡日の翌日
- 75歳到達による健康保険の資格喪失:誕生日の当日
- 障害認定による健康保険の資格喪失:認定日の当日
- 社会保障協定による健康保険の資格喪失:社会保障協定発効の当日、相手国法令の適用となった日の翌日
喪失年月日は必ずしも事由の発生日とイコールではないため、誤らないよう特にご注意ください。
喪失(不該当)原因
「喪失(不該当)原因」欄では、次の中から喪失(不該当)となった原因を選択して丸を付け、必要に応じて日付を記載します。
- 退職等(令和〇年〇月〇日退職等)
- 死亡(令和〇年〇月〇日死亡)
- 75歳到達(健康保険のみ喪失)
- 障害認定(健康保険のみ喪失)
- 社会保険協定
退職や死亡の場合、ここには退職日や死亡日をそのまま記載します。
つまり、退職や死亡の場合は、1つ上の「喪失年月日」とは日付が1日ズレる(事由発生日の翌日が資格喪失日)こととなります。
なお、「退職等」には、次の3つの事由が含まれるため、これらの事由による資格喪失の場合は「退職等」を選択してください。
- 退職
- 転勤
- 雇用契約変更
社会保険料資格喪失届の注意点
社会保険料の資格喪失届出は、特にどのような点に注意する必要があるのでしょうか?
最後に、資格喪失届の主な注意点を3つ解説します。
資格喪失日は退職日の翌日である
繰り返し解説しているとおり、退職の場合における社会保険の資格喪失日は退職の翌日です。
退職当日に資格を喪失するわけではありません。
特に月末退職の場合は、資格喪失日を誤ると、社会保険料の天引きや納付のミスにもつながります。
「資格喪失日」が8月31日であれば8月分の社会保険料の納付は不要である一方で、「退職日」が8月31日(資格喪失日は9月1日)の場合は8月分までの社会保険料納付が必要です。
一方で、雇用契約変更による場合は雇用契約変更の当日が資格喪失日となるなど、必ずしも「事由発生の翌日が資格喪失日」ということでもありません。
そのため、資格喪失の事由ごとに整理して資格喪失日を理解しておきましょう。
正副2部作成する
社会保険の資格喪失届を書面で提出する場合、正副の2部を作成することをおすすめします。
2部作成することで、受理印を押した控えを会社で保管できるためです。
窓口に持参する場合はその場で副本が返却される一方で、郵送の場合は返送してもらうこととなります。
そのため、郵送の場合は副本とともに、切手を貼った返信用封筒を同封するとよいでしょう。
保険証を回収しておく
社会保険の資格喪失届には、原則として、資格を喪失した従業員の健康保険証を添付しなければなりません。
また、高齢受給者証や健康保険特定疾病療養受給者証、健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証が交付されている場合は、これらの添付も必要です。
そのため、会社としては退職などの際にこれらを回収しておく必要があります。
とはいえ、退職前には有給休暇の消化期間に入ることも多いうえ、通院時などに使う保険証をあまり早期に回収することは避けるべきでしょう。
退職前に長期休暇に入る場合は、退職当日に保険証を持参してもらったり郵送してもらったりするなど対応の検討が必要です。
なお、本人が保険証を紛失したなどの事情で保険証を回収できなかった場合は、社会保険の資格喪失届の提出時に、併せて「健康保険被保険者証回収不能届」を提出することとなります。
まとめ
社会保険の資格喪失届の概要や書き方、提出すべき場面などについて解説しました。
従業員が退職したり死亡したりした場合は、原則として社会保険の被保険者資格を喪失します。
そのため、資格喪失事由の発生から5日以内に、雇用主であった企業が「社会保険の資格喪失届」を日本年金機構へ提出しなければなりません。
提出を送れても罰則はないものの、元従業員との間でトラブルとなるおそれがあるため、期限内に提出してください。
退職の場合、社会保険の資格喪失日は退職当日ではなく、退職日の翌日です。
資格喪失日を誤らないよう、資格喪失事由ごとに資格喪失日の考え方を理解しておいてください。
有休消化がある場合における保険証の回収方法についても検討しておくとよいでしょう。
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